イキって奴を追い詰めろ ー落下ー
ドドンに担がれ、場所を移した。
あの竜擬きは岩にぶち当たったまま動きを停止。
豪快に衝突していたが、あれしきで死んではいないだろう。
擬きとはいえあれも竜。
生命力は折り紙つきだ。
「わぷっ!?」
「よし、これで動けるようにはなるじゃろ」
ドドンに頭からポーションをぶっかけられた。
身体から傷が消え、痛みが引いていく。
治してもらえるのはありがたいが、ぶっかけるなら一言欲しかった。
ポーションが鼻から入りそうになるから。
「ありがとう、ドドン。アンタが来なかったらマジで死んでたわ」
「なら、帰ったら一杯奢って貰おうかの」
「絶対一杯で済まないやつだろ、それ」
完全回復とはいかないが、軽口が言える程度には回復した。
「ルフェイリアは?」
「下じゃ。深度Ⅳに来るために氷の魔術でデカイ階段を作っての、それで魔力切れになったんじゃ。それにあの助けた男もまだ目を覚ましとらん以上、どっちかが残らんといかんからな」
下、つまり深度Ⅲにいるらしい。
あの竜のパチモンを相手取るならチーム全員が望ましいが、仕方ない。
てか、あのデカい壁に氷の階段かけるとか、アイツ凄いな。
高位森霊種ってのは伊達じゃない。
そういえば。
「なんでここに? 俺、預かった信号弾落としたんだけど」
「ん? あれならちゃんと仕事したぞぃ。だからこっちに来たんじゃ」
どういうことだ?
俺は間違いなくあの信号弾を落として・・・。
あ。
「落とした後に作動したのか・・・?」
「そうなるの」
運の良いヤツじゃな! と肩を叩かれる。
ホントだよ。
竜擬きに捕まって信号弾を落として、気絶したタイミングで作動。
その後深度Ⅳに連れて行かれて気を失っていたから気づかなかったのか。
お、俺の悪運つえー・・・。
「で、アレが宝を奪ったっちゅう竜なんか?」
「たぶんそうだ。竜、かは分かんねぇけど、小さい宝箱を守ってるように見えたし」
視線の先、吹き飛ばしたヤツがいる位置。
あれから不自然なほど動きがない。
「宝を見つけたんか?」
「あぁ、置いてきちゃったけど・・・」
ドドンが驚いたような、期待したような眼差しを向けてくるが俺は顔を合わせられなかった。
しょうがないじゃない、命かかってたんだから。
「いや、大体の場所が分かっただけ儲けもんじゃ」
「そう言ってもらえると助かる」
いやホントに。
そうこうしていると、瓦礫の中から奴が出てきた。
ドドンの一撃を食らってもケロッとしてやがる。
単純にタフなのか、打撃には強いのか、あるいはその両方か。
何にせよ、アレが駄目なら直接斬ってダメージを与える方が効果的だろう。
「見れば見るほど、おかしな見た目のモンスターじゃな」
「なぁ、やっぱアレって竜じゃないよな?」
「そりゃそうじゃ。竜も大概非常識な生き物じゃが、あそこまではないわい」
やはり竜ではなく竜擬きらしい。
ますますあの依頼主が怪しく思えてきた。
それとも宝を奪われた時は普通の竜で、後からああなったとか?
まさかな。
「じゃがタフさは竜顔負けじゃな。ピンピンしとるわ」
「でも尻尾は俺でも切り落とせた。斬撃系の方が効きがいいと思う」
「お、無いと思ったらオマエさんがやったんか!」
やるのぉ! とまた肩をバシバシ叩かれる。
だから力強いって。
「ならワシも斧で戦るかの。坊主、援護は任せるぞ」
「援護って言っても、俺遠距離は・・・」
「隙が出来たら攻撃、くらいでも構わん。嫌がらせしてやれ。奴も尾を斬ったオマエさんを警戒する筈じゃ」
背中から大斧を抜き、両手で構えるドドン。
嫌がらせ、嫌がらせか。
アイツに効きそうな嫌がらせ、うーむ。
「ワシらの仕事は宝の奪取じゃが、アレがおる以上それは出来ん。倒すか、動けなくするか、この辺以外の何処かに逃げられるまでは戦わにゃいかん」
「なぁ、ドドン」
効くかどうかは分からないが、もしかしたら凄まじく効果があってかつ試していないモノが一つあった。
「ちょっと試したいことがあんだけど」
白い竜擬きを俺が誘き出し、釣られて来た奴にドドンが攻撃を仕掛けることになった。
ドドンからは「そんなんで大丈夫か?」と呆れられたが、俺の勘だと多分大丈夫。の筈。
早速行動に移し、俺は奴を姿をかろうじて上から確認出来る岩の上に立つ。
そして肺にありったけ空気を溜めーーーー
「おいそこの底辺探索者に尻尾切り落とされたヘボドラゴンーー!!」
ーーーー思い切り罵倒した。
「そこのオマエだよ、オ・マ・エ! 聞こえてんのかそこの羽付き白蜥蜴! うちのクソッタレ依頼主みたいな色したオマエだよ!」
沈黙、返答なし。
「人のこと散々追い回してくれたなぁ!? 鳥の糞みたいな色したくせによ! ストーカーかなんかですかぁ!?」
沈黙、応答なし。
「俺に尻尾切られてビビって声も出ねぇか!? 安心しな、次ぁその羽むしって本当に蜥蜴にしてやるよ! あ、でも尻尾もないから蜥蜴擬きかぁ!?」
我ながらなんて幼稚な挑発だ。
自分で発案しておいてなんだが、これで本当に上手くいくのか疑問に思えてきた。
「蜥蜴の丸焼きにされたくなきゃかかって・・・いや、ちょっ、速い速い速い!?」
これまでで一番素早い動きを見せて襲いかかってきた。
まさかの効果抜群!
