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マキとマサキの物語   作者: 森嶋直斗
8/10

マキとマサキの物語⑧一人きりの里帰り、その2 結婚を父、茂雄に報告しようと伊良湖岬に帰郷したマキ。茂雄は入院、危険な状態だ!

反対の声にも関わらず、マサキとの結婚に突き進むマキ。伊良湖の人たちは、暖かく、伊良湖の自然は、変わらずに迎えてくれた。父、茂雄に結婚の報告をしようと帰郷したが、茂雄は不在、入院して、危ない状態だった。マキと茂雄、仲間たちの考えた、最後の時間の過ごし方!

              人生!最高の終わり方!ご覧ください。

第8曲 一人きりの里帰り その2


一人で、里帰りしたマキ。父、茂雄が入院していた。容体もかなり悪いらしく、

難しい治療を専門としている。藤田病院に転院していた。


朝早く、家を出て豊明に向かった。豊橋まで出て名古屋方面へ。名鉄の豊明から

バスで藤田病院へ、10時過ぎ病院に着いた。病院の敷地内の食堂で軽く食べて、

案内へ行って聞いてみる。大きな病院なので聞いただけでは分からない。病院の

案内マップを見ながら部屋を探した。担当のナースステーションで、聞いてみる。

マキ:小久保茂雄の娘です。会えますか。

看護師:ちょっと待って下さい。先生に連絡します。かけて、お待ち下さい。

ずいぶん待たされているが、話が来ない。30分以上待って、医者が来た。

医者:娘さんですか。

マキ:はい。

医者:他にご家族、ご親戚とか、

マキ:私だけです。

医者:お父さんは、末期のガンで、転移が多くて・・危ない状況です。

マキ:手術とかするんですか。

医者:いいえ、治療は難しいです。痛みを取ってあげることぐらいです。

マキ:治療できないって、死んじゃうんですか?

医者:ここ数日が山かと・・・

マキ:数日・・・・会えますか!

医者:会えますが、話は難しいと思います。こちらへどうぞ。

防護服にマスクを着用し集中治療室に入った。茂雄は酸素マスクにゴーグルで、

誰なのか分からない。顔を覗き込んで、やっと茂雄だと分かった。

マキ:お父さん!わかる!マキ!お父さん!

