表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

プロローグその1 僕が死んだのは死神のせい

拙作に興味を持っていただきありがとうございます。

小説を書いた経験が殆どない素人で、色々とお見苦しい点もあるとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです。


2015/5/10

「どうやら僕は、死んだみたい…ですね」


 周囲を見回し、男…沖田智樹はポツリと呟いた。

 照明はおろか太陽さえ見えないのに、周囲は純白の光で煌々と照らされ、足元は床や地面のかわりにフワフワとした感触の白い雲。更には…。


「あれはどう見ても、天使…」


 純白の衣装を身に纏い、背中から一対の翼が伸びている美女達が次々と現れては、智樹の周りにいた年齢も性別もバラバラな人達の下へ降り立ち、なにやら声をかけている。

 こんな光景、現実ではまずありえない。仮想現実、もしくは幻覚の類とも考えたが、智樹は幻覚を見るような病気を患った覚えはないし、法に触れるような薬物を服用した事も無い。ついでに言えば今の智樹は素面だ。


「いつもだったら、もう少しうろたえるんだろうけど…あんな事の後だからなぁ」


 ここにやってくる直前に体験したある出来事が、自分の死をこうも容易く受け入れさせている。その事に智樹が苦笑していると、1人の天使が舞い降りてきた。

 肩まで伸びたしなやかな金髪に、切れ長の目。クールビューティーという表現がよく似合う美人だ。


「突然の事で驚かれたと………って、随分と冷静ですね」


「えぇ、ここに来る心当たりみたいな物はありますから…」


「それでしたら、単刀直入に…貴方は亡くなられました。死因は通り魔の持っていた牛刀で、腹部を複数回刺された事による臓器損傷と大量出血。特に2回目に刺された時の傷が致命的だったようです」


 智樹が比較的冷静である事を良い事に、ズバズバと直球を投げ込んでくる天使。もう少しマイルドな言い方はないのかよ。と思う智樹だが、向こうもこれが仕事なのだ、仕方ない。と不満を抑えこみ、一番気になっていた事を質問する。


「…あの、僕の教え子達は? ここで顔を見ていないから…無事なんですよね?」

 

「はい、軽症を負った子が1人いますが、皆さんご無事です。貴方が文字通り『死んでも通り魔にしがみつき、動きを封じたから』助かったのです」 

 

