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本当(ほんとう)


 ――本当に?

 彼は、生きているの?

 だって、彼は呼びかけても返事をしないし、つねっても痛がらないし、何をしても、応えない。


 本当に、これは生きてるの?

 これは、生きてるって言うの?


 疑問が湧き上がる。だって、そうじゃないか。こんなものが生きているなんて、どうして思える。彼の家族がそう願って、偽装しているだけにしか見えない。

 だって、だって、だって……これが生きているなら、私は何なの?

 死ぬって、なんなの?

 どうやったら、死ねるの?

 私は彼に馬乗りになる。彼の胸に手を当てると、弱々しくあるけれど、鼓動を感じる。自分の胸に手を当て、比べてみる。

 ……聞こえない。

 私の胸からは、鼓動が聞こえない。

 思ったより、聞き取りづらい。

 私の鼓動よりも、彼の鼓動の方が大きく感じた。

「……で?」

 どうして、意識のある私、意識のない彼。

「……なんで?」

 でも、彼は死んでいる。死んでいるも、同然だ。同然以上に、死んでいる。

 これが生きているなんて、これで生きているなんて、言葉遊びだ。

「……死んでるんでしょ?」

 彼の胸から、彼の首へ。

 圧迫を、かけた。


 翌日、病院は蜂の巣をつついた状態になる。

 最上階の患者が死んだのだ。しかも、絞殺が一目で解る、他殺。

 不思議な感覚だった。死んでいる人が死んだだけなのに、なんで騒ぐのだろう。それともあれは生きていたのか。抵抗もなく、嫌がりもせず、動かないあれが。

 警察が病院内をうろついているが、犯人の目星はついたのだろうか。院内の犯行と判断するのか、それとも外部犯と見るのか、私はちょっと興味が沸いた。好奇心を刺激された私は、試しにどんな事になっているのか見てみたくなった。

 最上階へ行くと、彼の病室には近づくことができず、黄色いテープで立ち入り禁止と書かれている。私の他にも、娯楽に飢えていた患者が人垣を作っていた。

 すると、病室から女性の鳴き声が聞こえてくる。絶叫に近い、悲痛と鈍痛を伴う声。見っともなくはしたなく、聞き苦しいのに、野次馬根性で見に来ていた患者達も顔を逸らしてしまうような、絶望の叫び声。

「いやああああああああ!! なん、なんでっ、なんでよおおおおおお!!」

「お母さん、そろそろ……」

「いやぁ……どうし、いやああああああああああああああ!!」

 苦しかった。きつかった。痛かった。申し訳なかった。

 あんな死体でも、あの人にとっては大切な人形だったのだ。生きている人形だったのだ。

 病室から連れ出される形で、女性が出てくる。必死に手を伸ばす。離れたくない、終わらしたくない、決定させたくない、信じたくない、なかった事に、したい。

 途切れることなく流れる涙。警官に掴まれながらも伸びる手。

 もはや自分の足で立てないのか、半ば崩れる形で廊下に出てきた。

 それでも、彼を掴むために伸ばされた手だけは、真っ直ぐに。それを見て。

 生という、他人が他人に求めている姿を見て、私は――


選択肢→①解らなくなった

     ➁私にも

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