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37. 第3章その1 荒鷲の飛翔

 3人になって、エミリーが会話を切り出す。

「さあ、まずは宿泊先を決めましょ。

 以前泊まった『荒鷲の止まり木亭』に空き室があるか聞いてみましょう。」

「ああ、あそこはいいな、風呂が大きくて気持ち良かった。」

「そのぶんお値段は高いけど仕方がないわ。空いていればいいけど。」

「なかなか良さそうな宿屋なんだな、楽しみだ。」


 その宿屋までの道中の事。

「あっそこのお兄さん。あのさ、この先にある『ドレイク』っていう武器屋さん、どのあたりにあるか知ってる?」

 知らないおじさんに道を尋ねられる。

「いえ、すいません。この街に来るの初めてなもので。」

「へぇ、そうなのかい、わかった。呼び止めてすまなかったな。」


 さらにしばらく歩いていると。

「あのー、おまえさん、おまえさん。すまないがこの近くの病院の場所を教えてくれないかね?」

 今度はおばあちゃんが道を尋ねてくる。

「おばあちゃん、ごめんね。僕、この街初めてなんだ。」

「ほぉそうかね。いやいいんじゃよ、誰かに聞くからの。」


「ショウ、あなたずいぶん人気があるのね。」

 エミリアがからかってくる。

「はいはい。俺は昔から、なぜか道を聞かれる事が多いんだよなぁ。

 宗教の勧誘とかも良く受けたし。」

「ふーん、そうなの。

 まあ、確かに分る気がするわ。」

「えっ、なんでかな?」

「ひとつは、教えてくれそうな感じがする。

 もう一つは、いやな顔しなさそうな気がする。」


「なんか今一つ具体性にかけるねぇ。」

「でも、そんなものじゃない。知らない人に声かけて何か聞こうとする時って。」

「まあなぁ。」


 そんな事を話ながら、エミリアが先導して歩いていると目的地に到着した。

 その宿は、城近くの大通り沿いに面したところに建っており、宿というより高級ホテルといった風情だった。

「おいおい、ここかよ。さすがにちょっと贅沢なんじゃないか?」

 将が意見を言うと。

「ここのところ安宿と野営だったからな、悪いが少し綺麗にしたいんだ。」

 珍しくシルフェディアが反論する。


(確かに女の子だもんな、気付かなかった。)

「ああ、そうか。確かに俺も風呂で汗を流せれば嬉しいな。

 仕事も終わった事だし、ここにしよう。」

「ありがとう。それに、ここに泊まるのはそれほど長くしないつもりだ。

 その後をどうするかも、ここで相談しよう。」


 エミリアがフロントで空き室を確認していると、希望通りの部屋が取れない様だった。

「まいったわ、シングルとツイン、ダブルの部屋は全て満室だそうなのよ。どうやらどこかの貴族の随行員が団体で宿泊している様なの。

 3人1室の部屋なら空いていると言われてしまったのだけど、シルフィはそれで良い?」

「ああ、かまわないが。」

「えっいいの?」

 将が逆に驚く。

「別に問題ないだろ。たまたま今まではなかったが、これから仕事をしていれば野営で同じテントに寝る事だってあるだろうからな。

 あたり前のマナーさえ守ってくれれば問題ない。」

「そうね、これからまた宿を探すにも時間もないし、将が良ければ私も良いわ。」

「あっ…ああ、もちろん問題ない。」


 エミリアは、すぐにフロントに戻って手続きをした様だ。

 将とシルフィを呼び、ギルドカードの提示をさせる。

 その後、フロントの担当が鍵をエミリアに渡した。


「さあ、じゃあ部屋に行きましょう。部屋代は、本当は25シュケルスのところを、希望通りの部屋じゃないからって20シュケルスにオマケしてもらえたわ。」

「え、1泊だいたい7シュケルス。。。やっぱり高いなー。」

「何言ってるの、ここシングルだと1泊10シュケルスなのよ、ある意味ずいぶん得したんだから。」

(いやいや、俺ウスマールで1泊1シュケルの宿に泊まってたんだけど。。。)

