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⑨「愛人日記」

 ―愛人の朝は早い。



 ツーティア国城下町『アミルテリア』

人の往来もまばらな貴族の邸宅が並ぶ一画、ここに愛人が居候をするストラルドブラグ家の屋敷がある。ギルド有数の傭兵である彼女の仕事は決して世間に知らされるものではない。しかし彼女の生活を覗いてみれば何てこと無いただ普通の日常だった。



 愛人はまず朝日も上がらないうちから起き、お風呂に入る。時間をかけてゆっくりと体を磨く。日々美しくあるという事は彼女の仕事の一つだった。

 お風呂から上がると10分程で化粧を済ませる。決して手を抜いている訳では無く、彼女の美しさを引き立てるには薄化粧が映えるのを本人が一番理解しているからだった。



 着替えまで完璧に済ませた愛人は厨房に足を運ぶ。まだ朝も早く、朝食の準備は終わっていない。忙しく働き回る使用人がいるだけだった。愛人はブリオッシュが焼ける窯の側に暖をとる為に座り使用人用に準備された食事を口にする。メニューはライ麦パン、チーズ、ミニトマト二粒、ミルクのみだった。忙しい朝の使用人の食事には火を使った物は出さない。黒く固いライ麦パンをミルクで無理やり流し込む。

 何故食事を簡単に済ませるのかといえば彼女には早朝の楽しみがあるからだ。

 その楽しみとはストラルドブラグ家子息、クーベルカの寝顔を見る事だった。ちなみにこっそり忍び込んで拝見している為本人にはバレていない。思春期の少年なのでバレたりしたら軽蔑される事は分かっていた。

 そして十分に寝顔を堪能した後は、主人の部屋の前は素通りし、自室へ戻る。仕事の準備として、体中に仕込みナイフを装着する。その数約30本、主人が休みで不在の時はさらに20本多く装着する。





 準備が終わり玄関へ向かうと愛人付きのメイドが仕事用の鞄を差し出す。愛人は鞄を腕に抱え、出かけの挨拶を済ますとそのまま走り出してしまう。





「ちょ!ハルヴァート様ー」

「どうしたんですか?ミルク…」



 一人途方に暮れるメイド、ミルクに声をかけたのはストラルドブラグ家筆頭執事のアイザックで配膳の途中だったのか手には真新しいナプキンを持っていた。



「今日はシュナイト様がお休みの日だから馬車で行ってもらおうかと思ってたのに、走って行ってしまったから…」

「ハルヴァート様なら心配ありませんよ」

「いえ、心配は一切してないけど…何故シュナイト様と馬車で行くのを嫌がるのかが分からないわ」

「ああ、それは馬車の中でシュナイト様がハルヴァート様に毎回説教をなさるからそれが嫌で乗らないらしいですよ。」

「はあ?」



 ストラルドブラグ家の慌ただしい朝は過ぎていく。





「お前、真面目に愛人する気無いだろう…」



 クラトスの執務室に居るのは、部屋の主とモモ、アレンの三人でシュナイトは今日は休みの日だった。シナモンは別の仕事があり、クラトスの護衛には就いていない。



「え?モモ程真面目な愛人は居ないと思うんだけど…」

「いつ真面目な愛人活動をした?周りも薄々お前がただの侍女ではないと気がつきはじめてるみたいだ」

「……物陰とかで寄り添ったりしてるから!」

「…それ叱られてたんだろ?」

「……………」





「そもそも何でモモさんはシュナイトの愛人になろうと思ったのですか?」



 アレンが紅茶をカップに注ぎながらモモに訊ねる。何故アレンがお茶の用意をしているのかといえばクラトスがモモの淹れたお茶を飲みたがらないからで、数日前毒入りのお茶をわかってて振る舞った事を未だに根に持っていたからだった。



「…真面目騎士のシュナイトを困らせてやろうと思って愛人になったんだけど」

「困ってたか?」

「…一度も。むしろ怒ってました。モモも想定外だったの、シュナイトがあんなに手強いなんて」

「そうだろうな。あいつは時々騎士じゃなくて俺の教師か教育係なんじゃないかと思う時があるんだ…」

「王さまもシュナイトに説教されたりするんだね」

「まあな…」



 クラトスとモモ、少しだけ理解が深まりお互いの健闘を願ったとか願わなかったとか。

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