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終章④「少女の手紙」

おじいちゃんへ

 おじいちゃんが騎士団の遠征隊長に就いてから半年がたちましたがお元気でしょうか?ハルヴァートは心配をしております。おじいちゃんに言われた稽古も毎日行っていますがやはり一人だとやりがいを感じる事は難しく感じます。ひさしぶりにナリミヤ流の剣術を教えて頂けたら嬉しく思います。

 相変わらずお母さんの具合は快方に向かわずお薬ばかりが増える一方です。お父さんもあまり家に帰らず不安です。どうか一度帰って来て頂けないでしょうか?

おじいちゃんの帰りをお待ちしております。

ハルヴァート・ナリミヤより




おじいちゃんへ

 ハルヴァートです。突然のお手紙をお許し下さい。お母さんの具合が良く無いみたいです。私の事も分からない様で、薬の依存も強くなっています。体がきついからか、周りに当たり散らし使用人の手にはおえなくなっている様です。

 執事に他の医者を呼ぶ様にお願いをしましたが聞いてくれません。屋敷には怖い顔をした人達が何人も出入りしています。

 一度家へ帰宅して頂けないでしょうか?お父さんも月に一度しか帰ってきません。お願い致します。

ハルヴァート・ナリミヤより



おじいちゃんへ

こんにちは、ハルヴァートです。おじいちゃんが遠征に行かれてから一年がたちました。お母さんの具合は相変わらず良くありません。最近は使用人の様子もおかしいのです。

 住み込みで働くミリアンの子供、エリーが廊下の隅にうずくまっていたので理由を聞けば朝食と昼食を貰えなかった、と言うのです。ミリアンは忙しくしていて構ってはくれないし食事もたまに忘れるらしくエリーは以前よりやせ細っていました。

 私はこの日からエリーのお世話をはじめました。小さな妹はとても可愛いです。ミリアンは私がエリーのお世話をする事に疑問を感じない様です。

 先月からお父さんは家で仕事をする様になり、怖い人達の出入りが増え、使用人達も忙しすぎて疲れているのかもしれません。以前とは違う屋敷に戸惑っています。少しだけで構いません、帰って来て下さい。お願い致します。

ハルヴァート・ナリミヤより



おじいちゃんへ

 こんにちは、ハルヴァートです。最近は吹雪が吹き荒れていますがお元気でしょうか?

 お母さんの事ですが、エリーの事を私だと思い込んでしまっている様で、部屋に連れ込んで離さないみたいです。お父さんもお母さんがエリーを可愛がるのを見て疑問には思わない様で話しかけても空返事しか返ってきません。執事も私の事は使用人と思い込んでいて、仕事をサボるなと怒鳴られてしまいました。仕方ないので使用人のお仕事をする毎日です。

 ミリアンに〈疲れが取れるお薬〉を貰いました。しかしどうみてもお母さんが飲んでいた薬と同じ物に見えました。手紙と一緒に同封しましたので調べて頂けないでしょうか?ついでに帰宅して頂ければと思います。

ハルヴァート・ナリミヤ




「ねえ、あなた今日街へ買い出しへいく日でしょう?」



 ハルヴァートは使用人に一通の手紙を差し出した。



「ついでに出して来て欲しいの。」

「ええ、分かったわ」



 使用人は快く手紙を受け取った。






「ねえ、アンナ、今日街へ行くんでしょ?また追加で薬貰ってきてくれるかしら?」

「構わないわ!」

「その手紙は?」

「………?何だったかしら」



 彼女はそう呟くと、手紙をゴミ箱へ捨ててしまった。

 手紙は一通もアルバートに届く事は無かった。

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