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神は神

私は神様が大嫌い

作者: 月森香苗
掲載日:2026/07/07

 私は神様が大嫌いだ。

 そんな私を『救済者』に選ぶなんて、目が腐ってるとしか思っていなかった。

 神様が私を『救済者』にした本当の理由を知りたかった。



 私は生まれた時から疎まれていた。


 母はとある既婚男性にずっと思いを寄せ、それをずっとずっと秘めていて、そして何がきっかけか分からないけれども箍が外れたらしく、薬を使ってその男性を襲いまんまと子供を作った。

 妻を愛していたその人は母を殺そうとしたらしいけれど、名家の娘に手を出すことはとても難しかった。

 愛し合っていた夫妻の仲を壊した母は、二人の間にまだ子供がいなかったことを理由に離縁を迫った。

 権力を使って妻の座を得た母の栄華は、私が女として生まれたことで終わった。産後で弱りきった母は呆気なく死んだ。

 生まれたばかりの私を愛せるはずもない男は、後継者になれない私を母の実家に引き取らせ、離縁させられた妻と再婚した。

 母の実家は既に代替わりをしていた。

 母の凶行は社交界でも知られていて、散々に甘やかし尽くしわがままに育った娘の責任を取って祖父は隠居させられ、祖母と主に領地の片隅で静かに暮らすようになっていた。

 当主になったのは母の兄で、私を穢れた娘として子を持つ下女に押し付けて育てさせた。

 いっそのこと孤児院にでも入れてくれた方が良かったのに。

 罪ある穢れた子として育てられた私は、古い記憶の中で既に働いていたように思う。

 給金が与えられるわけはなく、一日に一度、硬いパンとスープだけを与えられていた私の体はどこまでも小さかった。

 押し付けられた下女は私が一人で寝起きをし、服の着替えやご飯を食べることが出来るようになると育成をやめ、お屋敷もやめた。

 そこから私はまともに人と会話をすることもなく朝早くから夜遅くまで働く日々になった。

 働くだけならばなんの問題もなかったけれど、辛かったのは伯父の子供達の暴力のはけ口になっていたことだった。

 生傷は絶えず、いつ死んでもおかしくない日々を過ごしていた。


 私が虐げられる理由を知ったのは十歳のときで、母の行動の結果が巡り巡って私の元に来たのだと知った。

 教えてくれたのは神様だった。


 母の死因や、私に与えられた業なんかを語る神様の声はとても楽しそうで、嫌いだなぁと思っていた。

 私が死にそうでも死なないのは神様が私を見ているからだった。

 私は早く死にたかった。


 地下の薄暗い部屋の一つが私に与えられた場所で、布団なんかある訳もなく、石畳の上にほんの僅かな藁を撒いて寝起きしていた。

 何も知らなければ何も考えなくて済んでいたのに。



 私は生まれたことが罪らしい。

 馬鹿じゃないのだろうか。私が好き好んでこの世界に生まれたと思っているのだろうか。

 選べるならば絶対にこの世に生まれるなんてことはしない。


 母が悪いのは間違いない。そんな母を甘やかした祖父母も悪い。

 隙を見せた父親という男に罪は無いのか。馬鹿みたいに酒を飲んでいたそうじゃないか。その妻とやらは、学生時代からとても仲の良い男と歓談していたとか?


