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東方逢月譚―the last magic under the moon―  作者: ゆんゆん
第一章 「集う!永き夜の自機(せんし)たち」
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第三話 霊魂の行方

 一般的に、『幻想郷』で〝森〟と言うと、それは暗に『魔法の森』を意味する。

 そこは上空から見ると、『紅魔館』のほど近く。北方に聳える『妖怪の山』と、南方に広がる『迷いの竹林』との間に存在する広大な原生林で、人間はおろか妖怪すらも住み着かない劣悪な環境として知られていた。

 植生が濃く、生い茂る木々によって太陽光を阻まれた森の中は、日中でもジメジメして薄暗い。

 そしてその特異な環境条件が自生する茸の生育を助け、そこから発せられる大量の胞子が、瘴気となって侵入者の肺を蝕んでいく。

 更にその茸の中には幻覚作用をもたらすものまであるというのだから、ここで悠々と森林浴を楽しもうなどと思う者は『幻想郷』で誰一人としていなかった。

 しかしこの日、その『魔法の森』の中に二人分の人影があった。

 その一方、半人半霊の庭師、魂魄妖夢は背中の鞘から愛刀『楼観剣』を抜き放ち、それを正面に構えて目の前の少女を睨み付けた。

 他方、刀を向けられた少女は舌打ちをすると、バックステップに跳んで妖夢との距離をとった。

「弁解があるなら聞きましょう」

 目前の〝敵〟に対する、最大限の親切心(、、、、、、、)を以って妖夢は尋ねた。

 しかし、目の前の少女――霧雨魔理沙は三角帽子のつばを摘まむと、それを目深に被り直し、悪びれるどころか不敵な笑みを浮かべてそれに答えた。

「落ちてたんだぜ?」

それ(、、)が?」

「ああ」

 頷いた魔理沙の小脇には、複雑な幾何学模様の呪印が書き込まれた、人間の子供の頭部くらいの大きさの瓶が抱えられていた。

 そしてその中には、この暗い森の中ではよく目立つ、青白い発光体。

 ――人魂だ。

 妖夢はそっと、汗ばんできた刀の柄を軽く握り直した。

 本日未明に発覚した、『冥界』における霊魂の集団脱走。

 よもや、こんなにも早くその犯人が見付かるとは。

「それで、落ちていた(、、、、、)それを瓶詰にして、貴女は何をしようと言うのですか?」

 言葉の端々に、自然と怒気が籠る。

 妖夢の問い掛けに、魔理沙は瓶詰の人魂を無理矢理に懐に仕舞い込みながら答えた。

「なに、これから暑い夏がやって来るんだぜ? その前にちょっとコイツを拝借(、、)して、今年の夏をを快適に乗り切ろうってだけだ」

 その言葉を受けて、たちどころに妖夢は思い出した。

 この魔理沙を始め、霊夢、それから〝光の三妖精〟は以前、外気の熱を奪う霊魂の性質を利用して、より涼しい夏を過さんとしていたことを。

「そんな事は、『冥界』を管理する幽々子様に成り代わり、この魂魄妖夢が許しません!」

「……分かってるさ」

 魔理沙は言うと、箒を逆手に持って腰を落とした。

 そして、「来いよ」と言わんばかりに人差し指で手招きをする。

「取り返してみな!」

「いざっ!」

 両者の掛け声と同時に、戦いの火蓋は切って落とされた。

 妖夢はその場で、『楼観剣』を縦に一閃させた。

 するとその刀身から、鋭い楔形の弾幕が幾つも生み出され、それが風を切り裂く刃となって魔理沙に襲い掛かった。

 同時に、妖夢は振り下ろされた『楼観剣』をそのまま腰だめに構えると、間髪入れずに駆け出して、真っ直ぐに魔理沙との距離を詰める。

 彼女の持ち前の機動力を活かした、弾幕と体術の二段攻撃だ。

 しかし、すぐさま魔理沙は自分の右側に横っ飛びに跳んで、妖夢の弾幕あっさりとを躱す。

 縦軸方向に吐き出された弾幕は、横軸方向への回避が定石。それが必要最低限の回避行動であり、魔理沙は軌道を修正しながら肉薄する妖夢にカウンターの弾幕を叩き込もうと身構えている。

 接近中の妖夢にとって、至近距離からの弾幕はまさに脅威だ。

 無数に散らばる綺羅星の如き魔理沙の弾幕に正面から飛び込むことになってしまうし、接近中とあっては、その速度には自分の走るスピードが加算される。

 まず間違いなく避け切れない。

 しかし、妖夢は決して足を止めようとはしなかった。

 こちらに狙いを定める魔理沙の、限界ギリギリまで相手を引き付けんとする、その瀬戸際の駆け引きを楽しむかのような獰猛な瞳が妖夢に向けられた。

 それはまさしく、罠に掛る獲物を前にした狩人の目。

 心臓を貫くような、殺意の槍。

 二人の視線が交錯する。

 しかし、罠に掛ったのは魔理沙の方だった。

 魔理沙が弾幕を放つその絶妙のタイミングで、彼女の背後に青白い発光体が姿を現した。

 それは妖夢の半身たる半霊。

「なっ!?」

 背後の存在に気が付いた、魔理沙の顔に戦慄が走る。

 その間にも、妖夢は油断なく【奇び半身】の『スペルカード』を切った。

 瞬間、半霊から妖夢が放ったのと同じ、楔形の弾幕が打ち出される。

(もらったっ!)

