34. 第2章その25 初めての野営
夕方まで順調に旅程を進めると、道の先に少し開けた場所が見えてきた。
「あそこが今日の野営の場所だな。こういった大きな街道だとだいたい1日で移動できる距離に野営する事が多くなって、自然と野営地として開けてくるもんなんだ。」
イルハンがショウに教えてくれる。
「さーて、ちゃっちゃと準備して夕飯にしようや。」
アサンが馬車から降りてきた。
「こちらにテントが2つありますので使ってください。私は馬車に寝ますので、この子も一緒に馬車で預かりますよ。」
将とイルハンはテントを受け取ると、そのまま作り始め、エミリー達は夕食を担当した。
その後、不寝番を2人ずつ交代で行って警戒して眠った。護衛は奇数だったので男性陣が少しわりを食ったのはしかたがない事だった。
魔物や賊の襲撃などはなく、朝を迎えた。
「うーん、何かあるなら昨日の夜だと思ったんだけどな。あの子供の事も勘違いだったかなぁ。」
イルハンがあくびをしながらつぶやいていた。
「みなさん。では、簡単に朝食を取ってから出発しましょう。」
アサンが告げる。
「あと2日で王都だ、少し楽しみだな。」
シルフィが珍しく自分から将に話しかけた。
「ああ、そうだな。きっと大きな街なんだろうな。」
「あたり前だろう王都なんだから。私は一度行った事があるから案内してやろう。」
「そうか、よろしく頼むよ。」
そんな会話をしながらテントをたたみ準備をした。
荷物を馬車に乗せて出発した。
いつも通りのフォーメーションで護衛を再開する。
しばらく、進むと道の両側に森が張り出している場所に来た。
すると突然・・・
森の脇から馬に乗った人が飛び出してきた。
「ひひひぃーん」
馬車の馬が棹立ちになり、急停止する。
「なんだなんだ。」
みな、武器を構えて馬の周りに集まる。
「おまえら皆武器を捨てろ。」
「何言ってるんだ、捨てるわけないだろ。バカか。」
イルハンが言い返すと。
「捨てないとそこの男の命が無いぞ。」
賊はアサンの方を指さすと、子供が長い針の様な武器をアサンの喉に突き立てている。
「み、みなさん。す、すいません。」
アサンは完全に怖気づいている。
「わかったら武器を捨てろ。」
男が右腕をあげると、10人以上の賊が森から現れた。
「積荷と女を置いていけば、命だけは助けてやる。」
とステレオタイプなセリフを言う。
イルハンが。
「しかだがねぇ。」
と言って鉄棍を放り出す。
ガランガランと大きな音がすると、子供がビクっと針を持つ手が少し引っ込んだ。
それを見た将はすかさず呪文を唱えた。
「サンダーストライク!!」
人差し指から放たれた雷撃が針を直撃し、子供の腕まで電撃が伝わりアサンから弾き飛ばされる。
その瞬間、シルフィがアサンを引っ張り込み安全を確保した。
「ショウ 今よ!!」
エミリーが叫ぶと同時に、将は、さらに攻撃を続けた。
今回は、全力の魔力を込めて。
「サンダーストライク」
両手の指から10本の雷撃が放たれ、全てが賊達の武器に落ち腕が黒焦げになっていた。
将の後ろからさらに声が聞こえた。
「フラッシュ」
フィオナが光魔法を唱えると将が撃ち漏らした4人の眼前に激しいスパークが起こり視力を奪う。
「うぉおおお。」
大きな声が聞こえ横を見ると。
黒い毛どころか、ほぼ上半身グリズリーな人がそこにいて。。。
熊が馬上の男に突っ込むと首をつかんで270度回転させた。
「グゴキャ。」
明らかに骨が砕けた音が響き渡り、下半身が濡れている様子から死んだことがわかった。
その無残な状況と圧倒的な迫力の熊を見て。
「たっ助けてくれ。もう抵抗しない。」
後ろの賊達が次々に武器を捨てて投降した。
イルハンが倒した男が頭目だった事と、雷撃によって戦意を奪われた様だった。
女性陣が次々縄で賊を縛り上げていく。
「おい、こいつはどうする?」
イルハンは、まだ剛毛が目立つ姿で子供を指さす。
怯えきった姿で、怪我のまま震えていた。




