1000回、君を失う
※HPから転載
1000回、君を失う
‐999-
私は乙女ゲームをプレイした。殺戮系乙女ゲームといわれ、攻略者同士が戦い合うゲームだった。
ヒロインは戦いで勝利した攻略対象と結ばれる。何があっても。…もし、攻略していた攻略者が死んだとしても。
私には好きな人がいる。所詮ゲームの登場キャラクターであるけれども。
名前は陸羽。攻略対象の中では1番弱い。それもヘタレであり積極性がないことが原因だ。
私はヘタレという性格が嫌いだった。でも、陸羽のヘタレは応援したくなる。
だから…
ねえ、陸羽。頑張ってよ。
「……陸羽、起きてよ」
「…」
陸羽の頬に触れる。とても冷たかった。まるで生きてはいないような。
私は自分の部屋に陸羽を連れて帰った。引きずっていても何も反応はなかった。
私はまだ信じていなかった。陸羽が死んだことを。
私は自室のベッドに陸羽を寝かせる。そして唇を貪った。私は男が発情したように貪っていた。
それでも目は開かない。ヘタレの陸羽ならここで起きる。何してるんだ!って。
陸羽はヘタレで好きな女の子に手を出すことが出来ない。手をつなぐことすら自分からしてくれなかった。
「死んじゃったの、陸羽」
陸羽の服を上半身だけ脱がせて私が胸を押し付けたところで私は気付いた。
心臓の音がしないことを。ああ、だから私が何をしても目を覚まさなかったんだ。
私は悲しいと想わない。繰り返し過ぎてしまったのだ。
私が最初にこのバッドエンドを迎えたのはゲームの世界。そして今は現実の世界。
ゲームの世界で陸羽のバッドエンドを998回繰り返し私はゲームの世界にトリップした。
今回のバッドエンドで999回目。今回は私がトリップしてから初めてのバッドエンドだった。
トリップをしたら幸せになれるものじゃなかったの?
トリップしたら争いの世界でもヒロインの力で敵同士が仲良くなったりとか、ヒロインのために死ぬことはなくなったりとか。
私のトリップした世界は易しくはなかった。でも大丈夫。次もあるでしょう?1000回目で陸羽を救うわ。
*
-1000-
999回目の世界、トリップして初めての世界ではバッドエンドを迎えた。
また陸羽と幸せになれなかった。でも、また次の始まりが来た。1000回目が始まった。
999回目で陸羽が死んでから私は勝者である芽戸と結ばれた。私に拒否権なんてなかったのだ。
芽戸は陸羽の親友だった。陸羽が死んだことを悲しんでいた。敵同士なのに。
私はお互いに大切な人を失った経緯から芽戸とは仲良くできた。友達としては。恋人、夫婦としては駄目だった。
それでも芽戸は私を想ってくれた。陸羽を重ねて見ていたことも知っていた。
勝者は私を手に入れる。私が誰を好きであっても。この世界の決まりだ。
この世界は残酷だ。あのゲームを忠実に再現しているから。
好きでない人と結ばれたその先をゆっくり描いていく過程を再現する。私は早く次の始まりに行きたかったのにさせてはくれない。
「初めまして」
待ち続けた1000回目。次こそは陸羽を救ってみせる。バッドエンドには行かせない。
現実となった世界ならどんな手でも使えってみせるわ。
陸羽と1000回目の初めましてをする。早く私を好きになって、そして幸せになりましょう?