 神様は色々教えてくれる。

 知りたくもないことを沢山。だから大嫌い。



 私が十五歳になった年、私に暴力をふるっていた伯父の息子がとある貴族令嬢の頬を叩き休憩室に引きずり込んで凶行に及んだらしい。

 何が「姉は甘やかされたから常識がなかった」だ。お前も息子を甘やかした結果がこれか。伯父がもみ消そうとしても意味はなかった。

 その令嬢の婚約者は王族だったそうだ。


 母の生家の血が悪いとして一族郎党の処刑が決まった。

 私もだ。下女として働いていた私の体には母の血が流れているから。


 やっと死ねるのか、と思ったのに神様は随分と私を苦しめたいらしい。

 ぼろぼろに汚れた服。ボサボサの髪の毛。汚れきった体の私が引きずり出された王宮とやらの謁見の間とか言う場所で、私の額に『救済者』の証が発現した。

 目の前で起きた奇跡は仕込みだとかそんなことを言わせないだけのもので、私を国は処刑出来なくなった。


 私の扱いは面倒なものだったらしい。

 血の繋がりしかない男は私を処刑すべきだ、とか叫んでいたから、私も賛同した上で、初めて私の言葉を伝えた。


『まあ、貴方も私を産んだ直後の母を毒殺したので、神様のところに行けないですけどね。神様は知りたくないのに教えてくれましたよ』


 男は顔を真っ青にした後、色々喚いていたけれど知ったことでは無い。


『酒を飲みすぎて薬盛られたのはあなたの落ち度。奥さんも不倫相手と一緒に居るんじゃなくてあなたと一緒にいれば避けられたのに。まあ、もう終わったことですけど』


 神様は暇つぶしに色々教えてくれた。知りたくないと言っても、たくさんたくさん。

 寝たかったのに話しかけてくるから大嫌いだった。


『神様は色々教えてくれるんです。働かなきゃいけないから寝たいのに、寝かせてくれないんです。あなたの子供、奥さんの不倫相手の子供ばかりだよ、とか』


 可哀想に。相思相愛だと思っていた妻の裏切り。まあ、私の言葉が真実かどうかなんて、信じるか信じないかは本人次第だけど。


『神様が教えてくれるんです。王様の足の裏の痒みは水虫だから、きちんと対処した方がいいってこととか。王妃様のお化粧品には体に良くない成分が入ってるから肌荒れしてるんだよ、とか。まあ、私にはどうでも良いことです。私をさっさと殺してください。生きていたくないです』


 その後のことは分からない。

 私はどこぞの塔に連れて行かれ、全身丸洗いにされ、生まれて初めてベッドで眠った。

 死なせて貰えなかったし、監禁されてしまった。


 神様が要らんこと教えなければ死ねたのに。


 私は生まれた時から人としてまともに扱われておらず、名前も貰えず、神様としかまともに話したことがない。

 私が王様たちの前で話してた言葉は神様の使う言葉で、皆は強制的に頭に私の言葉が伝わっていたみたい。

 神様の言葉にはそんな効果があるとか知らなかった。

 私が伯父の屋敷にいた頃、私が口を開くことは許されなかった。私は皆の言葉を理解していたけれど、言葉として口から出るのは神様言語。うーん、不思議。


 一日二、三回もご飯を食べる時間があったけれど、私は一日に一回、硬いパンとスープの生活をずっとしてきていたからか、沢山食べることが出来なかった。

 お世話をしてくれるメイドさん達が泣いていたけれどよく分からない。

 私が生まれて十五年。まともな生活じゃなかったからか、小さくて細くて生きているのが不思議だとお医者さんとやらに言われた。

 神様のせいなんだよね、と思いながらとにかく今の私はよく食べよく寝て筋肉をつけよう、と言われた。

 私、なんで生きているのだろう。



 私の部屋には何人かの男の人が来た。

 神様はいつでも私にたくさんのことを話してくれる。


『伯父の息子が無理矢理したのは確かだけど、その令嬢は元々伯爵家の娘じゃないんですって。入婿が愛人との子を正妻の子として届け出て、本当の娘は国外へ奴隷として売られたみたいです。本来の当主を殺しているし、家の乗っ取り成功だね、って神様は不満そうです』

