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マキとマサキの物語   作者: 森嶋直斗
2/10

マキとマサキの物語 ②始まりの歌 波打ち際を走るマキ!マキが先か、トンビが先か!カタクチイワシの争奪戦!

豪雨災害で被災し、婚約者の森嶋直斗を失ったマキ。失意のもと故郷の伊良湖岬に帰ったが、人々の優しい言葉はどれもマキを更に苦しめた。そんな中、伊良湖岬の自然や動物たちは、いつもと同じで変わらない。普通に流れる伊良湖岬の時間が、マキを先に導いた。

”都会に出て、もう一度トリマーを目指してみよう!”小久保真樹が、走り出した!

第2曲 はじまりの歌

1か月後、マキはJAの窓口に復帰した。豪雨で被災した小久保真樹。結婚相手の

森嶋直斗を急に失ったマキに田舎の人は優しいく声をかけ、誰もがマキを気遣う。


愛情のつもりの偽善の気遣いは、殺人よりも罪深い。無知は、被害者を殺すより

苦しめる。

マキちゃん大丈夫。頑張ってね。何でも言ってね。助かって良かった。

まだ若いんだから。元気出して。お父さん心配してた。いいって私やるから。

あんたが悪いんじゃないから。もうちょっと休んでもいいんだよ。

言葉の数だけマキを刺した。


3日後、マキは体調不良で仕事を休んだ。

4日目、自宅の上を飛び交うトンビの声が気にかかった。普段無口な茂雄が、

茂雄:マキ!

と、声をかけて、割り箸と玉ねぎネットをもって出て行った。マキは、頭の中を

何かが走り抜けていくのを感じて、

マキ:行かなきゃ!

家を出かけて、

マキ:あっ、しまった!

家に戻り、クーラーボックスに凍らせたペットボトルを入れて持って出た。茂雄を

探すと、自宅前の坂を海岸へ降りて行った。波打ち際を走る茂雄にトンビが攻撃

している。

マキ:わーっ!ヒーイッ、ヒーイッ!

叫びながら茂雄に群がるトンビを追い払う。寄せてくる波に膝まで入っていくと、

持ってきたクーラーボックスに海水を汲んだ。茂雄が、

茂雄:おい!これ!と玉ねぎネットをマキに渡した。

マキ:ちょうどいいサイズだね。

玉ねぎネットの中で、跳ねているカタクチイワシを海水で洗って砂を落とす。

まだ、生きているカタクチイワシをクーラーボックスの中にしまうとマキも

波打ち際に、上がって、身構える。

ザブーン・・ザザザザスー・・・・・・ザドーン・・

          バシャバシャバシャピチpチバシャバsyピチ

大量のイワシが砂浜中に打ちあがった。

マキ:ワー、ヒューッ、ヒョーッツ!

と、叫んで、波を蹴散らしマキが走る!イワシを奪おとするトンビを追い払い、

砂浜に打ちあがって跳ねているイワシを割り箸で拾って、玉ねぎ袋にいれる。

ザブーン・・・ザザザザスー

次の波が、砂浜に跳ているイワシをみんな海につれ戻していった。

マキ:はーッ、はーッ・・息が切れる。一瞬の勝負は終わった。

足元を洗う砂にトンビの影が恨めしそうに流れている。

クーラーボックスに海水で洗ったカタクチイワシや小アジをいれると、

マキ:お父さん無理だわ。

重すぎて、かつげない。

茂雄が、クーラーボックスを担いで自宅の前の坂を登って帰った。


その日の食卓は、イワシづくし、大きめのイワシは、刺身、なめろう。小さめな

イワシは、サンガ焼きとつみれ汁。アジとイワシのフライ。冷蔵庫には入りきらな

い程のオイルサーディンを作り置いた。

茂雄が、仏壇の横に置いてあった焼酎、青一髪セイイッパツを出してきて。

茂雄:飲むか?

