46. 第3章その10 レッサードラゴン
レッサードラゴンは、泉に顔を突っ込み、水を飲みだした。
「逃げるか?」
小さな声で二人に聞くと
「今、下手に動くと音で気づかれる可能性が高いわ。
立ち去るまで待ちましょう。」
エミリーが、ひそひそ声で答える。
“ゴフッ、ガシュッ”と異音を出しながら水を飲み、満足したのか首を上げて周囲を睥睨する。
その様子を見て、ミューが思わず
「ピッ」
と鳴いてしまった。
レッサードラゴンの視線がこちらに向き、圧倒的なプレッシャーが押し寄せる。
「ゴァアアアアアー!!」
衝撃音の様な方向をこちらにはなし、ドシュドシュと近づいてきた。
明らかに、対象を認識して攻撃する態勢を取っている。
将は、とっさに自分が唱えられる威力の高い魔法を唱えた。
「エクスプロージョン!!」
レッサードラゴンの前に1mほどの爆発が生じ、前進が一瞬止まるが、首を振ると何事も無かったかのように息を吐く。
“プシュー”
そして、さらにショウの方を見ると咆哮と伴に炎のブレスを放った。
“シュアーーーーーー!!”
まだ、距離が遠かった事もあり炎は届かなかったが熱気だけで火傷をしそうだった。
シルフィは、レッサードラゴンの横に回り込む様に移動する。
将は、それを見て気づかれない様にさらに魔法を放つ。
「サンダースピア!!」
高く上げた右の手のひらを中心に直径15㎝、長さ2mほどの雷が生じ、それを放つ。
さすがに狙いを外さず、レッサードラゴンの腹に命中すると。
“ドガッ、ブシュー”
という激しい衝撃音がして、少しだけ後ろに下がった。
しかし、ほんの少し黒くなっているのだが、皮に電気を散らす効果があるのか、全くといっていいほど動きに変化が無い。
サンダースピアが着弾した直後、シルフィがレッサードラゴンの右腕に切りかかった。
ズン、という力強い手ごたえを感じたが、まるで刃が通らない。
レッサードラゴンが、うるさげに右腕を動かすと、シルフィは弾けとんだ。
魔法がほとんど効果を示さない事から、将は接近戦を選び、シルフィと反対の左腕に風の属性を纏わせた剣で切りかかる。
“ドシュッ”
少しだけ切り裂かれ、痛みを感じたのかレッサードラゴンが
「ギュオーォォ」
と叫びを上げて、将に噛みつこうと口を開けて襲い掛かる。
急いでバックステップして、それを避けるが眼前で閉じられる牙と口に恐怖で身がすくむ。
シルフィは、右足に剣を突き刺すと少しだけ手ごたえがあり、皮に僅かに傷がついた。
レッサードラゴンは、わずかに足を動かすと、そのまま反転する様に尻尾で将とシルフィを薙ぎ払った。
将はバックステップして躱そうとしたが、少しだけ尾の先に当たりその衝撃で吹き飛ばされる。
シルフィは、剣が刺さっていたため、上手く避けられず、まともに当たってしまったが近かった分、押し倒されるだけで済んでいた。
レッサードラゴンは、将の方が危険と判断したのか、倒れた将に狙いを定めてブレスを放つ態勢をとった。
(まずい、避けられない。)
将は、マントを自分の前に掲げ炎のダメージを少なくしようとした。
ブレスが放たれようとするその時、ミューが超高音の鳴き声を出した。
「キュイィィィィィィィーーーーー!!」
その声を聴いた瞬間、レッサードラゴンの動きが停止する。
停止したわけはわからなかったが、将はその隙に正面から移動してレッサードラゴンの左側に回り込む。
シルフィも立ち上がって、その反対側で構えをとった。
それを待っていたとも思えないが、二人が窮地を脱した後、少しだけ不思議そうに頭を振ると、レッサードラゴンは再度攻撃を始めた。
シルフィと将は、左右から、将が狙われた時はシルフィが攻撃、シルフィが狙われた時は将が攻撃を繰り返し少しずつダメージを加えていったが、レッサードラゴンは疲れた様子は全く見せずに左右に攻撃を繰り返す。
(このままでは、いつか攻撃を受けてしまう。)
将は、焦りながらも攻撃を繰り返すが、妙案は浮かばない。
「くそっ、どうしたらいい。」
しばらくすると、ついに均衡が破れた。
シルフィはレッサードラゴンの右側に攻撃をしていたのだが、右腕をレッサードラゴンが払うように素早く動かすと、シルフィが一瞬反応が遅れて肩に爪が当たり、血を吹き出しながら吹き飛ばされた。
それを見たエミリーがヒールをかけに近づく。
レッサードラゴンは、周囲の敵が将だけになり、雄叫びを上げて襲い掛かった。
”ガキィーーン“
レッサードラゴンの牙とミスリルソードの撃音が響く。
左右からの攻撃と、牙、尻尾と連続で攻撃され、将は防戦一方となり、ついに尾の攻撃に弾き飛ばされ、背中から岩に激突し、衝撃で目が眩む。
(今、気を失ったら全滅をしてしまう)
将は、気力を振り絞って、衝撃に耐えるが、体が思うように動かない。
レッサードラゴンは、好機とばかりに将へ近づく。