『騎士団長さんは隣国の内通者と繋がってるみたいです。まだ誰にも気付かれてないのが凄いね、って』

『あと……外務大臣さん。その鬘、質が悪いから替えた方がいいんじゃないかって。神様、ちょっと可哀想そうにしてました』


 『救済者』と言うのはその時その時で役目が違うみたいで、私の場合は神様が私の睡眠時間を削っては教えてくれる話を伝えることだったみたい。

 私が選ばれたのは、私がいつ死んでも良いくらいにこの世界に未練は無いし、人間関係も興味がなかったから、忖度もしないかららしい。

 まあ、確かに、神様が教えてくれるから目の前の人が誰かというのがわかるのだけど。

 あと、神様的に、いつ死んでも良いと思うくらいに心が逞しいから耐えられるだろうとも思ったそうで。

 逞しいも何も、まともな人間として育てられてないからどうでも良いのだ。さっさと死んでしまいたいのに許されないだけで。

 神様が私を『救済者』にしなければ。王様たちが神様の言葉を聞きたいと言わなければ。私は気持ちよく死ねたはずなのに。


 やっぱり神様は大嫌い。

 私を死なせてくれないから。

 からからと笑う神様は『それでも僕は君を愛しているよ』なんて言ってくるけれど信じない。

 私を愛してくれる人間は一人もいなかったけれど、神様だけは私を愛してくれるんだって。

 ならさっさと神様のところに行かせてくれたらいいのに、それは許してくれないから大嫌い。


 そして今日も私は神様の言葉を伝える。

 私が神様の言葉を伝える限り、私は大事にされる。

 塔のこの部屋から出ることが出来ないように監禁されているけれど、私は生きている。

 ご飯の時とお風呂の時、それから神様の言葉を知りたい人達が来る時以外は誰も来ないこの部屋で、私は神様のお話を聞くだけ。

 神様はとても楽そうに沢山喋る。


 今の状況は、神様の理想らしい。

 私が生きていて、ほとんど人と接することなく、穏やかに一日が過ぎることが。

 神様はやっと教えてくれた。

 早くに死にすぎると神様のそばに行っただけで魂が壊れちゃうんだって。だから、少しでも長く生きて、魂を強くして欲しいんだって。

 『救済者』にしたのは大事にされるけれど利用されないように監禁されるからだって。

 神様は心が狭いから、私が他の人達に愛されるのを見たくないらしい。本当に心が狭い。


 これだから神様は大嫌い。

 そんな大事なことは早く言って欲しい。

 神様の為にも少しでも長生きしなきゃって思えたよ。

 だからね、もう大丈夫だよってなったら直ぐに死なせてね。

 愛してるってちゃんと伝えるからね。




主人公視点では明らかにならなかったその後の皆さん


実父→妻の裏切りに多大なる衝撃を受ける。悪辣な手段を使った女こそが心から男を愛していて、愛した妻は学生時代から裏切っていたことを知る。

男の血を引く子供は主人公ただ一人だった。

主人公の母を毒殺したことは暴露されていたので、裁判にかけられる。


実父の妻→お家乗っ取りは重罪です。三人産んだ子は全て不倫相手の子供だと暴露されたことで、計画的な乗っ取りとして裁判に。当然だが、血を持たない子供たちに後継者の権利はない。浮気相手共々鉱山行き。

子供たちは孤児院へ。主人公を逆恨みするかもしれないけれど、その時は神様からお仕置される。


伯父一家→処刑された後に主人公が王族の婚約者の正体を暴露した。本来なら一族郎党から減刑された可能性もあるけれど、神様的には『いーらない☆』だったので、主人公が事実を言うタイミングをずらした。


王族の婚約者一家→処刑。お家乗っ取りの上、王家を騙したので。ただ、王家も徹底的に調べろって話。本当の娘は見つかったけれど、赤子の頃に奴隷として売られて育ったので国に戻っても貴族として生きられないから、平民の身分を与えて王領で暮らすことに。


騎士団長→処刑。奥さんと子供は離婚して実家に戻る。内通したのは戦争がしたかったから。騎士団長は世襲制にするな、とやっと変革した。


王様→水虫の治療完了。足裏の痒みから解放される。

王妃様→化粧品を変えたらお肌の調子が良くなった。


外務大臣→鬘をやめてスキンヘッドに。潔くつるつるにした。



神様→この世界に神様はたくさんいる。主人公の神様が救済者を選ぶのは初めて。たまたま目に入った赤子を気に入って観察していた。愛があるのは本当。死後に魂をそばに置くため、人間として長く生きて魂を頑丈にさせるために救済者にした。

主人公以外は割とどうでも良いけれど、秘密を話すのは楽しい。楽しいことが大好きなまだ若い神様。


主人公→結局名前はつけて貰えてない。ただ、神様がその魂に名前を付けているので、人間の言語では発せない。主人公自身、名前がつけられてなくても問題がなかったので死ぬまで彼女は『救済者様』と呼ばれる。

他大陸では『聖女』とか『愛し子』呼ばれているような存在。


カテゴリーに悩む作品。

問題児が多すぎる国だけど、神様的にはまあ、まだ残してても良くない?って感じにはそれなりの国。

問題児が多すぎる国だけど。


※当方基準のいつも通りの神様です。

神が人間に寄り添うわけ無いでしょう?

人間が神に人間の基準を押し付ける意味などないのですよ?

人間ってこれだから傲慢ですね。

自分たちの理想通りの神でなければ邪神とか、何を言っているのだろうね。


つまりはそういう世界です。


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― 新着の感想 ―
犬猫に予防接種をしても、酷いことをされたとしか認識できないように、神の視点で行うことは只人には理解できない感が出ているのが良いですね。 こんな神を愛せるような精神だから愛されたのか、神に愛されたからこ…
ちょっとチェーンソー持ってくる
神様とは勝手気ままな存在です。 独占欲強い神様を怒らせなかった この国(王家)は意外と永い歴史を歩むかもしれないですね。 尚、愛し子の子孫は残らないので(←神様結婚させないでしょうし) その後の…
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