8. 第1章その8 不思議な生き物
毎日の修行(ミューのための狩り含む)で、将の体は引締まった細マッチョ体型になり、精神的にも狩りを続ける事で強くなっていた。
さすがに魚だけではミューが可哀そうに思えウサギなどの小動物を捕まえて食べさせていた。当然、絞めたり血抜きなど、現代人ではあまりやらない作業をカゼールから教えてもらう事でグロ耐性もついてきた。
実は元々医者志望であった将は、血などにはあまり忌避感はなかった。
午前中の修行が一段落して少し休憩していた。
「ふぅー、最近、師匠の打込み、ちょっと鋭すぎるよなぁ、怪我したらどうすんだよ。」
とぶつぶつ言っていると、ミューが近づいてきた。
「ミュー、ミュー」
おまえだけだよ、俺の癒しはー。
とヒシと抱きつき、フカフカを楽しむ。
『ショウ、くるしい。』
「えっ。」
将は周りを見るが誰もいない。
「気のせい、 かな?」
『ショウ、ミューだよ。』
「なにー!!、ミューしゃべれるの。」
『まだ、むずかしいこと判らない。ミュー、ショウのことば聞いて覚えた。』
(こ、これ、どういう事だ。だって鳥だよね。鳥が喋ってるよ。異世界だから?)
カゼールが将に近づき。
「おぅい、そろそろ再開するぞ、この後は魔法の訓練じゃの。」
「いや、師匠、しゃべった。」
「そりゃワシはしゃべるが。」
「そうじゃなくて、ミューがしゃべった。」
「そうなのか?」
ミューを見ると
「ミュー、ミュー。」
といつもの鳴き声で答えた。
「確かに可愛くしゃべるのぅ。わかったから、訓練をするぞ。」
その頃にはかなりのバリエーションの魔法を教えてもらっていた。
神聖魔法はいきなり“エクストラヒール”を教えられたが、あとから通常の“ヒール”、そのヒールを範囲効果にする“エリアヒール”など、治癒系の魔法を特に熱心に教わったのは、医者志望だった事も要因なのだろう。
治療に関して言えば、その他に薬草の見分け方、効能、製薬方法なども教わり、難しい部分はカゼールにもらった紙に書いておいた。
この世界では紙はそれなりに普及しているそうである事も教わった。カゼール自身はほとんど記憶しているため本もあまり持っていないという事だった。
さて、ミューがしゃべった問題だが、夜になりミューと2人になった時に話そうと思っていたが、日が落ちるとすぐに寝るミューとはその日話す事はできなかった。
なので、まじまじとミューを観察してみた。
羽化してから1月ぐらいたったので、大きさは生まれた時の2倍30㎝弱ぐらいになっている。羽のふさふさ感はかわらない。ただ、全体的に縦長になった感じがする。足は前にカゼールが指摘した通り少し太く、足先は鉤爪。クチバシは、うーん、形はゆるやかな三角形っぽいが、どうなんだろ。
やっぱり、鳥にしか見えない。
次の日、朝一でミューに話しかけてみた。
「ミュー、おはよう。」
『ショウ、おはよう。』
「おっ、やっぱり喋れるじゃないか。なんでカゼールに話さなかったんだ?」
『ミュー、ショウだけ、好き。』
「え?」
『ショウだけ。ミュー、ショウだけ。』
(これが刷り込みというやつだろうか)
要するにミューは、将以外に興味がないため、カゼールと話す気にならないのだ。
「まあ、いいか、別に困るわけじゃないしな。ミューと喋れてうれしいよ。」
『ミューもうれしい。ショウ大好き。』
(なごむわぁ。)
将は、さらに狩りに気合が入る様になり、ミューは魚も肉も好きな事がわかったので、バランス良く色々採ってくるのであった。
カゼールとの修行は、この頃になると魔法による試合なども行う様になり、属性魔法の相反する魔法による相殺の仕方、同じ魔法の威力による相殺などを取り入れ、実戦に近いものになっていた。
「なかなか、やる様になったのぅ。」
「えっ、今褒めました。」
嬉しそうに、将が確認する。
「調子にのるな。じゃが、当り前じゃが、初めて会った頃に比べれば段違いの進歩じゃ。最近、人里に行っておらんから一般人のレベルはわからんので比べることはできんが、今なら普通の森で暮らしても死んでしまう事はないじゃろ。」
確かに、狩りの仕方や薬草などの治療方法、それに魔法を覚えた事でたいていの事は一人で出来る様になっていた。
「そろそろ、かのぅ。」
カゼールは、寂しげにつぶやいた。
「今日は、この後の修行は無しじゃ。少し家の中で話がある。」