金木犀
『全部投げ出して海にでも行く?』
テスト期間、それはすべての学生を憂鬱にさせる時期。その時期にいつもまじめな君は言った。
そんなことを言われるのは初めてだったものだし、何しろ君がそんなことを言う人だとは思わなかったから、私は驚いた。
しかし、そんな感情をよそに私はいつのまにかあっさりと返事をしていたようだ。
『じゃあ、それで決まり。』と君は言って、いつものように顔を伏せて数学の勉強に戻る。
うん、と言って私も机に向かう。
でもどこか心が落ち着かなかった。
こんなことでワクワクしてしまうのも少し恥ずかしくて、君に気づかれていないか心配した。
君と私がいるこの教室には、シャーペンがノートの上を走る音しか聞こえない。
そこに金木犀の香りがどこからか静かに流れ込んできた。
『あ、でもテスト受けないのはさすがにやめておいたほうがいいか。』
「うん、さすがに笑」
『んー…じゃあテスト最終日!テストが終わったらそのまま海に行こう!!』
テストはしっかりと受けようというところに、君のまじめさが顔を覗かせた気がした。
2人の笑い声が、先ほどまでどこか無機質だった教室を淡く、優しく彩る。
——— 学年1位でまじめな君と、委員長でさえない私はテスト明け、” 全部 ”投げ出して海へ行く。