 心の声は聞こえないのでそのまま部屋に行くと。


「うわー、さすがに立派だねぇ。」

 将は思わず声が出る。

「そうか、まあこんなものだろ。」

 さすがに元?伯爵家の令嬢は違う、当り前の様に豪華な部屋へ持ち物を置き始める。

 そして、その後ブレストメイル、腕と胸部の防具を順にはずし、下に付けていた綿着を取ると薄着一枚とトランクスという出で立ちになった。

(あー、思ったより…あるんだなぁ。と、ぼんやり眺めていると。)


「ショウ。」

「なに?」

「いつまでそうしてるの?」

 エミリアの笑顔がひきつっている。

「シルフィ!! あなたも、気をつけなさい。」

「何を? 装備を着ていると暑い。」

「今は、将もいるのよ。」

「ああ、別に気にならんが。」

「気にしなさい!!」


 伯爵家ぐらいになると、着替えはほとんど家人がやってくれるので、シルフィは人がいるところで着替えをするという事に特に違和感がなかったのだ。


 将がまだぼんやり立っていると。

 エミリアがドアを指さして睨む。

「す、すいません。すぐに出て行きます。」


 部屋は、ツインのベッドルームとリビングにシングルベッド一つという配置だったため、急いで寝室のドアを開けて中に入った。

「ふー、考えてみたら女性と同室なんて大学の頃以来だな。

 正直、ちょっとめんどくさいなぁ。」

 聞こえないぐらいの音量で毒を吐く。


「もういいわよ。」

 エミリーの声がしたので、ドアの外に出ると2人はワンピースの部屋着に着替えていた。

 ミューもカバンから出て部屋の隅で座っていた。

「じゃあ、私達はお風呂に行ってくるから、鍵を渡しておくわね。もし出かける場合はフロントに預けておいてね。」

 と、将に鍵を預けて出て行った。

 将は、色々あって精神的に疲れていたので、マントを脱いで下着になると急に眠気が襲い、ベッドの上に横になってそのまま少し寝てしまった。


「ショウ、起きなさい。」

 エミリアの声がしたので、目を覚ます。

「ああ、寝ちまったのか。」

「寝ちまったじゃないでしょ、いくら安全な宿屋だからって鍵もかけずに寝てるなんて危ないでしょ。私達は済んだから、あなたも夕食前にお風呂行く?」

「この宿は夕食はどうなってるんだ。」

「夕食は宿泊代についていないわ、朝食だけ付いてるの。夕食は、下に食堂があるから、そこで普通にお金を払って食べる事はできるわ。

 今日は、ここで食事をしてしまいたいのだけど。」

「ああ、かまわない、じゃあ俺も風呂に入ってくるけど、どこにあるの?」

「1階よ、場所は表示があるから、すぐわかると思うわ。」


 将は、着替えを持って風呂に向かった。

 風呂は、円形の石造りの立派な物で20人ぐらいは同時に入れそうだった。

 チップを払えば、背中を洗ってくれたりするサービスもである様だったが、チップ相場が良く分からないので将は頼まなかった。

 周りの様子を見ながら、まずは風呂に入った後、布で体をこすってお湯をかけて洗い流し、また風呂につかってそのまま出た。

 もともと、風呂好きというわけでもなかったので、湯につかれたので十分だった。


 部屋に戻ると。

「あら、ずいぶん早かったのね。」

「ああ、でも十分堪能したよ。」

「そう良かったわね。じゃあ、さっそく夕食を食べに行きましょうか。」


 将は、とりあえず適当な上着をはおり、2人と食堂に向かった。

 食堂は、ラフなかっこうだが高級そうな生地を使っていそうな服を着た人達でいっぱいだったが、なんとか席を確保できた。

 定番のちょっとあったかいビールを頼み、3人で乾杯をすると風呂上りなだけに、さらに美味しく飲めた。


 エミリアが話題を振る。

「そうそう、ここに泊まったのはお風呂もあるけどね、ジンクスがあるからなのよ。」


「どんなジンクス?」

「うん、『荒鷲の飛翔』って言って“初めてこの街に来た人が、最初にこの宿に泊まると出世する”ってジンクスよ。」

 二人もそれを知って、最初に王都に訪れた際に初日はここに泊まったらしい。

「そうなのか、もしかして俺に気を使ってくれたのかな。ありがとう。」

「まあね、…でもお風呂の方が重要だったかな。」

 そんな軽口をたたきながら王都での最初の夜が過ぎていくのだった。


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