 妖夢は初めから、魔理沙が自身の右側、即ち妖夢の左側に跳ぶことは分かっていた(、、、、、、)

 それは〝剣術を扱う程度の能力〟を持つ彼女ならではの発想。

 『楼観剣』を振り下ろした後、妖夢はそのまま刀身を寝かせて腰だめに構えたが、この時彼女は意図的に右構えの姿勢をとっていたのだ。

 つまり、魔理沙が左右どちらに跳ぶかの選択を迫られた際、彼女は刀による追撃が届き難い、妖夢の左側に跳ぶ公算が大きい。

 それが分かっていれば、後は半霊を、最終的に魔理沙の背後に来るように忍ばせていれば良いだけ。

 必ず生まれるであろう、魔理沙が妖夢本体に照準を絞る、その一瞬の隙を突いて。

「覚悟っ!」

 正面からは妖夢。

 背後からは弾幕。

 逃げ場の無い挟み撃ち。

 魔理沙の表情が凍り付いた。

 しかし――

「――なんてな!」

(!?)

 魔理沙はペロリと舌を出して、狡猾な笑みに顔を歪ませた。

 そしてそのまま、彼女は支えを失ったかのように背中から後ろに倒れ込んだ。

「立ち上がった対象を狙った弾幕は――」

 半霊の放った弾幕が、際どいところで魔理沙の帽子を掠めていく。

「――絶対にその足元には当たらない!」

 魔理沙のその土壇場の機転で、二人の攻守は完全に入れ替わっていた。

 魔理沙という標的を失った弾幕は、その先にいた妖夢に牙を剥く。

(甘いっ――!)

 しかしそれすらも、妖夢の算段の内だった。

「自分の弾幕が避けられない訳――っ!」

 妖夢は勢いもそのままに跳躍すると、錐揉みするように身を捻って自身の弾幕を躱し切った。

 そもそも【奇び半身】によって打ち出される弾幕は、弾数も少なく、本来は相手の虚を突いた奇襲程度にしか使い道が無い。

 それを自分の真正面から、自分の指示によって解き放っているのだから、回避など容易なことだ。

 そして妖夢は空中でヒラリと身を翻すと、そのまま地面に寝転がる魔理沙に覆い被さるように、兜割りの要領で高々と『楼観剣』を振り上げた。

「【断命剣「瞑想斬」】!!」

 妖夢は二枚目の『スペルカード』を切った。

 たちまち妖夢の妖力が『楼観剣』の刀身に注ぎ込まれ、熱を帯びたそれが巨大な光の刃となる。

 その下では、魔理沙が妖夢に向かって『八卦炉』を両手で構えていた。

「結局は、これで決まっちゃうんだな」

 ニヤリとする魔理沙。

「【恋符「マスタースパーク」】!!」

 この一合で決まる。両者はそう確信した。

 それは妖夢の落下速度と、魔理沙の『八卦炉』の充填速度との勝負。

 ……のはずだった。

「え?」

 空中から魔理沙に刃を振り下ろす刹那、妖夢は見た。

 魔理沙の胸の位置から、発光する染みが服に広がったかと思うと、まるで幽体離脱のように人魂がそこから飛び去っていくのを。

「お?」

 魔理沙もそれに気付いたのか、場違いなほど間の抜けた表情で、森の向こうに一目散に消えていく人魂を目で追っていく。

「あぁーーーーーーーーーっ!!! 瓶がっ!」

 魔理沙は素っ頓狂な声を上げて起き上がった。しかしすぐに、

「って言うか、服の中で割れっ!? 破片がっ! 怖いっ! 怖いぜぇぇぇっ!」

 そのまま慌てふためく魔理沙。

 妖夢は彼女に『楼観剣』を振り下ろすことなく着地すると、刀を鞘に戻して溜め息を吐いた。

「自業自得です」

 

 

 同じ頃、『白玉楼』の応接間には、朝から独特の緊張感が漂っていた。

 そこは四〇畳ほどの広さの畳敷きの和室で、部屋の真ん中より少し奥側の位置に、欅の巨古木の幹を輪切りにしたものをそのまま使用した、美しい玉杢の趣ある座卓が鎮座している。