茂雄の返事はない。手が、少し動いた。マキが、茂雄の手を握ると、

茂雄の指がマキの手の平に食い込んだ。

マキ:おとうさん・・・

看護師が、マキを連れていった。


マキは、待合室でどうしようかと考えていた。茂雄は、どうしてほしいのか。

渥美病院に転院の時の状況を電話して聞いてみた。

当時の担当看護師が、電話にでて、

看護師:茂雄さんは、入院の時からなんとなくわかっている様子で、延命治療は、

    いらないとか言ってました。どこか他の病院で診てもらっていたのかも

    しれません。病院としては、最善の治療を受けて頂きたいのですが、

    転院の時は、意識が無くなってしまったので、こちらの判断で、藤田病院

    に、転院してもらいました。

マキ:わかりました。ありがとうございました。


藤田病院の医師と話す。

マキ:治療して治すことはできないんですよね。

医師:完治は無理です。

マキ:どれくらいもちますか?田原につれて帰りたいんですが、できれば自宅。

   無理なら渥美病院まで。

医師:自宅は、難しいです。渥美病院に聞いてみます。


しばらくして、

看護師:小久保さん、先生は、手術が入っていて、看護師長の私がご説明します。

    渥美病院も治療の見込みがないので受け入れられないとのことで、

マキ:わかりました。こちらで車を用意して連れて行くのはどうですか。

看護師:引き留めることはできませんが、どうしても連れて行きたいですか。

マキ:連れて行きます。

看護師:普通の車で、酸素吸入等をしないで連れて行けば、田原まで持ちません。

    民間ですが救急搬送をしてくれる所がありますが、ご紹介しましょうか。

マキ:お願いします。


民間の救急搬送車が来て、茂雄を搬送してくれることになった。救急車と同等の

設備があり、運転手に看護師も付き添う。マキも車に乗って田原に向かう。

マキは、どこに行こうかまだ悩んでいた。田原に行くことは決めているが・・・


マキが電話する。

マキ:もしもし、北山医院ですか、先生いますか。

北山:私です。

マキ:小久保茂雄の娘、マキです。

北山:あぁマキちゃん、茂雄のおやじ、どうなりました。

マキ:先生、お父さんの病気知ってますか。

北山:ああ、うちで見てましたから、渥美病院に行くように言ったんですけど、

   最初は、自宅で良いから痛み止めだけくれって言い張ってたんですけど、

   自宅で死んだら家族に迷惑かかるからって説得したらやっと、入院して

   くれました。

マキ:先生、お父さん藤田病院に転院したんですけど、もう危なくて、伊良湖に

   帰らせたいんですけど・・今、救急搬送車で田原に向かってるんです。

北山:マキちゃん、一度、うちに寄っていけ。俺も乗ってく!


茂雄を乗せた救急搬送車は、北山病院に着いた。

北山:おー、お疲れさん。自宅まで行くだろう!乗ってくよ!

マキ:いいですか。ありがとうございます。

北山:看護師さん容体は、

看護師:今のところ安定してます。

北山:マキちゃん、いつ帰った。

マキ:昨日です。知らなくて・・

北山:おやじ、言ってなかったのか・・ちゃんと連絡しろって言ったんだけど・・

   看護師さん、ずーと意識、戻らんの?

看護師:病院にいるときは、2,3日前からこんな感じだったそうです。

    話しかければ反応はあると・・

北山:おやじ!分かるか!

茂雄の指が北山の手を掴んだ。

北山:おー、分かるか!マキちゃん帰ってきてるぞ!

マキ:おとうさん、もうすぐ伊良湖だよ!

茂雄の腕が上がった。看護師が慌てて、点滴の管をなおした。

北山:おー、元気出てきたな。


マキ:運転手さん、このまままっすぐ港まで行ってください。

車は、ガーデンホテルの前を進み、港の市場の横につけた。マキが、横のスライド

ドアを開けると、茂雄の船が停泊している。

マキ:おとうさん!茂丸!見える。

茂雄:うーん!

と、声を上げた。

北山:分かるか!元気な時とおんなじ反応だな・ははは

マキ:そうだね。どうせいつも”ん”しか言わないから(笑)

茂雄が、マキの手の平に爪を立てた。

マキ:おとうさんが、からかうなって、怒ってます!

北山:おー、元気出た、良いぞ!


車は、恋路が浜を抜けて、ビューホテルの登り口につけた。マキがドアを開け、

北山と看護師が茂雄の体を起こした。すると、茂雄が自分でゴーグルをおとして、

茂雄:うん・・いい・・

と、いいながら神島から恋路が浜を見下ろした。


とんびが、ヒーヒョロロ と、上空を旋回し搬送車のフロントガラスに影が走る。

運転手:ほー、絶景ですね。

と、思わず仕事を忘れて声が出た。

車が、丘を左にカーブすると、波音が聞こえてくる。”ザザー、、ススー・・”

今度は、海と水平線だけが、どこまでも、曲線でつづく。

運転手:これまた見事なロケーションですね。

もう、観光客のリアクションだ。


マキ:そこ、左の駐車場に入れてください。

車が、止まった。

看護師:ココが自宅!良いですね!

運転手:ここが自宅、良いですね・・ ハモリじゃなくてユニゾンできた。

マキ:台風が来たら危険ですよ。

北山:そうだなあ。


茂雄は、自宅に運び込まれ居間で寝かされた。看護師と北山が、酸素や点滴を整え

て、容体も安定している。

救急搬送車は、北山の指示した薬を置いて帰っていく。

マキ:ありがとうございました。


北山:しばらく診てるよ。病院もお盆休みだ、直斗も帰ってくるし、

マキ:先生、ありがとうございます。良いですか。

北山:容体も安定しとるから、直斗の顔、見てくるわ。


北山は、美沙の家に行った。

北山:おーい、美沙さん、おるか!

美沙:はい、あれ、北山先生どうした!

北山:茂雄のおやじを、マキちゃんが連れて帰ってきた。付き添いだ。

美沙:そんなに悪いの?

北山:今日か、明日か・・行って、顔見てやれ。俺は、直斗の顔見てくぞ・・

北山は直斗の仏壇に線香をあげに行って、美沙は、茂雄に会いに行った。

北山は、直斗の仏壇に線香をあげて、

北山:直斗、連れてくのは、もうちょっと待て、お前が、帰るときでいいだろ!