「そう…ですか。良かった…あ、いや、自分が死んだのは良くないですけど、それでも…あいつらが無事で良かった…」


 一番気になっていた事。教え子達の無事を確認し、安堵の吐息を漏らす智樹。天使はそれを見て薄く微笑みつつも、説明を続ける。


「そしてここは天界の入り口。死を迎えた者の魂が最初にやってくる場所です」


「それじゃあ、今から天国行きか地獄行きか、貴女に判定されるわけですか?」


「そういう事になります。申し遅れました。私、貴方の担当となります、アリエルと申します」


「あ、これはご丁寧に。僕…私は沖田智樹と申します」


 お手本のような優雅な動きで一礼するアリエルに、若干緊張した様子で頭を下げる智樹。


「沖田智樹さんですね………」


 手にしていたタブレットで情報を検索し始めた次の瞬間、アリエルの眉間にしわが出来た。


「……失礼ですが、『沖野』智樹さんでは?」


「いえ、『沖田』です。沖野智樹だと、僕の教え子になります。小学6年生。あ、僕は小学校の教師でした」


 死んじゃったから、元がついちゃいますね。等と言っている智樹を無視して、検索を何度もやり直すアリエル。数分の時間が流れ…。


「沖田さん、申し訳ありませんが…少しお待ち願えますか?」


 能面のような顔になったアリエルは智樹にそう告げると、ぎこちなく一礼し、背中の翼を広げ飛び去った。


「嫌な予感がするなぁ…」


 耳を澄ますとかすかに聞こえてくる『緊急事態なのよ!』『担当の死神を呼び出して! 大至急!』というアリエルの怒声に、不安を隠せない智樹。

 しかし、今の自分に何か出来るわけでもない。待てと言われたら待つしかない。そう自分に言い聞かせ、雲の上に腰を下ろしてアリエルの帰りを待つのだった。



 30分ほどして、アリエルは戻ってきた。ボコボコに殴られ簀巻きにされた黒衣の青年を肩に担いで。


「お待たせしました。この馬鹿が抵抗したので遅くなりました」


 先程と同じ能面のような顔のまま、簀巻きを投げ捨てると智樹に深々と頭を下げるアリエル。


「はぁ、あの…この簀巻きの人は…」


「死神です。正式な死神になって3ヶ月足らず。また頭に殻を被った(ひよこ)ですが…」


 投げ捨てられたままピクリとも動かない簀巻きを、まるでゴミでも見るかのように見下ろし、冷たく言い放つアリエル。


「そ、それで、その死神さんを連れてきた理由は…」 


「その事に関しましては、この(ひよこ)自身の口から…いつまで気絶したふりを続ける気ですか?」


 優しい口調で簀巻きの死神に声をかけるアリエル。その直後、簀巻きが跳ねた。


「も、申し訳ありません! 説明いたします! いたしますので、ご勘弁を!!」


 芋虫のように頭を動かしながら、アリエルに平伏する簀巻き。何があったかはわからないが、相当痛い目にあわされた事は間違いない。

 やがて、簀巻きは智樹の方を向き、頭を雲に押し付けながら、叫んだ。

 

「申し訳ございません! 貴方が死んだのは…私の手違いでございます!!」 


「………はい?」 


 簀巻きからの突然の謝罪。その予想外の内容に絶句する智樹。だが、弁明を繰り返す簀巻きがそれに気がつく事はなかった。



「なるほど…」


 簀巻きの弁明が一通り終わった所で、智樹はもたらされた情報から不要な情報を省き、必要な情報だけを集約し、分析していく。


「要するにこういう事ですか。本来、あの通り魔に襲われて死ぬのは私、『沖田』智樹ではなく、私の教え子の『沖野』智樹だった」


「…はい」


「死ぬのが私になった理由は…貴方、えっと…」


「私はエ……す、簀巻きで結構です!」


 智樹の問いに名乗ろうとする死神だったが、アリエルの氷のように冷たい視線に気づき、自らを簀巻きと呼ぶように頭を下げる。


「じゃあ、簀巻きさん。貴方がケアレスミスで名前を間違えてしまったから…これで間違いないですね?」


「は、はい! 誠に! 誠にもうしわけありませんでした!!」


「アリエルさん。こいつ殴っても良いですか?」  


「どうぞ、気が済むまで殴ってください。道具が必要なら用意いたしますが」


 言うが早いか金属バットやバールのような物からチェーンソーまで、多種多様な凶器を一瞬で用意するアリエル。それを見た簀巻きは顔面蒼白になっているが…そんな事は智樹の知った事ではない。


「私個人としては、このチェーンソーをお勧めしたいですね。沖田さんの生まれた国では、神殺しの武器と言われているとか」


「それゲームの話ですから…」


 そんな事を話しながら、一振りの木刀を手にする智樹。同時にニヤリと邪悪な笑みを浮かべ…。


「往生せいやぁぁぁっ!」


 気合と共に木刀を振り下ろした。



「アリエルさん、ありがとうございました」


 数分後、晴れやかな顔でアリエルに木刀を返す智樹。その背後には土饅頭が出来ていたりするが、誰も気にしない。 


「もうよろしいのですか? あの(ひよこ)も一応死神ですから、たとえ木っ端微塵にしたとしても復活できますよ」


「いえ、もういいです。死んでしまった事は悔しいですけど、そのおかげで教え子が死なずに済んだ…それもまた事実ですから」 


 どこかさっぱりした顔でそう言いきる智樹に、それ以上何も言えなくなるアリエル。


「さぁ! 早く判定を済ませてくれますか? 一応、地獄行きになるような罪は犯していないと思いますけど、やっぱり気になりますし!」


「あ、その事ですが…沖田さん、今回の件で私達の上司がお詫びをしたいと申しております」


「上司? それって…まさか…」


「はい、神です」


 智樹の言葉にそう断言した直後、優雅な動作で片膝を突き、頭を下げるアリエル。直後、神々しい気配と共に1人の男が姿を現した。


「沖田智樹さんですね。この度は部下が大変なご迷惑をおかけしました。そこで土饅頭になっている簀巻きに代わり、お詫びします」


 そう言って深々と頭を下げる男を呆然と見ながら、智樹はこう呟いていた。


「神様に頭下げさせちゃったよ…」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

続きも極力早く投稿したいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