人を食って暖炉を囲む
「ああ、腹いっぱいだ」
「やっぱこの時期は鍋だよなぁ」
学生二人、互いに食材を持ちより鍋をつつく。今夜の鍋はツミレ鍋だ。
満足した二人は、食後の紅茶を飲みながら暖炉を前にあたたまる。
「そういや、養殖がスーパーとかに出始めたらしいぞ」
「らしいな。ニホン産だっけ? 血抜きしたらどれも同じじゃねぇの?」
「餌を厳選してるから、肉の旨みが違うんだってよ」
「なら、今度試してみるか」
産地名につられて、最近見たニュースを思い出し、そのまま口にする。腹が満たされた後の話題など、取り留めもなく流れてゆくものだ。
「ニホンって自殺志願者に屠殺場を見学させるらしいぜ」
「うげっ、なんでそんなトコに!? 俺らでも惨くて誰も行かないのに」
食肉加工されたものに慣れた世代には、屠殺場の作業光景など惨たらしく感じる。そういったものは専門職に任せるに限る。
「なんか、そーするとほとんどの奴がやめて、抑止になってるっぽい」
「へぇー、人間って不思議だな。俺らがいなかった頃は、戦争しては同族殺しあってたってのに」
「同族殺しなんて、俺らにはわかんねぇ感覚だよな」
「ま。今は自分たちでやる代わりに俺の飯になってんだから、あんま変わってねぇのかもな」
「かもな」
彼らは姿こそ人に似ているが、人間ではない。人間を糧とする生物、食人鬼だ。
肉を糧とする食人鬼と、血を糧とする吸血鬼が繁殖し、いつしか人類の脅威となる数になった。その時点で、人間は食物連鎖の最上位種ではなくなった。
人口は上位二種に管理されるようになり、死刑宣告を受けた罪人、浮浪者、意思を変えなかった自殺志願者などが食肉として彼らに引き渡される。土地の有効活用のため、人類に墓の概念はなくなり、死後は食材だ。おもに食人鬼の料理用の出汁となる。
スマホで投稿動画を流し見するが、気付けばどんどんペット動画を流してゆく。
「はぁ、やっぱ地雷系カワイイよなぁー。飼おっかなー」
「見た目、五年も持たないし、どうせ食うのに?」
「ほら、人間が鶏肉食うのに、ひよこカワイイってゆーのと一緒だよ。食えもしない動物を飼って途中で捨てる人間よりマシだろ」
それはそうだ、と頷く。
食べないと決めた場合、吸血鬼眷属化申請をして飼い続ける選択肢もありはする。
「眷属化してまで飼ってるの見たことないよな」
「そりゃ、食べたくなるほど可愛いって証拠だろ」
所詮、どちらも食人鬼なのだ。