1000回目は順調だった。今までで1番といえる。1000回目で1番だ。
他の攻略対象を次々と死んだ。陸羽が殺したという訳ではなく、殺し合って。
私の前の相手だった芽戸も死んだ。私は喜んだ。999回目とは違うことに。
今度は大丈夫。陸羽と幸せになれる。私がなんだってしてあげる。
「陸羽、あとは世利だけだね」
「そうだな。俺は誰も殺してない。皆が殺し合った。
俺は逃げているだけだ。こんなんで勝てるのかな…」
陸羽は臆病だ。ヘタレだ。自分から中々戦おうとしない。だから戦闘能力もあまり高くない。
私は陸羽の応援をしているけれど頑張っていない陸羽は嫌いだ。私は陸羽に勝って欲しいのに。
残りは1人。世利だ。世利は俺様で自信家。陸羽と正反対の人だ。
戦闘能力はトップクラス。芽戸と陸羽が一緒に戦っても勝てない。
でも狡い手を使ったら?ゲームの私は選択肢という制限で正当なことしか出来なかった。
今の私は制限がなくなりなんでもできる。陸羽と組んで世利を殺すのだ。
私は甘かった。世利は強い。狡い手を使っても全然及ばなかった。
目の前で失われそうな命がある。陸羽、陸羽、陸羽…いかないで
私は最後の力で世利の前に立ち陸羽への攻撃を受けた。
2人とも驚いていて間抜けな顔をしている。私は最後に笑った。
1000回目の世界はこれで終わり。私が目を閉じる前に世界が壊れ始める。
どうやら私が死ぬことで世界は次の始まりに行くようだった。
ああ、もしかして…陸羽は死ななかったからハッピーエンドだったかな?
*
-2000-
俺はヘタレだった。過去のことだ。
俺はこれまでに1000回、愛しい人を失った。名前は天だ。
天は1000回も俺を庇って死んだ。毎回俺を天が庇うときに攻撃してくる相手は違う。
世界が天を失い次の始まりが来る。その世界は毎回変化する。
だから最初は天を救うことが出来ると思っていた。また失っても次は天が死ぬことのないハッピーエンドが来ると思っていた。
繰り返していく間に俺は変わっていた。弱い俺から強い俺になった。
最初は嫌がっていた戦闘も天のためにと特訓して天が死ぬたびに強くなっていった。
それでも天は何故かタイミング悪く死んでしまう。そのまま戦えば俺は勝てて天を失うことはなかったのに。
時には戦闘を回避した。天を監禁した。死ぬことがないようにと。
天に痛い思いを沢山した。沢山愛した。そして天は壊れて死んでしまった。
1000回の間に定期的にするようになったが監禁で天が生き続けることはなかった。
身体的には生きていた。精神的には死んでいたのだ。子供が生まれて天が老いるまで愛し続けた。
1000回目の世界では調子がいい。今のところ自分から全部の喧嘩を売って全部勝ち殺した。
後は芽戸と世利だけだ。大丈夫。今の俺なら確実に一撃でも殺せる。
俺は長い間の経験で強くなりすぎたのだ。俺に勝てる敵はいなくなった。
だから、天。俺を庇わなくていいんだよ?
END
あとがき
華○ワセやってハッピーエンド1つ、バッドエンド6つということで最近の乙女ゲーは私の好みに近づいてます。
私は最初にハッピーエンドをやって最後に楽しみのバッドエンドをやる派。
乙女ゲーが舞台の小説を読もう増えて読んでて楽しいです。私もやりたいと思ったけど連載は無理だ。挫折するから。
小話
*芽戸と天 ループの話
「勝ったのが陸羽の親友の芽戸で良かった」
「陸羽のことはつらかったですよね」
「うん。でも、また会えるから」
「死んだら会えませんよ?」
「死んだら会えるでしょ?」
「天さんの言っている会うを実行するならば、
俺は全力で止めますよ」
「無理だよ。出来っこない」
だって芽戸は覚えていないもの
*天と世利 バッドエンド後
「私は世利を好きになれない。ごめんね」
「勝者のものにお前はなる。つまり俺のものだろ」
「そうだとしても、私は陸羽を想い続けるの」
「……惚れ直した。俺とお前は友達だ。特別の友達だ
俺の恋人じゃなくて友達になってくれるか?」
「永遠のお友達になってあげるわ」
*天と世利 バッドエンド後
「最近、親に結婚しろって言われないか?」
「あるけど相手がいないから返事できない」
「俺と仮面夫婦してみないか?友よ」