マキ:うん。作るよ

マキが、ロックグラスに氷を山盛り入れて持ってきて、青一髪を注いだ。

茂雄:・・うん。

マキ:・・うーっ、切れてる!青一髪!

一年に数回しかない、地元の人も知らない、この家族だけの至福の時間だ。


5日目、自宅で、ぼーっとしていたが、マキは、一人で港まで歩いて散歩に出て

いった。日出町の自宅から港までは徒歩で30分以上かかる。

マキ:いつ以来かな。この道を歩いてくるなんて。日差しが、強く、肌に刺す。


港に着くと、顔なじみの野良猫たちが寄ってくる。マキだと分かるとプイっと横を

向いて座った。リュックの中から昨日のイワシを干したものを取り出すと、猫たち

がササっと寄ってきた。一匹づつイワシをもらうと、離れて行って、満足そうに食

べる。この子達は、口がこえていて、おいしい魚しか食べない。コンビニの総菜を

観光客が、かわいがって与えても、ごみとして残っていて、カラスも食べない。

人間よりも贅沢なのだ。直斗が釣りをして、雑魚が釣れると投げてやっていたが、

どんな魚でも生きていれば食べるのではなく、イワシやアジなら食べるが、美味し

く無い魚は、見向きもしない。


トンビも近くの電柱で恨めしそうに見ている。マキが、

マキ:ヒューヒョロロ、ヒューヨロロ

と、呼ぶとトンビがマキの頭上を旋回し、マキに向かって飛んできた。イワシを

マキが空に放り投げると、うまくキャッチして電柱の上に舞い上がった。


彼らは何も言わない。いつもと同じだ。直斗がいるときも、いなくなっても。

8月も終わるが、日差しは厳しく汗が噴き出てくる。


帰り道は、伊良湖神社を抜けて帰る。少しは日差しが和らぐ。蝉の声がうるさく、

耳が痛いほどだ。自宅に付いて、シャワーを浴びて出てくると、父が何も言わず

ムヒを渡してきた。

マキ:ん・ムヒ?

鏡を見ると、首筋から耳たぶ、足首、くるぶし、そこらじゅうが蚊に刺されて、

赤くふくらんでいた。今まで、かゆくなかったのに、急にかゆくなってきた。

ムヒを塗ってもかゆくて、爪でバツ印をつけた。・・・別に効果は、無い。

マキ:なんで歩いて行か無いか思い出した・・蚊とマムシと日焼けだ・・・

Tシャツをめくるとくっきり2色に分かれていた。


何も言わない故郷の自然な景色は、リハビリの特効薬だ。何かしたくなる。

何もない、伊良湖岬の効き目は効果絶大!南に町は無い。見渡す限り海しかない。

行くところは北!ここから北は、伊良湖より都会ばかりだ・・・

マキ:お父さん、トリマー目指してみるわ。街に出るね。

茂雄:うん。

無口な父が、ちょっとだけ笑ったように見えた。


次の日、JAに行って退職願いを出した。次の仕事はまだ決めていない。

自宅に帰り、スマホの求人で、トリマー見習い募集で、検索した。

最初に出てきた大宮の店に応募に採用希望通知を出した。どこでもいい遠くても。


次の日に電話が来て、その次の日に面接に行った。雇ってくれるというので、

その足で不動産屋に行き、アパートを決めた。引っ越し屋も紹介してもらい。

単身パックで申し込んだ。

マキ:お父さん明後日引っ越す。お母さんの鏡台だけ持っていくね。

父:ううん。


その夜

マキは母の鏡台の前に座り、長い髪をゴムでまとめて肩あたりでバッサリ切った。

トリマー用のスキばさみで、器用に後ろ髪を整えると前髪もチョチョンのチョン。

美容師でも行けるんじゃないかと思える手さばきで自分の髪を仕上げた。


引っ越しの日

マキ:お父さん行くね。

茂雄:着いたら電話くれ。

2tトラックの助手席に乗って、マキは、埼玉県の大宮市に向かった。


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