奴は煽り耐性が無いらしい。
上手くいったのはいいが、それで命の危機とかシャレにならん。
煽られて怒っているっぽい怪物に追いかけられながら、俺は誘導地点まで全力ダッシュ。
迫り来る奴の爪があと少しで俺に届きそうなそのタイミングで、下から見えない位置にいたドドンが飛び出す。
「ぬおりゃあっ!!」
岩から飛び降り、豪快な斧の一撃が奴の頭部の仮面を直撃。
急所であろう部位を狙った重い一撃により、奴は顎を地面につけることになった。
だがーーーー
「ぬおっ!?」
弾かれるように空中に飛び出した竜擬きにより、今度はドドンが吹き飛ばされる。
地面を二度跳ね、岩に背から激突。
「ドドンのおっさん!?」
「だ、だいじょうぶじゃ!」
結構な高さまで吹き飛んだが、ドドンは直ぐに立ち上がった。
頑丈なおっさんだ。
「それより奴じゃ、逃げよるぞ!」
「逃げてくれんならいいんじゃねぇのか!?」
「ありゃ放っとくとマズイ。途中で襲われても敵わん。それに他の同業に狩られちまうくらいなら・・・」
「俺らで、か」
欲をかくつもりはないが、ドドンの言うことは一理ある。
空中に飛んだ奴を見れば先の一撃が効いたのか、ふらふらと不安定な軌道を描いている。
確かに、ここまできたらやるしかない。
「奴のドタマをかち割るつもりでやったら刃が欠けた。あの仮面にひびを入れてやったが、これはもう使えん」
ドドンの大斧は刃がぼろりと欠け、亀裂まで入っている。
《第二線級》である彼の得物は上質な魔法資源で造られているハズだが、あの竜擬きの仮面はそれ以上の代物ということか。
しかし奴を討つための貴重な武器がもう使えない。
どうする。
「ワシがヤツを引きずり落とす。落としたとこをオマエさんがやれぃ」
「え、俺!?」
「他に誰がいるんじゃ」
ドドンは言いながら自身のカバンを漁り、中から束になったロープを取り出した。
恐らく巨大な壁のような崖を登り、この深度Ⅳに来る為のものだろう。本来は。
「ワシがこいつで向こうに落とす。あとは落ちたとこで翼を狙えぃ!」
「え、いや、ちょい・・・」
「出来るよな!?」
「出来らぁ! ヨユーだから見とけよ!?」
またやってしまった・・・。
確かに他の手段が浮かばない以上、文句は言えない。
大事な役割を任されても正直上手くやれるか自信がないが、目の前でイキった以上やり遂げるしかない。
心の準備も済ませぬうちに、俺はドドンが指定したポイントに走り出した。
ポイントに到着。
ドドンも既に走り出しており、助走をつけてロープを目標目掛けて放った。
「ここまでやって逃すかぃ!」
先端に鉤爪のような杭がついたロープが、空中にいる奴の足首に巻き付いた。
ドドンと竜擬き、探索者とモンスターの綱引きが始まる。
逃げようとする者と、それを逃すまいとする者。
体格に差はあるが、両者の力は拮抗していた。
互いに無傷なら奴に分があったろうが、奴は今頭部にショックを受けている。
そしてーーーー
「ーーーーっっっっんぬおぃいいい!!!!」
探索者の咆哮が響き、弧を描いて白き怪物が地に落とされた。
作戦通り。
あとは落とされた衝撃で動けなくなったところを狙う。
狙うは勿論。
「翼ぁ!!」
自慢の愛剣が、奴の四枚ある翼のうち二枚をまとめて刺し貫いた。
白い血液が滲み出る。
手応えあり。
よし、と成功を喜ぶのも束の間。
「うおぉっ!?」
白い怪物ははそれでも止まらなかった。
剣を突き刺した俺を振り払おうと悶えながら、前進を始める。
前後左右に振るわれ、落とされそうになりながらも剣の柄を意地で握る。
「んぐぐぐぐっっ!?」
離してたまるか。
ここで離したら剣持って行かれるっ・・・!
商売道具失くしてたまるか!
剣の柄にしがみつき、そのまま爆進し続けると、先に見えてきたーーーー崖。
「あっ・・・」
ここがどこかを思い出した。
そうだ、ここは最初仲間との合流を目的に目指した場所。
深度ⅣとⅢとの境界線。
つまり、断崖絶壁。
落ちればどうなるかは、考えるまでもない。
「ちょ、まっーーーー止まれ止まれ止まれぇぇぇぇぇ!?」
停止の絶叫虚しく、訪れる浮遊感。
翼を損傷し飛べなくなった竜擬きと降りれない探索者は。
「いやああああぁぁぁぁぁああああああああああ!!??」
巨大な氷の階段を砕きながら、落下していった。
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