49. 第3章その13 帰還
ふと将が横を見ると、シルフィが滂沱の観を呈していた。
よほど残念だったのだろう、その様子を見てだんだん冷静になる将。
「ミューだって、親に育てられた方が良いはずだ。
俺たちは自分にできる事をしよう。
まずは、レッサードラゴンの魔石や素材になりそうな部位を取ろう。」
ダメージの残っているシルフィはしばらく休ませて、エミリアと将でセッセと皮を剥いだり、大きな魔石を取り出したり、牙をとったりと作業を続ける。
体を動かしていた方が、色々考えないで済むので、将は黙々と作業を行った。
しばらくすると、気分も良くなったのかシルフィも加わって、素材を採取した。
持っていたバックパックや、魔法の小袋に詰められるだけ素材を詰めると作業を終えた。
「さて、これからどうしようか。」
「一度…町に戻らない?」
エミリアが控えめに提案する。
「そうだな、俺も異論はない。
シルフィもそれでいいか?」
「ああ。」
3人は、来た道を引き返し、まずは開拓村に向かった。
途中で、野営などをしながら進んだが、魔物が現れなかった。
どうやら、レッサードラゴンの匂いが強く染みついていたため、他の魔物は警戒して近づかなかった様である事を後で気づいた。
開拓村に戻り、一度宿泊施設に入る。
すると目ざとくタマラが将達を見つけて駆け寄ってきた。
「あら、ショウ君達帰ってきたの。
良かったわ、3人とも無事で。
変わった事はなかった?
えっ、なんだってレッサードラゴン!! そんな恐ろしい魔物がいたのかい。
本当に無事で良かったよ。
若いからって無茶したらいけないよ。
レッサーって言ったってドラゴンだろ、私だったら見ただけで気絶しちまうよ。」
なぜか、タマラのマシンガントークにホッとしてしまう。
「そうですね、今回無事だったのは、たまたま運が良かっただけです。
一度、街に戻って色々、またここに来て鍛えるか、他の仕事をするかなど考えます。」
「うんうん、若いんだから焦らずゆっくり頑張るんだよ。
命は一つしかないんだからね、短気は損気さね。
今夜は、私がその珍しい竜の肉で美味しいシチューでも作ってあげるからね。」
そういうと、タマラは、将から受け取った肉を持って料理をしにいった。
「ふぅ、なんだか気が抜けてしまったな。
帰りは、魔物が現れなくて本当に良かった。」
「そうだな、でもまだ王都までは距離があるから。
今晩、ゆっくり休んだら、気を引き締めて王都まで戻るぞ。」
「そうね。
王都でゆっくりお風呂に入るまでは、がんばるわ。」
3人で雑談をしながら、しばらく待っていると夕食の準備ができた様である。
「ほーら、美味しくできたわよ。」
タマラが豪快にテーブルへ鍋を直置きした。
「お玉と、お椀を置くから好きなように取ってお食べなさい。」
お腹が減ったので、将は真っ先にシチューをお椀に取ると食べ始めた。
お肉は、鳥の胸肉といった感じで、若干硬いが噛みごたえがあって美味しかった。
シルフィとエミリーも遠慮なく食べている。
タマラは、3人の様子を見て嬉しそうに微笑んでいた。
次の日の朝、タマラに礼を言って開拓村を出て王都へと向かった。
帰りは、道もわかっていたのでスムーズに大きな街道まで出て、何事も無く王都に戻る事ができた。
「さて、じゃあギルドに報告に行くか。」
「ちょっと待って。」
エミリーは、将がギルドに行こうとするのを止める。
「どうした?」
「あのね、私達ってまだCクラスとDクラスのパーティでしょ。」
「そうだな。」
「だから、レッサードラゴンの魔石なんかを提出しているのを見られたら悪目立ちすると思うの。」
「ああ、確かにそうかもしれないな。」
「うん、報酬もかなり多めだと思うし、今日のところは宿に泊まって、明日の朝早くに報告した方が、冒険者の数も少ないし目立たないと思うわ。」
「エミリーの言うとおりだな。
しかし、本当に良く気が付くな、ありがとう。」
「じゃあ、お礼として今日のお泊りは、また『荒鷲の止まり木亭』って事でよろしくね。」




