54. 第3章その18 物件探訪
「それにしても、今日一日でずいぶんお金が貯まったなぁ。」
「そうだな、それにしても明日から宿はどうする?」
「えっ?」
「え、じゃない。
今の宿は今晩一泊までしか予約してない。」
「ああ、そういえばそうか。
お金的には今日貯まったお金で、しばらく今のまま泊まれるけど無駄遣いかな。」
「うーむ。
無駄遣いとまでは言わないが、さすがに一月宿泊っていうのは贅沢ではないかな。」
「確かにな。
ここには長期滞在用の宿泊施設とかはあるのかな?」
将としてはウィークリーマンション的なイメージをしていた。
「ああ、一月という形で貸出しているかはわからんが貸住宅はあるはずだ。
不動産屋に行ってみるか?」
(あるんだ、不動産屋)
「行きたいな。
ちょっと興味ある。」
まだ夕食までは時間があったので、そのまま不動産屋へ向かった。
「いらっしゃいませー。」
とても丁寧な挨拶と眩いばかりの営業スマイルで迎えられた。
「どのようなご用件でしょうか?
当店ではアパートメントから城まで各種物件を取り揃えております。」
(城まで売ってるんだ)
「3人ぐらいが暮らせる物件で1ヶ月ぐらいの短期で貸している物件はありますか?」
「短期の貸し物件ですか。
うーん1ヶ月となるとちょっと難しいですね。
6ヵ月の物件ならありますが。」
「半年はちょっと長いなぁ。
でも、ちなみにどのくらいの価格なんですか?」
「半年ですといくつか物件があるので広さなど条件で変わりますが、半年の費用で150~350シュケルスですね。」
(今泊まっている宿が20シュケルス/日だから10日分で半年生活できるじゃないか。今どんだけ贅沢してたんだ…。)
何気に軽く落ち込む将。
それをみて、価格が満足できないのかと深読みした店員がさらに続ける。
「短期貸し出しはどうしても割高になってしまうんですよ。
購入でしたら戸建でも3,000シュケルス程度から物件がありますよ。
城からは離れた区画にはなりますが王都ですし、今後の資産価値も十分見込めます、いかがですか?」
「いや、購入までは考えてませんので、先ほどの半年の物件に関して詳細を教えてもらえますか?」
店員は、5件ほどの物件説明をした。
将はその中では一番高額な350シュケルスの物件が良さそうに思えた。
その物件は5階建てのアパートメントの4,5階部分で、少々広く4LDKのメゾネットタイプで屋上も使え、5階の1室は換気口もついている。
どうやら家主の薬師が調剤部屋として使用していたらしい。
「なあ、シルフィ。」
「なんだ。」
「ここ、良さそうだと思うのだけど。」
「そうだな、見に行くか。
実際に物件を見る事は可能か?」
「もちろんです。
今から行くのでしたら、私がご案内しますよ。」
「ああ、頼む。」
3人で物件まで移動する。
場所は、中心地からは離れた場所だったが官吏などが多く居住しているらしく、静かな高級アパートメントといった感だ。
家主は、もともと王宮勤めの薬師なのだが、地方都市に長期の赴任を命ぜられたので買ったばかりの住居をやむなく長期貸出したばかりとの事だった。
中に入ると家具も揃っており、壊しさえしなければ自由に使用して良いとの事。
将もシルフィも気に入り、このまま宿に長期宿泊するぐらいなら借りてしまおうと意見が一致したがエミリアの意見も確認してからとなり、店員には明日もう一度来店してその場で契約するか否かを決めると伝えた。
「はい、問題ありません。
明日まではこの物件をキープしておきますね。
ご来店をお待ちしております。」
その頃には日もだいぶ傾いており、2人はそこから直接宿に帰って行った。




