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八雲紫による隠蔽記憶

この作品は「東方Project」の二次創作です。

この作品には原作とは異なる設定が含まれています。

不快に思われる方は、直ちに作品の閲覧を中断して頂ければと存じます。

 今思えば、何とも不思議な夜だった。

 一日を通して晴天に恵まれていたはずのその日、もうじき日付が変わろうかという時に、突如として激しい土砂降りの雨が降り始めた。

 それまで寝室で寝ていた私は、突然に鳴り響いたけたたましい雷鳴で目を覚ました。

 当時の私はまだ幼く、物心ついた頃には既に彼女(、、)と一緒に暮らしていた。

 二発目の雷が落ちて、轟音と共に建物全体が小さく震えた。

 ピリピリと空気が張りつめているのを感じた。

 私はそのまま天井が落ちてきてしまうのではないかという恐怖心に駆られて、慌てて布団の中に潜り込んだ。

 そして掛布団の中で体を小さく丸めながら、涙声で彼女(、、)の名前を呼んだ。

「靈夢……?」

 しかし、いつもなら隣の布団で一緒に寝ているはずの彼女からの返事は無かった。

 そして私は、その日の夕刻に彼女が〝異変解決〟に出掛けたきり、まだ帰って来ていないのだと悟った。

 靈夢こと博麗靈夢は、この『博麗神社』の巫女であり、『幻想郷』においては〝博麗の巫女〟と呼ばれる存在だった。

 私との血縁関係は無かったが、当時の私は彼女のことを実の姉か母親のように慕っていた。

 三発目の、一際大きな雷鳴が『幻想郷』全体に木霊した。

 私はより一層身を固くしながら、何度も何度も彼女の名前を呼び続けた。



 気が付くと朝になっていた。

 どうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。

 私は布団から這い出すと、涙で泣き腫らした腫れぼったい目元を擦った。

 参道に面した障子が、朝の太陽光を受けて白く輝いて見える。

 昨晩の、途切れることのなかった雨音もすっかり消えていた。

 私は立ち上がると、まだ痒みの残る目元を掻きながらその障子を開けた。

 たちまち射し込んできた太陽の光に、私は目を細めた。

 昨日の豪雨が嘘だったかのように、空は蒼く晴れ渡っていた。

 吹き抜けていった初夏の風は昨日の雨のせいで湿気を多く含んでおり、決して爽やかではなかった。

 しかし雨上がりの、濡れた土や青草の匂いのする風も私は嫌いではなかった。

 私はそこで深呼吸をし、大きくのびをした。

 そして視線を再び落とすと、私は参道からこちらに向かって歩いてくる人影に気づいた。

「靈夢!」

 それが彼女だと分かった途端に、私は嬉々として彼女の名前を呼んだ。

 しかし彼女は私の呼び掛けには一切応じず、フラフラと、まるで幽霊のように力無く歩を進めるばかりだった。

 私は彼女の姿が近付いてくるにつれ、彼女が全身ずぶ濡れの濡れ鼠になっていることに気付いた。

 私は慌てて踵を返し、風呂場で浴布を数枚ほど掴むと、そのまま玄関まで駆けて行った。

 玄関の戸が開き、彼女が入ってきた。

 私は浴布を手渡そうとして、そこで初めて彼女の顔を見た。

「靈……夢……?」

 彼女は恐ろしく冷め切った、まるで生気の無い目をしていた。

 その表情は人形のような全くの無表情で、見るからに疲れ切っており、彼女のそんな消耗した姿を見たことのなかった私はその場で戸惑うことしか出来なかった。

 その間にも、彼女は私に一言も掛けることなく、寧ろ私の存在など意にも介さない様子で、彼女は私の脇を抜けて自室へと閉じ籠ってしまった。

 彼女が自室の戸を閉めてから間もなく、畳の上に何か大きな物が落ちる音がした。

 彼女が畳の上に崩れ落ちたのだとすぐに気付いた私が部屋の前まで駆け寄ると、戸の向こうから押し殺すような彼女の慟哭する声が聞こえてきた。

「  ちゃん」

 どうしたら良いのか分からずに慌てる私を、玄関から呼ぶ声があった。

 私が振り返ると、そこには八雲紫が立っていた。

 八雲紫は度々神社を訪れることのある『幻想郷』の中でも古参の妖怪で、靈夢とは旧知の仲だった。

 必然的に、紫は私とも面識があったが、当時の私にとって八雲紫は知り合いのお姉さん程度の存在でしかなかった。

「靈夢は、暫くそのままでいさせてあげて。今日は私の家でご飯にしましょう?」

 その時の、紫の鎮痛そうな表情がとても印象的だった。

 訳も分からないまま私は頷き、そのまま私は紫に手を引かれて神社を後にした。



 その後、私が靈夢と再会したのはそれから十日以上経ってからだった。

 その時の、彼女のやつれ切った姿に私は戦慄を覚えた。

 そしてその時の経験があったからだろうか。後に紫が私に、私が〝博麗の巫女〟を継ぐ立場にあると告げた時、途端にその日の記憶が私の脳裏を過り、私は紫の言葉を素直に喜ぶことが出来なかった。



 しかしそれも、今となっては随分と昔の話――。

と、言う訳で新作です。

前作の後書きで告示したように、今回の作品はかなり〝捻って〟ますよ!

しかし、まだこの段階では〝あらすじ〟と内容が繋がっていないので戸惑われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

一応、第一章も早急に(一週間くらい?)投稿するつもりなので、皆様にはその間にも、前作の『My Little Master』でも読みながらお待ち頂ければと思います(←宣伝乙)

そして出来れば、感想とか評価とか欲しいです(おい!)

やっぱり人に作品を読んでもらうからには、客観的に評価された自分の実力って知りたいですし……。


ともあれ、新作『東方逢月譚―the last magic under the moon―』始動開始です!

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