35. 第2章その26 大人と子供
将は黙って子供に近づき怪我の状況を確認しヒールをかけた。
子供はビックリして将を見つめた。
「おいおい、まさか見逃すつもりじゃないだろうな?
こいつは子供とはいえ賊の片棒を担いで人に刃物を向けたんだぞ。」
イルハンが苦虫をつぶした様に言う横でアサンも頷いている。
「イルハンはどうしたら良いと思っているんだ?」
「こいつらと一緒に役人に引き渡せばいい。」
「そうすると、普通はどうなるんだ?」
「子供だからな、殺される事はないだろうから、どこかで強制労働ってとこじゃねえか。」
将は考えこんでから静かに子供に尋ねる。
「お父さんとお母さんはいる?」
子供は寂しげに首を振る。
「そっか、ごめんな。」
将は子供に謝ってからイルハンに向き直る。
「王都まで連れて行って、孤児を預かっている様な施設に渡すのはダメかな?」
「はぁ、お前バカか。何度も言うが、こいつは犯罪者だ子供なんて関係ない。」
イルハンが激昂して主張する。
将は静かに、ただ怒りを込めて反論する。
「そうだな、確かに犯罪だ。だが、この子供が自分でやりたくてやったと思うのか?
さっき聞いだだろう、この子の両親がいないって事。
それがどういう意味か想像できないのか?
こんな男達にかこまれて、こんな子供がどんな風に扱われていたか想像できないのか?」
その言葉に賊たちが、所在無く顔をそむける。
将は、子供に近づき膝を折って視線を合わせてから話かけた。
「君、悪いけどいくつか質問があるんだ。いやな事も聞くかもしれないけど答えてもらえないと、さっきから話している通り次の街で役人に引き渡さないといけないかもしれない。
わかるね。」
子供が頷く。
「初めに、ご両親はどうしていないんだ?」
子供は、その質問に体がビクッと反応したが、懸命に答えた。
「その人達に殺された。お父さんはすぐに殺されて、お母さんは・・・『言う事聞かないと僕を殺す。』って言われてひどい事をされて、その後、僕もひどい事をされた時に助けようとして殺された。」
「そう、か。 すまないな、いやな事を聞いて、それはいつ頃だ?」
「2週間ぐらい前。」
「君はどうしてこんな事をしたんだ?」
「お母さんを殺されてから、ずっと昼も夜もひどい事されて、『言う事聞かないと、殺す。』って、馬に乗っていた人に言われて。。。 ひどい事されて、逃げる事も怖くなって、、、ごめんなさい、ごめんなさい。」
子供が泣きじゃくりながら謝る。
イルハンは、その様子と子供の話に自分の言葉を失う。
さらに将は、イルハンに言葉を続ける。
「子供だから何をやっても良いなんて俺も思わない。
だが、大人としてあたり前の想像力を働かせて、自分より弱い存在は守るべきは守る必要があるんじゃないか?」
そう言って、将は子供の汚いシャツをめくると、背中にはヒールでは回復しきれなかったミミズ腫れの様な傷が露わになる。
「マナよ、我が声を聞け。我が同胞に宿る常ならぬ悪しき事柄をその聖なる力にて癒しを与えたまえ。」
「エクストラヒール」
将が唱えると、ミミズ腫れも綺麗になった。
「我はマナに感謝のいのりを捧げる。」
「おっお前、神聖魔法の、それもエクストラヒールまで使えるのか。」
「そんな事はどうでもいい。
体の傷はポーションでも呪文でも治る。だけどそれができない物だってある、それを理解できないんだったらこれ以上話をしても無駄だ。」
イルハンはしばらく目を閉じて黙った後。
「そうだな。俺が間違っていたかもしれん。
アサンさん、お前さんが一番被害をこうむっているんだ。どう思う。」
「はい、私もイルハンさんの意見があたり前だと思っていました。
あの子の話も本当かどうかは残念ながら誰にもわかりません。
ですが、ショウさんのお話を聞いて考えさせられました。
また、私は商人です。
商売は極論すれば、結果が全てで、今回被害はほぼありません。
あの子の同行を許可したのも最終的には私なのです。
ここは、ショウさんのご意見に従いたいと思います。」
話がまとまり、今まで通りの体制で賊達を引き連れながら進めると、次の街ぺトラにたどり着いた。
街の入口で衛兵に事情を説明して賊達を引き渡した。
街の宿屋に到着して夕食を取っていると。
「あのね、ショウ。悪いけど私もあの子を許してしまう事はどうかと思っていたの。」
エミリーが話し出した。
「だって、今回は幸いにも被害が無いに等しいけど、もしかしたらあの子のせいで命を落としていたかもしれないと思うの。
だけど、ショウとあの子の話を聞いて、あの子が自分で賊の片棒をかついだのでなかったとすれば、今回の事だって彼の心を傷つけたんだろうなって。
本音を言えば、それが正しいかどうかは今でもわからない。
でも、今回は私たちの判断で、私達自身が納得できる答えを出したと思えるの。
だから、上手く言えないけど今日はショウの事が今までより分かった気がして嬉しかったわ。」
話をしながら、だんだん顔を赤らめていくエミリーだった。
将はひとこと。
「ありがとう。」
横でイルハンがからかう。
「おうおう、そういう事は部屋に入ってから二人でやってくれや。」
間をおいて全員が大声で笑いはじめ、その日は遅くまで宴会が続くのだった。