「30になって結婚してたらお願いするかも」
「それなら30までに資金を溜めておこう」
「忘れてるよ。世利が30までに誰かと結婚してる可能性」
「それはないな。天だったらあり得るがな」
「ふふ、変な冗談」
*天と陸羽 戦闘
「あの鬼畜眼鏡どうするの、陸羽」
「あのさ、鬼畜眼鏡って誰だ?」
「札使いの胡散臭い僧職系男子生徒よ」
「分かった。でも、俺…武器はこの野球バッドだけなんだ」
「あっちは技を使えるよ」
「あんな反則技使えないって。本当に人間なのかな」
「……陸羽以外はその反則技皆使えるよ」
「俺、なんで戦ってるのかな」
「さあ」
*天と陸羽 怪我
「大怪我しちゃったな
天、怪我大丈夫か?」
「私は全然大丈夫だよ
陸羽が庇ってくれたから」
「そうか。それなら良かった」
「私を庇って死なないでよ?」
「…それは約束出来ないな」
「もう…。早く、怪我した太もも出して」
「ここでか?」
「大量出血死したくないなら出して」
「出した…ってなんで舐めてるんだ」
「私の能力は回復だから舐めたら治るの」
「汚いからせめて水で洗ってからにしろよ」
「陸羽なら全然汚くないよ」
「汚いって。それと恥ずかしいから早く終わらせてくれ」
「……あと一時間」
「…っ、ゆっくり舐めるのはもっとやめろ…!」
*天と陸羽 壁ドン
「校舎裏に呼び出して何のよう?」
「壁ドンして」
「壁ドンって何だか知らないだけど」
「こんな感じ?」
「…近過ぎるんだけど」
「ドキドキする?」
「する。するから離れてくれ…」
「じゃあ今度は陸羽の番。私にやってよ」
「…出来るか!」
「陸羽のヘタレ!」
*天と陸羽 ハッピーエンド?
「他の皆、殺しちゃったね
私びっくりしちゃった。陸羽ってこんなに強かったんだね」
「……頑張ったからな」
「…本当に陸羽なの?」
「なんでそんなこと聞くんだ」
「陸羽は能力なしだしそんなに強くない。
ヘタレで自分から攻撃するような人じゃない
私、疑ってるんだ。ここにいるのは陸羽の偽物じゃないかって」
「どうしてそんな目で俺を見るんだよ」
「陸羽。本物の陸羽は何処なの?
貴方のような自信がある人は陸羽じゃないの。陸羽を返して…!」
「…っ、危ないな」
「戦闘系の能力はないけれどやり直すために貴方を殺す……あ、あ、…痛、痛…い」
「俺を攻撃する手なんて要らないだろ」
「やっぱり貴方は陸羽じゃないのね。早く殺して…」
「俺は陸羽だよ。本物の。折角ハッピーエンドを迎えたんだ。
一緒に帰ろう、天」
「刺された手が痛い、痛いよ」
「手ぐらい使えなくなったっていいだろ
俺にとっては要らないから使えなくなればいい」
「陸羽、陸羽、陸羽…どこ」
「1000回天を失ってやっとハッピーエンドか
今度こそ上手くやろう」
そして彼にとってのハッピーエンドを迎える。彼女にとってのハッピーエンドは来ることはもうない。
登場人物
<天>
自分の持っているゲームだけ陸羽のエンドがバッドエンドにしか行かないというバグに襲われた少女。
陸羽のことを恋愛感情で好きというよりも自分を庇ったりして死なせてしまったことによる同情愛。
1000回目で死んだ後は1001、1002回と相変わらず繰り返しているが死ぬと記憶は引き継がれない。
そのため1999回目でも1000回目が終わった次の回、1001回目だと思っている。
<陸羽>
ヘタレだったが天を1000回失って最強になる。時には天を監禁する。
999回自分が死んだことを知らない。最初は自信がなかったが今は自信家で嫉妬深い。
芽戸とは親友。最初の方では芽戸と戦うのを戸惑っていたが今は戸惑わない。
<芽戸>
陸羽の親友。天を愛していて騙している。陸羽とは親友もどき。裏では陸羽が天と離れ離れになるのを笑う。
天と結ばれた回では天と体の関係は持たず精神状態が不安定の天を支えていた。実はいい人。1番いい人。
<世利>
俺様系で自信家。最初の陸羽と正反対。
天が欲しくて堪らない。天が陸羽と一緒にいるのを気に入らない。陸羽を見下している。
天と結ばれた回では陸羽を想い続けている天に改めて惚れてしまい、天を友達として大事にする。いい人。2番目ぐらいにいい人。