33. 第2章その24 旅は道連れ
旅程初日は街から近い街道という事もあり、スムーズに移動ができた。
将は護衛の間、近くを歩いているイルハンと話をしながら過ごした。
イルハンとの話の中で盛り上がったのは、イルハンが獣人という事だった。
その時の会話は。
「ああ、俺は熊の獣人なんだよ。」
「え、でも外見的に特に違いがないですよね?」
(耳とかも無いし)というのは心のつぶやき。
「そうだな。これは個人差があるんだが、獣人と言っても特徴が強くでてる人とそうでない人がいるんだ。
俺は普段は、まあ言われてみればそう見える。と、いうぐらいの外見だが、興奮したり緊張すると黒い毛が上半身を覆って、明らかに熊の特徴がでてくる。
鉄棍を使っているのも、獣人の特徴が強く表れると腕の稼働範囲が少し狭くなるので剣とか細やかな動きが必要な武器だと上手く扱えなくなるからなのさ。」
「へぇ、そうなんですね。
俺、考えてみたら獣人の方と話をするのは初めてです。」
「まあ、知らないだけで今まで会った人もそうだったかもしれないぞ。
でもな、俺は気にしないが、獣人だって事をあまり言いたくないと考えてるやつもいるから、いちいち気にしたり聞いたりしない方が良いってもんだ。」
「そうですね、わかりました。」
「こら、そこは“わかった”だろ。」
「はい。 いや、ああ、わかったよ。」
「そうそう。それにしても、お前は上品だな。」
「そんなことはないよ。」
といった感じで久しぶりの男同志の会話を将は楽しんだ。
その日の夜は、カバサ村の唯一の宿に泊まる事になった。
部屋は、シルフィとエミリーが2人部屋になった以外は、個室を取ってもらった。
翌朝ごはんは付いていたのだが、パンと牛乳と何かのスープと言った簡単なもので、お腹を満たした。
次の村まではどうしても2日かかるため、1泊は野宿となる。
そのためアサンは、事前に宿の主人に保存食を全員分頼んでおいた様で、それを馬車に積み込んで出発となった。
しばらくは、初日と同じく何事もなく道を進んでいったのだが、お昼近くになった頃、ぎりぎり視認できる距離に障害物があるのが見えた。
「あれは、なんだ?」
イルハンが口にしたので、将も後ろから前に移動して見てみるが、良くわからない。
アサンが意見を言う。
「何かあるようですが、とりあえず動いてもいませんし問題ないかと思います、警戒しながら進めていいですかね?」
みんなが無言でうなずくと馬車を進めた。
しばらく移動すると、輪郭がはっきりしてそれほど大きな物ではないとわかった。
「あれ?もしかして人が行き倒れているんじゃないかしら?」
エミリーが声をあげると、少し速度を上げて近づいた。
すると、確かに人が倒れているのだが、大きさからまだ10歳にもならなそうな子供である事がわかった。
「ああ、ぼく どうしたの?」
エミリアが声をかけるが返事ができないほど弱っている様だった。
将は、エミリアが介抱する様子を痛ましげに見ていると、イルハンが。
「おい、そいつ怪しいぞ。そのまま放っておけ。」
「え、あなた何言ってるの。こんなに弱っている子供を放っておくなんてできるわけないでしょ。」
エミリーが非難する口調で意見する。
「あのなあ、そんな子供が一人でなんでこんなところで倒れるんだ? だいたい大人もいないで子供が一人で村から出てくるなんてあまりないだろう。
しかもまだ昼だぞ。倒れるほど歩くには時間的に短すぎるだろ。」
イルハンがかなり信憑性のある反論をした。
「そんなの推測でしょ。現に今この子口もきけないほど弱っているのよ。そのままにして死んでしまったら、あなた責任とれるの?
アサンさん、この子をしばらく馬車に乗せて様子を見ても良いかしら?」
「ええ、もちろん良いですよ。そこに水の入った皮袋もありますから飲ませてあげてください。」
イルハンは、まだ何か言いたそうだったが、雇い主のアサンが認めたのでそれ以上意見を言わず、周辺に注意を払うのを今まで以上にする事にした様だった。
子供は、エミリーがヒールをかけたり、水などを与えたところ目を開けたが、まだ本調子ではなく喋る事が難しい様だった。
その後、3時間ほどして休憩を取ったが、その頃には体を起こし喋る事が出来る様になって、しきりにエミリーにお礼を言っている様だった。
その子によれば、お母さんが朝起きたらいなかったので何ももたず探しに出かけてしまって、うろうろしながら道沿いを歩いていたのだが、喉が渇いたと思っていると眩暈がして倒れてしまった。という事だった。
イルハンはかなり胡散臭い話だなぁという感想を持ったようで、顔をしかめていた。
将は、良くわからなかったが子供を一人で放置する事はできないと思っていたので、エミリーの行動が自然だと思っていた。
子供は元気になっていたので、御者台と荷台の間の荷台の先のところに腰をかけてそのまま移動する形になった。




