65. 第3章その29 油断大敵
次の日も将は新しく覚えた魔法の訓練にいそしんでいた。
順番通り、今日は“ボルケーノ”を試してみる。
昨日の訓練ですっかり土がむき出しになっている場所を選び、マグマが湧き出るイメージで魔法を唱えた。
「ボルケーノ!!」
考えていた場所が中心から赤黒いマグマに変化をして、半径10mほどが徐々に赤黒い液体に変化する。
さすがにどのくらいの深さかは確かめることはできないが、流動する様子から数10cmは変化している様に見えた。
「うーん、範囲的には十分広いけど、この変化速度だと素早い魔物なら逃げられるなぁ。」
しばらく、考えていると地面は徐々に赤みを無くし黒く動かなくなっていった。
そんな様子を見ながら、ふと思いつく。
「そうだ、外周から変化させれば逃げにくいだろう。」
ぶつぶつ独り言を言いながら訓練を継続する。
「ボルケーノ!!」
先ほどと同じ場所を外周からマグマが湧き出るイメージで魔法を唱えると意図したとおりの結果になった。
(よし、この方が効果的なはずだ。
後は変化スピードを上げるように訓練しよう。)
昼過ぎまで訓練することで、最初の倍以上の速度でマグマが発生するまでになった。
(これなら実戦にも使用できそうだ。)
という感触が得られたので、昨日と同じく“ウォーターウォール”で入念に後を冷やして、しばらく休んでから次の魔法訓練に移った。
次の魔法“ウルティメイトフリーズ”は対象があった方が良いだろうと考え、近くの林に移動する。
目標を1本の樹木に定めて、魔法を放つ。
“ウルティメイトフリーズ!!”
結果は・・・。
変化無しだった。
「あれ、おっかしーなー。」
イメージは分子運動の停止だった。
それ自体は間違っているとは思えない。
(距離がいけないのかなぁ)
と考え、徐々に樹木まで移動しながら数回唱えるが、いずれも不発だった。
ついに樹木に手をついて魔法を唱えた。
“ウルティメイトフリーズ”
果たして、幹は“キン”という音とともに凍りついた。
その一瞬後。
「痛ってぇぇーーー!!」
将の絶叫が響き渡る。
当たり前だが、超零下の物質に手を触れることになったので手が幹に張り付き、冷たいというより痛みが手のひら全体に走った。
泣きながら幹を剣で叩くと、凍った部分は砕け散り、手が自由になる。
同時に樹木が自分の方に倒れかかってきたので、あわてて避ける。
「いったー、あぶなー。」
目に涙をためながら、手のひらを腋の下に入れて暖めると徐々に感覚が戻ってきた。
「あらー、面白いことしてるわねー。」
その声に、びっくりして後ろを振り返る。
びっくりしたのは、気配が全く感じなかったのと、あきらかに妙な裏声だったためだ。
「最近、このあたりの精霊ちゃんが騒がしいと思ったら、お兄さんが怖いことしてたからなのねぇ。」
にっこりしながら、その人は一人で話し続けた。
将の目に映ったのは、元の世界で新宿二丁目にたくさんいそうな、女性的な雰囲気を醸し出しつつも筋骨隆々の長身マッチョだった。
顔のパーツ一つ一つは素晴らしく整っているのだが、位置と顔の大きさがアンバランスで、髪の毛はプラチナブロンドのサラサラした長髪の男性が短めのローブをまとっていた。
突然現れた驚きと、容姿の特殊さに呆気にとられて言葉がでない。
「お兄さん、もうやめちゃうの?
面白そうだからもっと続けてよー。
わ・た・し、あなたを見てみたいの。」
将の背中に冷たい衝撃が走る。
アゴがガタガタ震え、身動きがとれない。
相手への今まで感じたことのない恐怖で、すくんでしまったのだ。
「どうしたの、ウブネェ。
そんなに私を見つめたって、会ったばかりじゃあダ・メ・よ。」
さらなる危険を感じながらも、事態の打開を図るため、将は勇気を振り絞った。
「あなたは誰ですか?」
「あらー、ごめんなさいね、名乗ってなかったわね。
私は“サブリナ”って呼ばれてるわ。
本名は、ひ・み・つ。
冒険者ギルドに所属している腕利きの冒険者よ。
これでも、エロフじゃなくてぇ、エルフちゃんなのよぉ。
だから精霊ちゃんの動揺がわかって、来てみたらお兄さんが居たってわけ。」
(な・ん・だ・と)
将の中でエルフといえば、長身で痩身、美形で長髪、耳がツンとしている、という某○輪物語のイメージだったのに、目の前の残念なマッチョがエルフだと。
今までの恐怖心が吹き飛び、不条理な怒りが湧き起こる。
そのとき、一陣の風が吹き彼女?の髪をたなびかせる。
「きゃっ」
彼?は、短めのローブがまくり上がらない様に押さえるが、誰が見るのだろうか。
ただ、その瞬間、耳があらわになり、エルフの特徴が見て取れた。
「えっちー、み・た・わね(ハート)」
サブリナ(自称)が、たわ言を続ける。




