美しい景色に別れを添えて
月明かりの瞬く空を眺めて二人。
彼女は俺に別れを告げた。
だから、俺も彼女に別れを告げた。
家に帰ってきた彼女はいつもに増して笑顔だった。珍しいな、と思った。つられたように空気も明るくなっている。おかしさとともに笑いが込み上げてきて、笑顔を作ってみる。
ただいま、と彼女が言った。
おかえり、と返してみた。
二つの笑顔を突き合わせて、今度は二人で笑ってみる。この日は、夕飯の会話も、料理の味も、なんだか上質だった、気がした。
外からは石油を売る移動販売車の音楽が聞こえてくる。なぜか、今日にピッタリだと思った。そのことを言ってみたら、彼女も、私もそう思う、と言った。
普段は仕事を理由に飲まないアルコールを用意して、二人分のグラスに注いだ。なにを思ったか、乾杯してみる。美味しいとも不味いとも思わなかった。少しで満足して、これ以上は足さなかった。
なんとなく気分になって、二人で二ヶ月ぶりのベランダに出て、空を見た。既に時計は10時を指していた。
月明かりの青がかった光が照らす空に、湿った小雨が降っている。
彼女は、綺麗だね、と言った。
俺も、綺麗だね、と返した。
二人の会話が合図のように、時間が経つにつれて雨は雪に変わっていった。何も話さないまま、11時になった。
彼女が、ありがとう、と言った。
俺も、こちらこそ、と返した。
お互いの顔をまじまじと見つめ合い、笑った。
はじめから、なんとなく感じていた。
この気持ちだけは、言葉にせずとも手に取るように分かり合えた。
きっと宿命だった。
別に、それでよかった。
その方が、よかった。
夜が幕が下ろし、二人に幕が下ろされる。
その時のきっと二人は笑っている。
1週間後
起きてから1人で朝ご飯を食べた。
浴室には使われたタオルがタオルが残されている。
静かな家の中を誤魔化すようにスピーカーから音楽を流して、歌ってみる。髪を整えながらリズムにのっていると、誰かから着信が来た。
『今日の夕方に取りにいきます』
スマホを切って、玄関の隅に寄せられた沢山の荷物に目をやった。
『了解』
音楽を切って、鞄を持ち、荷物チェック。
よし、全部ある。ドアを開け、風を感じさせる街並みに向かって歩いていく。鞄にはあの日のキーホルダーが微笑んでいる。昨日の雪が溶けて、道に水溜りをつくっている。そこに反射して映る顔は、清々しい。きっと、上手くやっていける。なぜか、そう思って、スキップしてみる。
これからも同じ空の下で、お互いが上手くやっていけるよう願いながら。
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月明かりの瞬く空を眺めて二人。
彼女は俺に別れを告げた。
だから、俺も彼女に別れを告げた。
ただ、それだけのことだ。
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まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。
【余談】シンデレラボーイ聴きながら書いたので、内容が歌詞に似てるかもしれません...。