01-サヨナラ世界、こんにちは新世界
人の一生など儚いものだ。
この世に生を受けて17年。
とうとう彼女も出来ないまま一生を終えるのか。
一瞬の油断――それが命取り。
家の階段を踏み外し、頭から落ちている間はまるでスローモーションだった。
サヨナラ……俺の人生――
◆◆◆◆
「いっ……」
目が覚めると、知らない天井だった。
窓から差す光が眩しい。
「ああ、病院か……」
一人納得してごちる。
どうやら、俺の人生はまだ終わっていないようだ。
「それにしても……個室なんかにして家の家計は大丈夫か?」
家の家計は正直厳しい。
豪華な個室に申し訳ない気持ちで一杯だった。
「痛っっ、体が重いな……」
ベッドからゆっくり体を起こしたが、頭痛と体に走る鈍痛で思った以上に動けなかった。
そりゃそうだ。二階とはいえ、階段から落ちて無傷とはいかないだろう。命が助かっただけありがたい。
後は、何日入院しなきゃいけないかだ。
遅くなればなるほど勉強だって遅れる。
来年は受験だし、少しの遅れが命取りになるかもしれないと思うと、焦る気持ちが出てくる。
そんな心配をしていると、病室のドアがふいに開けられた。現れたのは、目がくりくりしていて可愛い女性の看護士さんだった。
看護士のお姉さんは、起き上がっていた俺と目が合い少し驚いた顔を見せた後、キリッと覚悟を決めた表情に変わった。
「お目覚めになられて良かったです。どこか痛む所はありますか?」
「あー、少し頭痛がするのと、体もちょっと痛いですかね」
「では、痛み止めの処方をするように担当医師に伝えておきます。"金城優也"様、他にご要望などございますか?」
「いえっ、それに、様付けなんてしなくて良いですよ! 俺、別に偉くないですから。出来れば優也君、なんて呼んで頂けると嬉しいな~、なんてっ」
なんだか仰々しい感じで痒くなってきたので、もっと気安くて良いですよと、遠回しに伝えてみる。個室だからか、どこか金持ちの息子だと勘違いしているのだろう。
「そ、そんな恐れ多い事は出来ません!」
「えっ、ああ、はい……」
「も、申し訳ありません! 驚かせるつもりはなくてっ、あの、その……」
突然の大声にビックリしていると、看護士のお姉さんが俺の様子に気付いて、深々と頭を下げて謝ってきた。
だが、その様子はどこかしどろもどろで、要領を得ない感じだ。
違和感を感じた俺は、一体どうしたのか聞こうと、口を開きかけた瞬間――
「優也様に大声を出すなんて一体何事だ!! この看護士になにかされたのですか優也様っ!?」
慌てて病室に入ってきたスーツ姿の女性に遮られる。
身長は俺より高くて180cmはありそうだ。
スラリと伸びた手足。
正にモデル体型というやつか。
顔も端正で、切れ長の目は凛々しさを醸し出してる。
宝塚のトップだと言われても納得の美貌だった。
そんな人から"様"呼びの上、心配されるような身分ではないのだけど……。
「なにもされてませんよ! というか、貴女は誰でしょうか?」
「そ、そんな……優也様! 高校生になったと同時に配属になった、男性警護官の"高嶺杏里"をお忘れですか!?」
「いや、知りませんね……てか、男性警護官とは?」
意味が分からずポカンとした顔で俺が尋ねると、杏里と名乗る女性と看護士のお姉さんは、二人顔を見合せ焦りの表情を浮かべていた。
「これは大変だ……看護士! 今すぐ医者を呼んで来い!」
「は、はい!」
「不味いぞ、非常に不味い。これでもしも優也様のお身体に異常があったと分かったら、国の損失は計り知れない……」
そんな事をボソボソと言いながら呆然と立ち尽くしてしまった杏里さん。
俺になにかあれば国の損失? 男性警護官?
目覚めてから混乱する事ばかりで、頭痛が酷くなってきた気がする。
まるで異世界にでも迷いこんでしまっかのような違和感に、肝が冷える感覚を覚えていた――