ケース『見方の味方』
季節は代わり月日は積み重なっていく。
そのことは不変なのだ。
あれ以来、になるのかな。
男友達とはそのまま仲良くやっている。
恋の掲示板の噂も全部が全部なくなってはいないらしい。
相も変わらず、である。
ただ、変わったものもあった。
……アニマというアニマを全く見なくなったわけだ。
絵那さんはちゃんと登校してくるようになった。
あれから、彼女とは接点がない。
俺も思うところあったので、踏み込んでは訊こうとはしなかった。
キミに会えなくなってから、いろんなことがあった。
キミに会えない日々。
俺はといえば、前より少しだけお喋りになったかもしれない。
物事は単純にしか見えなくなった。
以前ならふたり分、景色を眺めることができた。
些細なことでもふたり分、笑いあうことができた。
……楽しかった。
今は静寂に包まれてしまった学び屋。
そこに俺がいる。
俺だけはいる。
だけど……キミはいない。
キミだけがいない。
「さて、帰るか」
俺は帰路に就くことにした。
普段は雑多な騒がしさもどこかへ行ってしまったようで、街の灯りだけがやけにうるさかった。
ふと、足を止める。
ここで俺が車に水を引っかけられてずぶ濡れになったんだっけな。
思えばアニマと出会って間もないころだ。
あのころは、キミがいた。
そんなおり、我に返る自分がいた。
ちょっぴり感傷に染まったせいで気取ってるみたいだな、俺は。
まるで格好がつかない自作の詩のようでもある。
すれ違う人々。
つい、道行く人にアニマの姿を追っている自分に気付く。
何やってんだ、俺。
遊び疲れた迷路のように迫ってくる圧迫感をかいくぐる。
……まだ俺は迷っているんだ。
こんな時キミがいてくれたらいいのに。
アニマがいてくれたら。
だけど。
そんな時こそ、胸を張って前向きに行くべきだ。
全ては気の持ちようだ。
見方が変われば景色も変わる。
そしたら。
「ん? あれ? えっ、また?」
「……俺が見失うわけがないだろ?」
その異変に気付けるのかもしれないのだ。
「……見えるの?」
* 完 *