9. 第1章その9 旅立ち前夜
「さて、そこに座りなさい。」
カゼールは将に座る様に即すとお茶を用意する。
「最初にお主に謝らんといけない事がある。」
「何がですか?」
「お主がここに来た原因の半分はワシのせいかもしれないのじゃ。」
「まあ、本当のところは良くわからん。
だかな、ワシはあの時、自分の意志を継いでくれる者がいない事を寂しく思い、そんな人間を望んでいた。」
「いや、それは私がここに来た事は関係がそんなにあるとは思えませんが?。」
「そうか、そう言ってくれると気が楽になるの。」
「それより、自分の意志を継ぐってどういう意味ですか?」
「ああ、ワシはそろそろ死ぬんじゃ。」
軽くカゼールは言う。
「ええっ、だってそんなに元気じゃないですか?」
「ふむ、じゃがな、わかるんじゃ。自分の命が尽きかけているのがな。」
カゼールは、お茶を啜ると言葉を継いだ。
「ワシはずいぶん長く生き、様々な人が命を失う経験をしている。あたり前じゃが、死にたくないからの。延命のために色々やっていたが、いよいよその時が間近なのじゃ。」
「お主が来たときには、もう1年持たないじゃろう事がわかっていたから、少し修行を厳しくせざるを得なかったのじゃ、すまんの。
まあ、厳しくせんとまずいぐらい弱かったこともあるがの。」
と言いながら笑った。
(すいませんねぇ、赤ちゃん並みで)
「さっきも言ったが、今は違うぞ。お主は十分一人で生きていけるだけの力を持っている。
自信を持て。」
「ありがとうございます。」
「うむ。お主の良いところは、その素直なところ、努力を惜しまんところ、慢心をしないところ、などじゃ。」
面と向かって褒められて、将は顔が赤くなるのを感じた。
「悪いところは、人と比べてどうかを気にするところ、自信を持たんところ、優しすぎるところかの。
自分の力を人と比較しても意味がない事じゃ、強くなりたければ人よりどうではなく、どんな強さを持ちたいかを考え、それを目指せば良い。もちろん具体的な人を目標としてそれを超える事を目指すのは先ほどの話とは違い、意味があるぞ。
あくまで普通の人と比較してどうであるかなどが意味ないのじゃ。
優しさは人として大事なことじゃ。ただし、この世界ではまず自分の命を守る事を考えんと長生きはできん。もし、自分以外も守りたいなら強くなることじゃ。」
将は、ミューの方を見てカゼールに頷く。
「説教の様になってしまったが、本題じゃ。明日、ショウにはここを出て行ってもらう。」
「えっ、なんで?」
「一つは、この世界において一人で生きていけるだろう力をつけたからじゃ。
もう一つは、ワシが死んでしまうからじゃ。」
「よくわかりません。」
「お主は今まで魔物を見たか?」
「いえ、確かに無いですね。」
「それはの、ワシが広域結界を張ってそれを維持しているからじゃ。
本来ここは人外魔境のど真ん中。もし結界が無ければとんでもない強さの魔物が多くいる地域じゃ。
修行したからと言って、今のお主ではすぐに魔物の餌になってしまうじゃろう。
だから、ワシが生きている間にここから出て行く必要があるのじゃ。」
「そうですか。」
将は、今までお世話になった日々を思い出し少し目が潤んでいた。
「そういう事であれば分りました。今までのご恩に対して何も恩返しができていないのが心苦しいですが、お言葉に従います。」
「まあ、そう固い事は言わんでくれ。ワシはお主と過ごした日々は楽しかったぞ。
それとな、一つお願いがあるんじゃ。」
「なんでしょう?」
「お主は、お主がいた国、ニッポンの話をワシに聞かせてくれたな。」
「はい。」
「いつかそんな国をここに造ってくれ。」
「えっ、いやいや、無理でしょそんな。」
「それがお主のイカンところじゃ。自信を持て。何もお主自身が国を作らなくても良いのじゃ、国を造る者、支配する者を導いてやっても良いのじゃ。
お主は、その理想となるべき国を知っておる。それは、ただ概念的な理想を目指すよりずっと容易に実現できるはずじゃ。
ショウは色々、問題もある様に言っていたが、ニッポンはワシからすれば夢の様な国じゃぞ。
ワシができなかった夢をかなえてくれれば嬉しい。」
「分りました。正直、そんな大それた事ができると断言はできませんが、努力します。」
「ふふふ、そうじゃ、努力せよ、努力せよ。」
カゼールは、将の言葉を聞き満足そうに頷く。
ゴトゴトッと、テーブルの上に物を置く。
「これは、旅立にあたっての餞別じゃ。受け取ってくれ。」
一つは小剣、一つは紋章が付いた指輪、もう一つは袋だった。
「さて、少し説明するぞ。まず小剣じゃが、少しだけ指先を傷つけて血を垂らしてみろ。」
将が言われるまま、指先を少し傷つけ剣に血を垂らすと、一瞬剣が輝くとすぐに元に戻った。
「今、お主の血を吸った事により、その剣はショウを持ち主と認識した。その剣は、別段攻撃力が高いわけでもない。特別な魔法が使える様になるわけでもない。ただ、お主の持つ魔力量に応じて成長する剣なのじゃ、銘は無いのでつけてやってくれ。ちなみにワシが作ったのじゃ。」
将は、剣を受け取ると心に浮かんだ言葉をカゼールに伝える。
「ウィルトスにします。」
「ふむ、良い響きじゃな。ウィルトスを売ったりせんようにな。他の者にはただのナイフ以下のものじゃ。」
「売ったりしませんよ。」
「冗談じゃよ。さて、次は指輪じゃな。魔法の触媒として使える。まあ、そこそこ効率は上がるじゃろ。あと少しだけ仕掛けがしてある。ある条件が揃ったらわかる。楽しみにしておくんじゃな。
紋章に関しては、ワシが関係している事がわかる印じゃ。ほとんど知る者はいないじゃろう。お守り代わりじゃ。」
将は、受け取ると一番ぴったりの太さだった左手の中指に付けた。
「さて、最後にこの袋じゃが、金が入っている。当座の資金に使うがいい。無駄使いはダメじゃぞ。」
袋を開けると金貨が20枚、銀貨が30枚入っていた。教えてもらった通貨単位で言えば2030シュケルスになる。ざっくり1シュケルが5,000円ぐらいの価値になるので約1,000万円ぐらいになる。
「こんなに頂けませんよ。」
「何を今さら。死人が金を持っていてどうなるというんじゃ。持って行け。
ああ、後その袋じゃがな。魔法で100万倍ぐらいの容量になっている。入れた物をイメージすれば取り出せるから便利じゃぞ。入れた物を忘れたときは、口を逆さにして3回振れば全部出てくるからな。それもワシの作品じゃ、かなり魔力をつかってしまったぞ。」
実は、お金よりその袋の方が価値の高い事は後で知るのだった。
「もう日が落ちた様じゃな。飯を食べて良く寝て、明日の旅立に備えるといい。」




