5. 第1章その5 生き残るために必要なこと
「さて、ショウは生き残るのに大事な事はなんだと思う?」
「うーん、強くなる事、、かな?」
「違うな、いくら強くなってもそれよりも強い者が現れたり、運が悪けば死んでしまう。」
「じゃあ、どうすれば?」
「戦わない事じゃ。」
「まあ、それはそうですね。」
「大事な事じゃよ。
それは、別としてもう一つはいかに体調を維持するか、もある。
今日は緊急手段として回復魔法を教える。」
「おぉ、出来るのかなぁ。」
「いくつか方法があるが、まず水属性を利用した治癒じゃ。」
そう言うとカゼールはナイフで軽く自分の手の平を傷つけた。
そこから血が流れる。
「治癒の基本はあるべき姿に戻す事じゃ。今、ワシの血管は切れあるべき血の流れが損なわれている。これを戻すイメージを持ち。。。」
カゼールは傷を見つめて呪文を唱える。
「ヒール」
声と共に瞬く間に傷が癒えた。
「水属性の低レベルな治癒は、失った血液までは回復しない。お主がより強い魔力を持つまでは高レベルの治癒は無理じゃな。
それでも、治癒魔法は役立つから無駄にはならん。修行のメニューに加えるぞ。」
(メニューはいいけどできるのか?)
将は疑問に思った。
「ちょっとかわいそうじゃが練習はこれでやるぞ。」
そう言ってカゼールは近くの花の茎を手折る。
「この花の茎を元に戻すのが、今はちょうど良い練習になるはずじゃ。後で属性魔法の訓練もするから10回ほどやってみろ。」
将は茎の元の状態をイメージし、茎の中の維管束が真直ぐになり細胞が水で満たされる状態をイメージした。
「ヒール」
そう唱えると、茎が元に戻り心なしか花がつややかになった様に見えた。
「素晴らしい。見事じゃ。続けて練習しなさい。」
「わかりました。」
カゼールは将の魔法習得が一般からかけ離れている事を本人には話さない。特に水属性での回復魔法は、いわゆる攻撃魔法中位レベルの習得者でないと行えないのである。
将が元の世界の科学知識によりイメージする力が桁外れである事に気付いたため、ダメ元で教えてみたのだが、あっさりと習得され実はかなり驚愕していた。
一月半ほど修行を行い一連の訓練を楽にこなせる様になった。その頃にはもう魔力測定を行わなくなっていた。これは、魔力が一般的な魔法を使用するのに十分な量になってきた事と、測定石そのものが100までしか測定できないため測定不能になったからである。
「今日は、神聖魔法と言われる魔法に関して訓練を行う。
神聖魔法とは、この世の全ての物質に宿る魂とも言うべきエネルギー、”マナ”と呼ばれる力を集めて利用する魔法じゃ、神聖術と言われる事もある。
マナの利用できる範囲は、その感応力に関連し能力しだいじゃ。1度マナを利用すると、通常その範囲は1/4日は元に戻らん。ただし、土地の場所に依存し、神界との界面に近い土地、これをホットスポットと呼ぶが、そう言った場所ではすぐにマナは回復する。もちろんホットスポットも強い場所と弱い場所がある。
基本的にはホットスポットには神殿が建っているからわかりやすいぞ。」
夜の勉強会でならっていたのは、ここが世界(人界)、魔界、精霊界、神界の4つで構成されていてそれがそれぞれ干渉しあっている事。世界と魔界との境界は厚いがゲートと呼ばれる逆ホットスポット的な場所があり、そこから魔族や強力な魔獣、魔力そのものが流れ込み魔力に侵された動物が魔物に変異するなどが起こりゲートのある地域は人外魔境と呼ばれ忌避されている。
神界と世界は直接関わりを持たないが、今の説明の通り、境界の薄い地域がホットスポットとなり強力なマナが存在している。
「マナに関して、ある者はエレメントとも呼ぶ。今日はまずマナを感じる訓練じゃ。
これは、本当に資質による部分が多くマナを感じる事ができるのは人間では極一部になる。だから感じられなかったと言って悲観することは何もないぞ。」
いきなりダメ方向から言われたため、将はちょっとムッとしながら
「どうすれば感じられるんですか?」
「考ええてもだめじゃ。ただただ感じるのじゃ。そうだの、自然と自分とが一体化し、自分のオーラの様に外のマナを捉えるのじゃ。」
考えてもダメ、と言いつつかなり具体的なアドバイスをもらったので、将はかなり気が楽になりスッと体の力が抜け、途端に周りの森の音が鮮明に聞こえる様になった。心地よさに目を閉じ、さらに立ちながら、まどろんでいる様な状態になった。
そうして、しばらくすると。
「ふふふ、ふふふ、ふふふ。」
と女の子の笑い声の様な音が聞こえ、驚いて目を開ける。
「どうしたのじゃ。何か感じられたのか?」
「いや、女の子の声が。。。 しませんでした?」
「ああ、それはたぶん風の精霊の声じゃな。良かったなお主、どうやらマナを感じる才能があった様じゃの。
精霊は、強いマナそのものが意志を持ち仮の実体を持った状態じゃ。要するにマナの塊だからそれを感じられるという事は、マナを感じる事が可能なはずじゃ。周りの弱いマナも感じる様に感覚を研ぎ澄ましてみろ。」
そう言われ、さらに続けると目を閉じているのに、周りがぼんやり見えている様な感覚に囚われた。
「師匠、感じられたかも。」
「そうか、これは本当に感じられたか否かは本人にしかわからんからの、とりあえず今までの訓練に加えてマナ感応も鍛えるんじゃな。」
スパルタな修行は止まることがなかった。