13. 第2章その4 お金とマナー
将は、次に地図を確認してヤルムーク通りに向かった。
到着すると、いかにもバザールという感じの簡単なテントに色々な商品を並べた店が通りの両側にいっぱいだった。
「うわー、フリーマーケットぽいな。というかこっちが本家?かな。
店がいっぱい過ぎて良くわからないなぁ。」
そう言いながら、色々商品を見ながらうろついていると、小瓶を扱っている店を発見した。
(おっこの瓶なら使えるかな?)
「ちょっと、見させてもらってもいいですか?」
「はい、かまいませんよ。ただ割れやすい物もありますから注意して下さいね。」
売り子のおねえさんに許可をもらって、いくつか持って確かめてみる。装飾が多くもろそうな瓶もあれば、ちょっとガラスが厚く丈夫そうだが無骨なものもあった。
「この、丈夫そうな瓶をいくつか欲しいのですが、おいくらですか?」
「それでしたら、10個で1シュケルです。ひとつだと12セント頂きます。」
(セットだと2割引なのね。)
「じゃあ、30本頂けますか?」
「はい、では3シュケルスです。」
銀貨3枚を渡し、支払いを済ませ、質問してみた。
「あのー、もしかして薬剤調合の道具を売っているお店とかご存知ですか?」
「ええ、薬剤師さんや調香師さんはお得意様ですから、その道具を扱っているお店も知ってますよ。」
「どのあたりにあります?」
「そんなに遠くないですよ。ここから6店ほど奥に行った向かって右側にお店を出してます。」
「ありがとうございます。」
「いえ、またのご来店をお待ち申し上げます。」
と、にっこり営業スマイルを繰り出す。
場所を聞き早速向かうとそれらしき店を発見した。
「あのー、ここで薬の調合に必要な道具って置いてあります?」
店には、色々な道具がところ狭しと並んでいて、その奥の椅子におばあさんが座っていた。
「ああ、あるよ。買うんかい。」
「はい、何も持っていないので、一揃い欲しいのですが」
「ふん、駆け出しかい。変なもの作って人殺すんじゃないよ。」
と、剣呑な事を言いながら道具を揃えていく。
「乳鉢2つと、ランプと台(三脚、金網)、各2個、分液ロート、冷却管に蒸留水精製器具、薬匙3本にメスシリンダー、秤、温度計2本、薬包紙ってところかい。」
「あっそこのブフナーロート、吸引瓶、ゴム栓と濾紙も下さい。」
「わかったよ。これブフナーロートって言うのかい。知らなかったよ。」
実は、ただロートと言われていたのが、普通のロートと区別するのに後日ブフナーロートと広まったのは別のお話。
「えーと、全部あわせると。」
少し計算に時間がかかり。
「全部で35シュケルスかかるところだが、おまけして30シュケルスでいいよ。」
(思ったよりお金がかかってしまうが、考えてみれば手の込んだ器具を買うのだからそれでも安いか。)
「えーと、金貨での支払いになってしまいますが、いいですか?」
「いいも悪いもそれしかないんじゃろ。よこしな。」
金貨を1枚渡すと、店の奥でぶつぶつ言っていた。
「まったく、最近の若いもんは、買い物のマナーってもんを考えないねぇ。」
将は、恐縮するも仕方が無いので待っていると。
「ほら、ちゃんと数えるんだよ。10枚20、30・・・70枚。大丈夫かい?」
「はい、お手数かけさせてすいません。」
「ふん、ちゃんとお礼は言えるんだね。次からマーケットに来るときは、ちゃんと銀貨を持ってくるんだよ。うちは、比較的高い商品を扱ってるからおつりがあったけど、無い店の方が多いんだからね。」
顔を皺くちゃにして、にっこり忠告してくれた。
「はい、気をつけます。」
「いい子だね。また来るんだよ。」
(まあ、確かにおばあさんからすれば、子供か)
挨拶をして店を去り、ちょっと小腹がすいたので、出店のシシカバブーっぽい肉を買って食べた。
10セントで5個買えたのだが、銀貨しかなかったので銅貨90枚もおつりでもらってしまい。この時は「店じまい前だからちょうど良かったよ。」と言ってもらえたが、今度から気をつけようと心から思った。
