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東方逢月譚―the last magic under the moon―  作者: ゆんゆん
第一章 「集う!永き夜の自機(せんし)たち」
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第五話 それはどこかの境界で

 風見幽香の視界は、完全に闇が支配していた。

 そこは宵闇よりも深い、果てしない漆黒の世界。

 泥のような感触の、しかし水分を含んでない不思議な地面をゆっくりと歩く。

 肌に纏わり付くような生ぬるい風が、彼女の頬を撫でた。

 この闇の正体を、幽香は知っていた。

 それは――〝混沌〟だ。

 科学者が、色を光の波長で解釈できるように。

 物質を、元素の構成によって分類するように。

 あるいは一人魔法使いが、複雑な魔法と、そしてそれによって起きる神事の如き事象とを、記号と数式だけで構築するように。

 世界に存在する様々な概念、その整然となる前の、不規則で無秩序な混沌。

 ぐちゃぐちゃに混ざり合った、〝世界〟の元。

 創世の土壌。

 それこそが、この闇の正体。

 つまりここは、まだ〝世界〟として出来上がる前の、〝どこか〟と〝どこか〟の境界。

 その空間の中を、幽香は無言のまま歩き続けた。

 目的地など無い。

 そもそも、ここには前も後ろも、右も左もまだ存在していない。

 それでも、構わず幽香は進んだ。

 自分が前と思っている方向をひたすらに。

 するとその内、闇の向こうに小さな白い点が見えてきた。

 彼女が歩を進めると、それが段々と大きく、近付いてくるのが分かる。

 たちまちそこに〝距離感〟が生まれ、〝前〟が生まれて、闇が意志を持ったかのように蠢いたかと思うと、彼女の足元には闇の中に浮かぶ黒色の道が生まれた。

 幽香はその劇的な変化に特に驚く素振りも見せず、また静かにその道を歩き始めた。

 そして、先ほどまでは白い点でしかなかったものが、やがて手の届きそうな所までやって来た。

 それは一本の、広げられた白い日傘だった。

 幽香はそれを肩に掛け、こちらに背を向けている人物に話しかけた。

「持ってきたわよ、紫」

 紫と呼ばれた人物は、優雅な立ち振る舞いで彼女に振り返った。

 彼女の召していたスカートの裾が、軽やかに広がる。

 〝妖怪の賢者〟八雲紫は幽香の顔を見ると、微笑を浮かべた。

「これでしょう?」

 紫の笑みには目もくれず、幽香はそれまで自分が小脇に挟んでいたものを彼女に差しだした。

 それは臙脂色の装丁が見事な、分厚い一冊の本だった。

「『夢幻館』に、アイツ(、、、)が残して行った最後の手記」

「ええ。ありがとう」

 紫がそれを受け取ろうと手を伸ばす。

 しかし、幽香は本の背表紙を持つ手に力を込めて、それを制した。

 幽香の手から本が抜き取れず、紫が怪訝な顔をする。

 幽香は声を低くして言った。

「で、これで何をしようって言うの?」

 若干の沈黙。

 その間に、紫の瞳が僅かに宙を彷徨った。

(…………)

 それだけで、幽香はこれ以上の言及を諦めた。

 古き友人、この八雲紫という女は、誰にも本音を明かさない。

 恐らく今もまた、取って付けたような胡散臭い台詞を考えているのだろう。

 そして案の定、紫からの返事は簡潔で曖昧なものだった。

過去の清算(、、、、、)、と言ったところかしら……?」

「そう」

 幽香は手に込めていた力を抜いた。

 するとその手から、本がするりと抜き取られる。

「ありがとう」

 この時、改めて礼を言った紫を、幽香は不審に思った。

 思ったが、彼女は敢て何も言わなかった。

 と、本を受け取った紫は徐に幽香から一歩後ろに下がると、その背後に〝スキマ〟を開いた。

「どこに行こうってのかしら?」

「私たちの大っ嫌いな所」

 紫が妖しく微笑む。

「『是非曲直庁』よ」

第四話に続き、第五話も連続投稿です。

ほんの短い一場面ですが、やっぱりゆかりんは書いてて楽しいです。

ともあれ、これで第一章は終了。

次回は第二章第六話となります。

読者の方の中には、既にクライマックスを予想している方もいらっしゃるのでしょうか?(笑)

よろしければこれからも、『東方逢月譚』を宜しくお願い致します。

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