   ”チーン”


交代で、茂雄のそばにつき、交代で、美沙の煮物をつついた。茂雄の容態も良く、

時々、顔を動かして何か言うようになった。テレビも見れるようで、番組を変え

て欲しいと手を動かすので、マキが、風鈴をぶら下げて合図ができるようにした。

北山:病院のナースコールより、良い音だな。(笑)

茂雄が笑って

茂雄:うん・”チリン、チリーン”

と、鳴らした。


美沙:マキちゃん、盆踊り見ておいで、茂雄さんも安定してるから。

マキ:良いですか。ちょっと行ってきます。


マキは、伊良湖小学校の校庭でやっている盆踊りを見に行った。マキが子供のころ

のように、はしゃぎながら走っているだけの子や、大人顔負けにカッコよく踊って

いる子供など、昔と同じ風景が見られた。校庭から伊良湖神社へ続く参道に屋台が

出ている。何を買うわけでもないが、見に行った。綿菓子や、りんご飴、お面など

いつもと同じだ。向こうから知った顔が歩いてくる。思わず物陰に隠れた。悪い事

をしているわけではないが、見つかれば、余計な話がぶりかえす。ミニーのお面を

買った。顔さえ隠せば、好きなものを見れる。

金魚すくいを探したが、やっていなかった。フランクフルト、焼きそば、たこ焼き

を買って帰った。

マキ:やっぱり夜店は、一人じゃ寂しいな・・

街灯もない道は、夜空がにぎやかだ。都会の星空とは違う。見上げながら思わず、

深呼吸したくなる。


マキ:ただいま。お父さんたこ焼き買ってきた。

酒飲みの男は、たこ焼きが好きだ。ひとつづ食べやすい。箸もいらない。味が好き

と、言うよりめんどくさいものを排除するとたこ焼きが酒飲みにベストなつまみと

なる。茂雄に見せると、仏壇の方に視線を送る。

マキ:先生、お酒は、ダメですよね。

北山:ちょっとまて、

北山が、点滴を選んで、交換した。

北山:みんなも一緒に、ちょっと飲むか!

マキ:用意します。

美沙が煮物を持ってきて、たこ焼きと焼きそばを茂雄の前に広げて、仏壇の横から

少し残っていた焼酎、青一髪セイイッパツを持ってきた。

北山:っ、これこれ!茂雄のおやじ、どこで買ってるのか・・もらってるのか?

   俺が聞いても絶対、言わないんだよ。お金出しても買える酒じゃないんだ。

マキ:そんな珍しいんですか?おとうさん、金がないからゲンキーとかで買ってる

   お酒かと思ってました。安いのにおいしいなって・・・

北山:珍品中の珍品だぞ、久しぶりに飲ませてもらえるか!

マキ:はいお父さん。持てないから、ストロー短く切ってほら

美沙:はい、先生も

北山:献杯!

マキ:やだ、先生、まだ逝ってないって、おとうさん怒ってるよ!(大笑)

北山:ワリイワリイ、直斗にだよ・・へへ(笑)

茂雄も青一髪で口を湿らせ、みんなも笑いが出る酒になった。終わる時が近づいて

いる。夜も更けて、酒もまわり、みんな寝床に着いた。交代で茂雄に付き添う。

朝方、交代してマキが茂雄に寄り添った。寝ている茂雄をしばらく見ていた。

マキも、みんなも、茂雄も、気持ちよく眠っていた。波音だけが静かに聞こえる。



”チリン・チリ”

マキが目を覚まして、茂雄の様子を見る。呼吸が無い・・・北山を呼びに行く。

マキ:先生!お父さんが・・

北山:おー、行くよ。


北山:おやじ!おやじ!

脈をとり、瞳孔にライトをあてて診た。

北山:直斗が道案して連れて行ったわ。

マキ:・・・・

黙って、涙だけ落とした。


15日、葬儀も終わり、マキは大宮に帰った。


ボナペティーで

ゆり:急だったんだね。

田:おとうさん、最後は喜んでたよ。みんなそんな風に終われたら納得じゃない。

マキ:ちょっと早かったなって、これで、本当に帰るところが無くなっちゃった。


これからは、ここが自宅のようなものだ。




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