 そしてその上座には、この『白玉楼』の主である西行寺幽々子が、座卓を挟んだ対面には三途の川の船頭である小野塚小町が座っていた。

「『幽明結界』を閉ざせ、ですって?」

 凄むような厳しい口調で、幽々子は小町に聞き返した。その声色には、ありありと嫌悪の響きが窺える。

「『無縁塚』では死者の魂を、垂れ流し(、、、、)にさせていると言うのに?」

 そして痛烈な皮肉。

 小町は苛立ちを覚えながらも、慎重に言葉を選んで返した。

「だからこそ、だよ。『無縁塚』はその性質上、死者の魂を拒む訳にはいかない。故に結界を張ることが出来ない。でもこの『冥界』は違うだろう。言いたいことは分かるが、ここは霊魂の流出を最小限に抑えないと」

「申し訳ないけど、承服しかねるわ」

 しかし、ぴしゃりと幽々子はそう言い切ってしまう。

 どうやら説得の余地は無いようだ。

(参ったね)

 小町は内心で毒づいた。

 映姫の命令で『白玉楼』を訪れ、現在『彼岸』で起きている〝異変〟のことを説明したまでは良かったが、その後は完全に膠着状態が続いていた。

 『冥界』と『幻想郷』とを仕切る『幽明結界』。これを閉ざすことで霊魂の流出に待ったを掛けようとする映姫の考えを、幽々子は頑として受け入れてはくれそうになかった。

 そのままお互いに黙り込んでいると、先に幽々子の方が口を開いた。

「第一、『花の異変』は裁きを受けていない魂が『幻想郷』に溢れ返り、花に身を寄せたのが原因。既に裁きを受けた『冥界』の霊魂が何体流出しようとも、それは『花の異変』には繋がらないわ」

 尤もな意見に、小町は押し黙るしかなかった。

「それに、閻魔様が貴女を遣わす前から、『白玉楼こちら』では妖夢を『幻想郷』にやって、霊魂たちの捜索をさせているの。『冥界』の事は我々にお任せをと、閻魔様に伝えて頂けるかしら?」

 断固とした口調だ。これ以上は、何を言っても話をややこしくさせてしまうだけだろう。

「……分かったよ」

 小町は不承不承といった様子で立ち上がると、一礼して応接間を後にした。



「ねぇ紫。怒る演技って疲れるわ」



「それで、森で珍しい茸を求めて散策していたら、偶然にも人魂を発見したのですね?」

 その後の事情聴取で、どうやら魔理沙が『冥界』から霊魂を連れ去ったのではないことが分かり、半ば落胆しながらも妖夢は確認するように魔理沙に聞き返した。

 魔理沙は妖夢の前で胡坐座りになって、脱いだ上着をバタバタと振り回しながら答えた。

「ああ。見付けた時はラッキーだと思ったんだけどな……」

 それから魔理沙は入念に、服に硝子の破片が付いていないか確認しながら、ブツブツと不満気に何かを呟き続けている。

 妖夢はそんな彼女に背を向け、自分の考えをまとめに掛った。

 魔理沙の言うことを信じるなら、彼女がここで見付けた霊魂は単体だったと言う。つまりどうやら、『冥界』から脱走した霊魂は『幻想郷』のあらゆる場所に散り散りになっているようだった。

 しかし、先ほど魔理沙の胸から逃げ出した霊魂は、一直線にどこかへ向かっていた。

 ただ単に、あの場から逃げるという訳でもなく、まるで何者かに呼び出された(、、、、、、)かのように。

(これは、何か裏がありそうですね……)

 妖夢は顔を上げると、霊魂が飛び出して行った方向へ自分も向かおうと空を見上げた。

 と、折り重なる木々の枝葉によってぼやけてはいたが、明らかに人型のシルエットをした何かが、森の上を真っ直ぐに突っ切って行った。

 その方向は、今まさしく妖夢が向かおうとしていたのと同じもので。

「今のは霊夢じゃないか?」

 妖夢の背後で、ようやく上着を着た魔理沙が空を見上げて言った。

 妖夢は驚いて、

「本当ですか?」

「ああ。かなり急いでたな。きっと何かあったんだぜ!」

 言うや否や、魔理沙は急に嬉々とした表情になって、軽い身のこなしで箒に跨った。

 そして飛翔。後に残された妖夢も慌てて魔理沙の後を追った。

「ちょっと! 何で貴女が先に行っちゃうんですか!」

「これから音速を超える私には、そんな声は届かんぜ!」

「届いてるじゃないですかっ!」

 そんなやりとりをする二人の進行方向には、肥沃な大地が深緑に染まる『幻想郷』の中では一際目を惹く、鮮やかなサンイエローの『太陽の畑』が迫っていた。

えっと、第三話です。

お楽しみ頂けたでしょうか?

一応、あと1~2話程度で第一章が終わる予定です。

これからもどうぞ末永く、『東方逢月譚』にお付き合い頂けたらと思います。

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