01
凍えるほど寒い部屋で起きるのも何百回、何千回と繰り返しただろう。薄暗いコンクリートの壁に鉄格子の付いた窓が1つと鉄のドア。雪の中にそびえ立っている塔の最上階に同じ様な部屋がたくさんあるうちの一部屋で足を擦り合わせながらもぞもぞと芋虫の様な動きをしながら今日も起きる。
外を見ると、しんしんと雪が降っていて太陽の光は当分この部屋に届きそうにない。今日も長い長い1日が始まると思っていた。
ベルが鳴ると各部屋の鉄のドアが一斉に開き廊下から研究室と書かれている部屋に向かう。最初の頃はたくさんの部屋のドアが開いていたが今は10人ほどしか部屋から出てこない。私たちはー研究対象ーというものらしく、毎日、検査と実験が行われる。
朝の研究室での検査が終わって朝食に向かおうとすると、ー博士ーに呼び止められた。
「No.006、この雪が溶けたらここから出してやる。」
この一言で私の日常が変わった。
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「もう閉館の時間ですよ。」
肩を叩かれ、いつもの様な呆れた顔を今日は年配の男性に向けられた。私に向けたこの言葉はすでに職員たちの日課になっているようだ。
「すいません。」
そう言って、本を閉じて棚に戻す。図書館の一番奥、誰も近寄らないような薄暗い棚の前にぽつんとあるテーブルと椅子に腰掛けてもう半年だ。私の1日の中で会話というものはこの行為しかなく、私にとって貴重な時間で今日も訪れたこの会話に安堵する。国一番の大きさの図書館は出口までもかなり距離がある。急ぎ足で出口まで向かっているとドンっとなにかにぶつかってしまった。
「すまない。」
頭の上から聞こえる低い声がした。急なことに顔を上げることもできず、どうしていいか身体が固まってしまう。いつも下ばかり見ながら歩いていたが、本棚にぶつかる事はあっても人にぶつかる事はなかった。
向こうからみたら長い髪の毛のせいで私の顔は鼻と口しか見えないだろう。この半年間で誰かに謝ることはあっても謝られることはなかった私には返す言葉がわからず、気づくとどうしていいかわからなくてその場から逃げ出していた。
後ろからなにか聞こえてきたがそんな余裕はなかった。
向こうからは無視したように見えただろう。
きっとそれでいい。
明日は少しだけ前を向いて歩こう。
ぶつからないように。