思い出の丘、憂鬱な俺
往く当てのない木枯らしが耳元で鳴く。
誰もいない、早朝の静かな丘。自分の住んでいる町が一望できるお気に入りの場所で一人佇む俺は、くだらない自問をただただ繰り返していた。きっと答えなど何処にもないような、無意味な自問。
何故俺はここに存在するのだろう? 何故俺は存在し続けようとするのだろう? 何故俺はこの何の意味もない毎日に終止符を打とうとはしないのだろう?
何故、世界はこんなにも退屈なんだろう?
誰かが聞いたら「悩んだところでしょうがない」とでも言うだろうどうしようもない疑問。確かに俺がネガティブなだけかも知れない。でも、俺はその疑問を頭から切り離すことなど出来なかった。
死ぬまで半永久的に繰り返されるありきたりな毎日。幼い頃は起こること全てが目新しい物ばかりだったのに、今年で17を迎える今じゃ、それはマンネリ化した作業的なものでしかなくなっている。そんな中で見えてくるものといったら、この先にある『死』への恐怖ぐらいだ。
あ〜あ……鬱だな。考えれば考えるほど鬱ぎこんじまう。漫画とか小説みたいにこう、何か奇想天外なことでも起こらないだろうか?
「……な〜んてな。起こらないモンは起こらない、か」
小一時間もいただろうか。俺は先程まで自分の立っていた場所に背を向けると、ゆっくりと帰路についた。
俺の住む西水原町は、都会というには少し寂しく、田舎と言うにもそこまで未発達なわけでもない何処にでもあるような平凡な町。俺はここで生まれ、ここで育ってきた。
んで、そんな俺の名前は神崎裕也。ごくごく普通の何処にでもいるような高校2年生、のはずだと自分では思っている。……まあ、他の奴等と比べて多少ネガティブなところがあるかも知れないけどさ。
今日は月曜日で学校もあるのだが、いつもよりも早くに起きてしまった俺は特にすることもなく、二度寝しようにも変に目が冴えてしまっていたので朝食を食べ終えるとこの丘に足を運んだ。間違って目覚ましを一時間も早くに設定したなんて本当にどうかしてる。
しっかしここに来るのも久しぶりだな。近頃は進路の話とか色々と忙しすぎた所為でなかなか来れなかったし。
町に続く山道を下りながら、初めてここに来たときのことを思い出す。確か小学校に入ってすぐの頃だっただろうか?
学校の休みの日か何かに、母親に「いいものが見れるよ」と言われて連れてきてもらった。丘に着くまでに疲れちまって駄々をこねたのを覚えている。でも、丘に着いたときの俺は疲れとかそういうのはどうでも良くなっていた。
到着してすぐに目に入ったものは、丘の下に広がる西水原町。当時の俺からしたらとても立派な建物だと思っていた小学校の校舎がおもちゃ程度に見える。あん時は感激のあまり知っている建物を端から指さして母親に報告してたっけ。いつまでも喋り続ける五月蝿いだけの俺に優しく微笑んでいた母親の顔が忘れられない。
「今になって思えば、いい思い出の場所……か」
家の近くの歩道を歩きながら、小さく呟く。
家に着き、今度は登校の支度をする。学ランに着替え、適当に鞄の中と髪型をチェックすると、俺は自分のもの以外の靴がない寂しい玄関をあとにした。