5個のうち3個をバックパックに入れると、ムシャムシャ音が聞こえてきた。
「ごめんな、もうちょっと我慢してな。ミュー。」
と謝っておいた。
犬っぽい動物や大通りなら馬も歩いているので、鳥を連れて歩いても問題ないとは思うのだが、本人?が嫌がるのでそのままにしておく。
宿に戻ろうかと思ったのだが、ちょうど5つ鐘が鳴ったので、まだ夕食まで1時間ある。ギルドに宿の報告を済ますことにした。
ギルドに着くと、昼前とはうって変わり、主にむさ苦しいおじさん達がいっぱいだった。
ただ、ルカイヤさんの前は空いていたので、そこに向かう。
「ルカイヤさん、お薦めの宿に決まったので連絡に来ました。」
「あら、早速連絡ありがとうございます。クガ様。」
「あのぉ、話すとき皆さんに姓を使ってるんですか?」
「いえ、姓を持っていない方も多いので、逆に姓を持ってらっしゃる方には姓での呼びかけがマナーになりますのでそうしているだけですが。」
「もし、問題なければ名前の方でお願いできます?」
「もちろんです。ショウ様」
「その、様って言うのも。」
「では、ショウさん。カードを下さいな。」
カードを渡すと奥で記録を書き込む。
「はい、これでいつでも依頼を受けられますよ。もし明日いらっしゃるのでしたらなるべく早く来る事をお薦めします。」
「どうしてですか?」
「ほら、今混んでるでしょ。これは依頼達成の報告の方がほとんどです。この時間ぐらいに報告しないとゆっくり夕食が食べられませんから。
逆に朝は、朝食後にいらっしゃって依頼を受ける方が多いので、その時間は依頼の受付がとても混雑して、あまり相談に乗る時間がとれないと思います。
ですので、早めにいらっしゃる事をお薦めしました。」
「そうなんですね。だから今は依頼受け付けのここは空いていたんですね。
わかりました。明日はなるべく早起きして来ます。」
「お待ちしております。ショウさん。」
そのまま宿に戻るとちょうど夕食の時間だった。
「あ、ショウ戻ったのね。はい、カギよ。荷物置いたらいつでも夕食食べに来なさいよ。」
部屋で荷物を置くとミューが出てきたので聞いてみた。
「夕食どうする?一緒に食べに行くか?」
『いや、こわい。待ってるから、なにか持ってきて、お肉おいしかった。』
しかたがないので、一人で食べに行くと。
「はいはい、そこに座って。」
と強引に席に座らせられ。
「今日は豚肉のソテーと季節の野菜のスープ、自家製パンだよ。」
前にドンドンと料理がおかれ、可愛らしい女の子が続いて
「こちらがスープとパンです。これはおかわりもできますので言ってくださいね。」
と並べてくれた。
すると、ズバイダさんが。
「ああ、私の娘のダナーニールだよ。可愛いだろ。私の仕事を手伝ってもらってるんだ。
ちょっかい出したら、旦那に夕食の食材にされちまうから気をつけな。」
と紹介と危険な事を言うので。
「そんなこと、しませんよ。ショウです、よろしく。」
とコメントをしておいた。
料理は十分美味しく。旦那さんはコックとして腕が良さそうだと思った。
だいたい食べ終わったところでズバイダさんに話す。
「すいません、お肉料理を追加で頂けますか?」
「ああ、20セントもらえりゃ、問題ないけど どうするんだい?」
「実は、鳥を飼っているので、あげるんです。」
「なんだい、そうなのかい。食堂に連れて来ないでくれて良かったよ。いやがるお客さんも多いからね。部屋におくぶんには、部屋をひどく汚しさえしなければ問題ないよ。まあ、最初に言ってくれた方が良かったけどね。」
「すいません。背中のカバンに入れていたので言うの忘れてました。」
「いいさ。で、紙に包めばいいかい?」
「はい、お願いします。」
部屋に持って帰ると、ミューは嬉しそうに全部平らげたのだった。
本作品に登場する人物、街、国、宗教その他
全てフィクションです。
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