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この痛みは、たぶん誰にも伝わらない。けれど、あなたには届いてほしい

きっと、そんな予感がする程度の話ではある。

だが、これは正しいと思う。

きっと、そうきっと、この痛みは、たぶん誰にも伝わらないのだろう。

昔から人と関わることが怖かった。

どうしてみんな、あんなに自然にコミュニケーションをすることができているのか不思議でならなかった。

目の前で笑っている友人が、心の奥底では何を考えているのか。

隣で手をつないでいる恋人が、本当にこちらを愛してくれている保証なんてどこにもない。

優しく教えてくれる先達、かわいらしく慕ってくれる子たち。どれもみんな怖かった。

表面上、いや、きっと8割ほどは心から楽しんで交流できていたのだろう。

それでも、どこか心の深い奥のほうで他人に対しての拭い切ることができないなにかがあった。

どれほど楽しい時間を過ごしていたとしても、それは陰からこちらを覗き見ているように感じた。

いつもの雰囲気から、こんな話をしてしまえばきっと周りの人たちは心配してくれるだろう。

それは本意じゃない。8割も信じている感情がそれに罪悪感を覚えてしまうだろう。

誰かに語ることもできない。だからと言って消え去ってくれることもない。

そんな痛みを、じわじわと訴えてきて忘れることができない痛みを、誰かに伝えることすらなく抱え続けていた。

いつものように会社に向かい仕事をこなし、いつものようにただ帰宅する。

たまの休日には、友人と交流し楽しい時間を一緒に作る。

あぁ、きっといつかこの痛みに殺されてしまう時が来るのかもしれない。

そんな言いようのない不安を背中に感じながら日々を過ごしていく。

いつものように会社に向かい、いつも通りの時間に帰ろうとしたとき慕ってくれている後輩が目に入った。

少し前の話では、今日は大切な彼女との記念日だったはずなのに。

あれだけ嬉しそうに語っていた彼のかを思い出していると、自然と口を開いていた。

「今日は仕事がしたい気分だなぁ。誰か仕事をくれないかな?」

後ろから声をかけると、後輩は申し訳ないと書いた顔をこちらに向けてきた。

「いいんだよ、大切な日で、大切な人なんだろ?行ってきな?」

そう言って、肩をやさしくたたきオフィスから追いやる。

何度も頭を下げてくれる彼を横目に、降ってわいた仕事に手を付け始める。

凝り固まり始めていた体を自覚し、両手を上げて伸びをする。

いつもよりも遅くなった帰宅時間を指し示す時計を一瞥し、帰り支度を始める。

外に出て、ふと空を見上げると予報外れの雨が降り始めていた。

自宅に帰るまでのことを考えると、適当に雨宿りができる店を探すほうがいいと思い、帰り道としてしか使わなかった道を改めて歩き始める。

何処かいつもより落ち着いた雰囲気を感じるその通りに、一軒の喫茶店の明かりが見え、何故か温かさを感じていた。

雨脚がわずかに強くなり、少し駆け足で店に近寄る。

「cafe 巡」

その名前を見て、なんとなくいいなと感じながら店のドアを開けた。

初めて入ったはずなのに、どこか居心地の良さを覚えた。

カウンターの奥にいるマスターを見やる。初対面なのに妙に懐かしい雰囲気を覚えた。

「雨宿りですか?」そう声をかけてきたマスターに、問題ないか尋ねると快く受け入れてくれた。


ほどなくして、マスターが気を使って持ってきてくれたタオルで身体を拭きながら注文をしようとする。

メニューを見ていると、少し離れた隣から声が聞こえてきた。

「おすすめは巡コーヒーだよ」

視線を横に向けると、一人の女性がそこにいた。

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