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ケース:『閑話』

 最近、俺は風呂に入ると、どういうわけかミカ太がよく現れることに気付いた。

 気付いたっていったらちょっとおかしいが、今をもって再確認したということだ。

 それが幸いにも湯船に浸かった時にしか出現しないので助かっている。

 ……いや何が幸いなんだろう。実に、非常に気まずい。

 風呂桶が小さいのはちょっとしたコンプレックスだ。

 そして狭い。利点はお湯が少くて構わないところか。

 しかも、満足に足も伸ばせないので心理的疲労がたまるたまる。

 ミカ太。あいつはいつもシャワーヘッドの前に陣取っている。お陰で髪を洗うのにも注水管をこちら側に引っ張って済ませる羽目になっていた。

 最初のころはこちらを平然と見つめてくるので「頼む、あっちを向いてろ」と懇願していたが、最近は些細な願いが届いたらしく壁向きの背中で喋るようになってくれた。

 蒸気でわずかに湿ったように見える服。

 背面ごしに見るミカ太のうなじは……きっと人に紹介したら「エロい」という即答が返ってくるだろうな。

 思えばミカ太にも胸は適度にある。そして決して巨乳や奇乳ではない。

 なんとも絶妙だ。俺にとっては。

 ミカ太は丸くて……ふっくらとしていて……ってどういう思考してんだ俺は。

 しかし何だって俺が素っ裸の時に出てくるんだこいつは。

「……」

「……」

 話題がなさすぎて言葉もない。

「なんか話せよミカ太」

「だっておれは高見のどんなことでも知ってるし」

「静かだと間が怖いだろ間が」

 ぬるい。このままだとのぼせてしまう。そろそろ上がるか。

「うーうーあー」

 ミカ太が怪訝な声を出しはじめた。

「ミカ太?」

「うーあー……てすてす……まったく……高見は……しゃーねーなー!!」

 突然ドスの利いた、もしくは低音ハスキーな声がバスのエコー付きで響いた。

「な、な、な」

「よし、話してやる。これでいいか、高見!」

「おまえその声なんだよ……気になるだろうが!」

 ミカ太のその声で記録再生した俺の声を思い出した。

 妙に似ている気がする。俺に。

「ただし女特有の声の柔らかさはそのままだけどなっ。この発声は大変なんだぞ、左右鎖骨の

 間を震えさせるのが低さのコツなんだ」

「知らねぇよ!」

「ふはははは」

「不敵な笑みを浮かべるな!」

「よし、今度はしばらくこれで付き合ってやる」

「……」

「俺もこの声をマスターするまでに練習が必要だしな!」

「おい……」

「発声練習に風呂はいいぞ、高見もついでにやれよな」

「それは勘弁してくれ……」

 にたにた笑うミカ太。いかん、完全にこいつのペースだ。

 こんな奴はスルーだ。深く考えずにスルーしてやる。せめて入浴中は。

 

「おい高見……」

 

「おまえってさ……」

 

「おれはね……」

 

「ほんと……」

 

 ……すっかりのぼせてしまった。


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