⑦「クーベルカは天使!異論はこの愛人が聞こう」
「ち…小さいシュナイトだ!」
ストラルドブラグ家の玄関でシュナイトの養子、ルティーナ大国から帰って来たクーベルカ・ストラルドブラグを迎えたのは一人の女性だった。
「誰?」
モモ・ハルヴァートの存在は執事であるアイザックからの手紙で知っていた、アイザックは彼女の事を〈シュナイト様の大切な方〉と書いていたが十中八九愛人なのだろう事はクーベルカには分かっていた。
「彼女はモモ・ハルヴァート様です。」
「ああ、父上の愛人だったね」
「クーベルカ様、ハルヴァート様は…」
「うん、そうそう愛人だよ」
「…………」
アイザックはクーベルカの認識を正そうとしたが当のモモに肯定されてしまった。
「父上も働き過ぎてとうとう頭がおかしくなってしまったんだね」
「クーベルカ様…!」
「あはは、手厳しいなあ。頭がおかしいのはモモだけでシュナイトは相変わらずの真面目騎士様です」
「ハルヴァート様…」
「アイザック、父上は?」
「本日は出仕されています。」
「…そう。ああ、ハルヴァートさん。あなたとはこれ以上話をするつもりはないから。」
「なんで?」
「…どこに父親の愛人と仲良くする子供がいるの?」
「そっか!!そうだよね、だったら…」
モモは懐から取り出したナイフでクーベルカを斬りつけた。
「なっ…!」
クーベルカは腰に差していた剣を抜き取り寸前でモモのナイフを受けた。
「ッ…何をするんだ!」
「…剣と剣で語ろうと思って、男の子ってそういうものなのでしょう?」
「何を言ってるんだ!…違うッそうじゃ、なくて」
クーベルカが話すのもままならない位の猛攻を受ける。ナイフを何度弾き飛ばしてもどこからか新しいナイフを取り出して斬りつけてくる。
「お前は手品師、か」
ストラルドブラグ家の玄関には何本ものナイフが散らばり、誰一人近付く者は居なかった。ただ一人を
除いては。
「…何をしているのでしょうか」
「!父上ッ」
「あっ、シュナイト!早かったね」
まだ時刻は夕方で日も沈んでなかった。
「今日はもう月が出てるので…」
「ん?」
シュナイトの意味不明な発言にモモは首を傾げたが、その隙にクーベルカの剣を払い落とす。
「あっ!!」
からからと音をたてながら大理石の床をクーベルカの剣が滑り落ちてゆく。
「モモの勝ちー!」
「卑怯だ!!」
「戦いに卑怯も何もないんだよー」
モモは自分より背の高いクーベルカの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「仲が良い事は結構ですがこういった事は外でやって欲しいですね」
「申し訳ありません父上…」
「シュナイト!モモが剣と剣で語ろうって言い出したの、クーちゃんは悪くないよ」
「誰がクーちゃんだ!」
夜、食事の席にモモは居なかった。机の上にはシュナイトとクーベルカの二人の食事だけが用意されていた。
「あの人は?」
「ハルヴァート様は本日はお一人で食事をされるそうです。」
クーベルカのグラスに水を注ぎながらアイザックは言う。
「?」
「クーベルカ様とシュナイト様に気を使われたのでしょう?」
「何、親子水入らずを邪魔したくないって?そんな繊細さは持ち合わせてないよ」
「ほほほ…クーベルカ様ももう少しハルヴァート様とお付き合いされてみれば分かりますよ。」
「は?もうあの人とはしゃべらないし!」
「そうでしたね」
そうしてクーベルカの帰って来た夜は静かに過ぎて行った。