ドロッどろの半熟たまごみたいな
「蕩けるような恋をしたいよね」
いつもの居酒屋でダメ女二人がクダを巻く。令和の御時世、すっかり見なくなった絶滅危惧種な私達。
元事務員から金魚ビールを作る会社の社長秘書となった私と、黒いコスモスと呼ばれた社員の黒里桜子だ。
「マヤ社長はさ、金星人って言うだけあって、金運は良いけど恋愛壊滅だよね」
私、ジーコがぼやくと桜子もうなずく。
「真守会長も自分だけ恋人候補いるからって、惚気絡みがウザい」
恩人でも、色恋沙汰は別だ。お金もあって権力もあって彼もいるなんて、ムカつくだけじゃん。
金魚人の社員を除くと、社員数三十人程の会社なんだけど、男女共に全員既婚者。
くだ巻かれるので、彼らは飲みに誘っても来ない。
解せないのは今や親友になった、黒里桜子だ。地味なだけの私と違い、桜子は影が薄いだけで美人なのだ。黒いコスモスは揶揄だったけれど、美しい花って意味もあったと思う。
「よし、決めたよ。私の事は置いて先に行け作戦よ」
「また頭の悪いぼやきを」
「なんでよ。桜子をこんな大衆居酒屋の片隅に添えるのは間違いなんだよ。せめてホテルのレストランよ」
酔った勢いで、私は取引先に一斉にメールを送信した。会社のメールの私的利用と、桜子に対しても面倒事をかける迷惑メールだ。
翌日、桜子の恋人募集の急な呼びかけに応えた人達が集まった。
和菓子屋のリーさん、三日月商会の男の娘はともかく、なぜ既婚者の男子三名女子二名がいる? あとは、たまご。
「我々は黒いコスモスを守る親衛隊だ」
はい、却下。奥さん方と揉める未来が見えるよ。あんたら、かぐやんに貢いで懲りたろう?
「桜子様は男共に穢させない!」
はい、却下。人妻共が何を言ってる。出掛け前に旦那とチュ〜した口でほんと何を言うかな。
「私は、桜子様に蹴られたいのです」
はい、却下。某国元スパイの和菓子屋に、それ以上属性いらない。
「ぼ、ぼくは将来桜子さんと結婚するんだ」
この子は令嬢だった男の娘のショタだ。有望株だが、あと十年は待てん。
「……と、言うわけで関連会社にはろくな男がいない事がわかったよ」
フルフルした桜子に、頭頂部踵落としを喰らった。親友にも容赦ねぇ。
最後まで残ったのはたまご。たまごはたまご。いや、なんでたまごがいるんだよ、帰れ。
黒里桜子への「私の事は置いて先に行け作戦」は、会長預かりになり、全国の支社へ拡散された。
「どうしてくれるのよ〜!」
ごめん。でも、桜子には幸せになって欲しいんだよ。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
コメディ調に書きましたが、最後のジーコさんの思いには親友を想う複雑な気持ちもこめられています。たまごが固まればガールズラブとなるのでしょうか。
固まりきらない生卵に近いどろどろ感と、蕩ける恋をしたい気持ちがタイトルになりました。
会長の名前、ホラー企画で書いた心霊スポットの罠の登場キャラになっています。ホラー作品からなので背景に関係なく読めるように名前をあえて出していませんでした。
万一過去作探して読もうとなった時にホラー苦手な方もいますからね。
応援、いいね、評価、ご感想等があればよろしくお願いします。