終りの世界と紫の悪魔
ワタシは雑草で生い茂った一本の道を歩いていました。
仮面の悪魔に教えてもらった場所に行く為です。
風景を眺めながら、ワタシはただ歩き続けます。
人類は美しい。ワタシはこの地球を歩いて眺めて、それを実感しました。
同時に、自然を破壊して科学の力で地球を汚染する人間を、ワタシは嫌悪します。
彼彼女等は、ワタシを人間の勝手な都合で始まった戦争の為に作り上げたのです。
そこに愛情などありません。
ワタシには作られた当時の記憶が残っていませんが、きっと人類はワタシが失敗作で心底絶望したのでしょう。
良い気味です。
一本道を抜けると、そこには墓がありました。
夜の墓というのは、なかなかの雰囲気を漂わせています。
興味本位で覗きました。
そこには、悪魔が一人居ました。
彼は廃れた人間の墓の上に座り、月を眺めています。
ワタシが近づくと、彼はこちらに気がついて驚きの顔をされました。
ワタシは何故か悪魔と出会うと、驚きや悲しみの顔をされます。
そんなに悪魔にはワタシのようなロボットが珍しいのでしょうか。
彼も勿論悪魔なので、人間とは思えない格好をしていました。
目には大量のクマ、髪の毛と口は黒い糸のようなもので縫い合わされています。
紫色の長袖を着ていました。
その紫の悪魔はワタシに近づいて喋りかけてきます。
はたして彼はどうやって言葉を発しているのでしょうか?
「やぁ、こんな時間にお散歩なんて、危ないヨ。良かったネ、僕が優しい悪魔で」
「…。あなたはここで何をしているのですか?」
「何も、この何もない地球で、やることなんてないヨ。僕は月を見ていた。それだけだヨ」
「そうですか。ではワタシはこの辺で」
軽い挨拶を済ませて墓をあとにしようとすると、彼はワタシを引き止めました。
「君、これからどこに行く気なんだイ?」
「…。目的地などありませんよ。ワタシはこの地球を宛もなく歩いているだけです」
ワタシはまた嘘をつきました。
「ウソつくのうまいネ。でもそんなのじゃ誤魔化せないヨ。これから君が行こうとしている場所には、行かない方がいい。それが君の為でもあり、ノイズの悪魔の為でもある」
ノイズの悪魔。恐らくワタシがこれから会いに行こうとしている悪魔の事でしょう。
ワタシとノイズの悪魔の為?彼とワタシには何か関わりがあるのでしょうか?
「今のこの世界は安全だヨ。人類がいた頃のように争いなんてない。悪魔の僕らは同族での争いは好まない。でも、もし君がノイズの悪魔に会ったら」
そこで彼は言葉を詰まらせました。
「…。会ったら?」
「この世界は本当に終るヨ」
「…。そうですか。でも、ワタシは行きます。そこまで言われて、行くのを辞める訳にはいきません。どうしても行かせたくないなら、力づくでもワタシを止めればどうですか?」
ワタシは紫の悪魔を挑発しました。
これまでの出来事でワタシは混乱していた。
彼らの反応。ワタシは本当に戦争の為に作られたのか。
そもそもロボットに感情なんて宿るのか?
ワタシは自分がわからなくなっていたのです。
「そんな物騒なことはしないヨ。それに、君には殺戮兵器なんて搭載されていない」
「…。ワタシはもう行きます。もしこの世界が終わったら、全部ワタシのせいですかね」
「君のせいかもしれないし、人間のせいかもしれないし、悪魔のせいかもしれないネ。僕は止めないヨ。行ってくるといい。ノイズの悪魔のもとにね」
ワタシは足早にこの墓を後にしました。