32. 第2章その23 護衛開始
将は、ズバイダとダナーニールに別れの挨拶をして、いつもより少し早めにギルドに到着した。
中に入ると一人の壮年の男が椅子に腰かけていた。
すぐにルカイヤが将に近づいてきて。
「あ、彼は今回護衛依頼を一緒に受けるイルハンさんよ。」
「イルハンだ。よろしく頼む。」
「ショウと言います。こちらこそよろしく。」
お互い名乗ると握手をした。
ごつごつとした手と、よく訓練されているのだろう腕も将の1.5倍の太さはありそうだった。横に置いてある武器が鉄製の棍棒が彼のものであろう事は推測できた。
(うわー、こんなの当たったら鎧着ててもシャレにならないダメージだろうなぁ)
将の視線を感じたのか、イルハンが話を続ける。
「ああ、これが俺の武器だ。俺は器用じゃないからな、威力のある武器を振り回すのが性にあってるんだ。」
「そうですか、私は一応剣が武器ですが、少しですが魔法も使えます。」
「おぉそうなのか、それは心強いな。魔法を使える奴は少ないからありがたいな。今回は護衛の人数としては少な目だから、ちょっと気にはなっていたんだが魔法使いがいるなら5人は十分な数だな。」
「そんなに期待されると、心配ですが精一杯がんばりますので、よろしくお願いします。」
そんな将のそぶりに、ちょっとイルハンは驚いて。
「おい、そんなに丁寧に話すなよ。確かに俺はお前より年上だと思うが冒険者として仕事するときはただの仲間だ。あんまり丁寧にされると遠慮が生まれちまうだろ。少なくとも組んでる間は遠慮なしでいこうぜ。」
笑いかけながら提案してくる。
「そういう事なら了解だ。悪かった。」
「そうだ、それでいい。お互いせいぜい上手くやっていこうや。」
将は、ちょっと無骨だが性格の良さそうな人が一緒に仕事をしてくれる様だったのでほっとしていると、シルフィとエミリーがやってきた。
「あら、ショウもう来てたの。はやかったわね。」
「ああ、そうだな。先に会ったので紹介するが彼はイルハンだ。
イルハン、こっちの大きい方がシルフィ、小さい方がエミリーだ。俺とパーティを組んでいる。今回はよろしく頼む。」
「ショウ、大きいとはなんだ。
イルハン、シルフィだ。基本は剣を使って前衛を主に担当している。今回はよろしく。」
「ショウ、後で話はゆっくりしましょ。
私はエミリア、エミリーと呼んでください。神聖魔法が使えるので、主に後衛を担当しています。よろしくお願いします。」
「こら、ショウ。お前羨ましいやつだな、こんな美人二人とパーティ組んでるなんて。
俺はイルハン。バリバリの前衛だ。エミリーさん悪いが怪我をしたらよろしく頼むな。」
4人で一通り挨拶を終えて、最後に一人をしばらく待っていると現れた。
現れた。。。のだが、空気が一気に冷たく凍る。
「あらー、ショウじゃない。偶然ねぇー。」
フィオナだった。
「なんだ、おまえこの人とも知り合いなのか。
俺はイルハンだ。前衛を主に担当している、武器は鉄棍だ。」
「はい、よろしくお願いしますわ。私は少々魔法を使えますので複数での戦闘の際は後衛をさせて頂くことが多いですわ。」
将の方をちらちら見ながら自己紹介をするが、シルフィ達は無言だった。
重い空気をなんとかするために将が会話をつなげる。
「よーし、全員そろった事だし、依頼者のいる場所まで行こうかぁ。ルカイヤさーん」
務めて明るく声をあげる。
「はい、なんでしょう?」
「あ、今回の護衛依頼のメンバーが全員揃いましたので依頼者のところまで行こうと思います。場所を教えてもらえますか?」
「はい、北門すぐ近く、こちらから行って左側に馬車を止めているのでそちらに来て下さいとの事でした。」
「了解しました。
それと、今までありがとうございました。」
「さみしくなるわ。気が向いたら手紙をもらえたら嬉しいわ。」
「はい、ええ。ええーとはい。そうします。」
色々なプレッシャーから最後は小声で答えると。
「よーし、北門に行きますか!!」
とやたら元気に4人に言うと、爽やかに笑う約1名のイルハンと、冷めた目の2名+相変わらず誘うような眼の1名が頷いた。
北門に着くと、2頭立ての馬車が1台止まっており、それが依頼者のものだとすぐにわかった。馬車はそれほど大きくないが、幌の状態や馬の様子から手入れが十分行き届いている事がわかった。
「あ、護衛を受けてくださった皆様ですか。私がラキフェン商会のアサンと申します。今回の王都までよろしくお願い申し上げます。」
「うん、この商隊はアサン一人で受け持つのか?」
「はい。今回の荷は通常の商流ではなく、お得意様への特別な配送になりますので荷物そのものが少ないため私一人で受けております。
まあ、帰りは王都で荷を多く積んでこちらにもどりますので、帰りは、もう一人担当がいるんです。」
さりげなく、状況を説明してくれた。
「さて、少々急ぎで荷を運ぶ必要があるので、依頼の通り4日で王都に到着したいと考えております。護衛の方には申し訳ありませんが、馬車の周りを警護しながら徒歩で同行頂く様にお願いします。
休憩などは適宜取りますので、よろしくお願い申し上げます。」
全員がうなずき、イルハンが言葉を継ぐ。
「もとより護衛なのだから徒歩は当然だ。
左右で2名ずつ、馬車の後ろに1名で警護をしながら進む形でどうかな?」
他の4人はうなずき、前衛後衛のバランスからシルフィとエミリー、イルハンとフィオナ、ショウが一人で担当する事となった。




