4.ヒロインは可愛いだけではない
パーティーも終盤に差し掛かった頃、陛下に呼ばれた。
「一緒に行きます」とレオンが駄々を捏ねるが陛下からは一人で来るようにとのことだったので連れて行くわけにはいかない。
「すぐに戻るわ。レオンはそれまで誰かと踊っていたら?さっきから私にくっていてばかりで誰とも交流していないでしょう」
「必要ありません。あなた以外の女性など気色が悪いだけです」
相変わらずの女嫌いに私は苦笑する。
「陛下の命令に逆らうわけにはいかないわ。今回は聞き分けて」
「‥…途中まで送ります」
めちゃくちゃ嫌そうだけど何とか納得してくれたみたい。本当にどうしてこんなにお姉さん子になっちゃったんだろ。
レオンって女嫌いで毒舌だけど攻略するとヒロインだけにデレるからかなり人気だったのよね。
かく言う私もちょっとときめいちゃったりするんだよね。
姉といっても血が繋がっているわけじゃないし。義姉だもんね。
従者に案内された部屋に入る。レオンとは部屋の前で別れた。
部屋の中にはなぜかハロルドまでいた。
「よく来たな、リスティル嬢」
促されるままレオンの向かいの席に腰を下ろすとすぐに紅茶が用意された。何となくだけど嫌な予感がする。こういう予感は大概当たるのよね。
「ハロルド、今日はメロディの護衛ご苦労であった」
「いいえ。私のようなものがメロディ様の護衛をできるなど光栄です」
「そうか。メロディはどうだ?親の目から見てもなかなか愛らしいと思うのだが」
「そうですね。慣れないパーティーでお疲れでしょうに笑顔を絶やさず招待客の方たちの相手をされている姿は健気で可愛らしいと思います」
「そうだな。平民暮らしのせいで他の貴族にはなかなか受け入れられない」
貴賎があるのだから考え方や価値観もそれに影響されるのは当然のこと。だからってむやみやたらに差別をすることが良いことだとは思わないけど。
特にパーティーの時のように学がないことや元平民であることを貶め嘲笑う姿は醜いし、見ていて気分が悪い。
でもこうなることは陛下なら想定済だったはず。彼女が平民として不自由なく暮らせるようにこっそりと支援することはできた。そうせずに迎い入れたのなら貴族に受け入れてもらうための策があるのだろう。
「可哀そうなことだ。あの子は本来なら敬われるべき存在なのに」
陛下が何かおかしなことを言いだした。
「はい。パーティーでもそのような場面が見受けられました。敬われるべき方があのように貶められるなどあってはならないことです」
バカハロルドが馬鹿発言をしてきた。
陛下も陛下で満足そうに頷いているし。ここにはまともな人間がいないのか。
どうして気づかないの?
パーティーで従者は『メロディ様』と呼んでいた。『王女殿下』ではなく。つまり彼女の地位はまだ王女ではないという意味だ。
ではメロディの今の地位とは何か。それは王の妾子でしかない。
王は確かに王だが、彼は王家に婿入りした外部の人間。王妃と王の間の子であれば王妃の血も入っているので次期王として認められるし、王家の一員になれるけど彼女は平民であり王妃の血を引いていない。
そして今日のパーティーに王妃が出席していなかったことから王妃はメロディを認めていないということ。これだけでもメロディが王女になることはない。
では次期王はどうするのか。王妃の縁者を王にすればいいだけだ。現に万が一に備えて次期王としての勉強をしている。
「そこで、だ。どうだろ、ハロルド。そなたをメロディの婚約者にしては」
成程そういうことか。
私とハロルドは現在、婚約中。そしてハロルドの祖父は英雄。アグリオス公爵家の後ろ盾をメロディに与えることで他の貴族を黙らせようと。
甘いですわね、陛下。その程度で黙るほど貴族はお優しくはないのに。さて、どうしたものか。
ちらりとハロルドを見るとさすがに驚いているようだった。
「そなたとリスティル嬢は現在、婚約関係だということは知っている。けれど祖父同士の口約束から始まったものだろ。そこに男女の情があるわけではない。ならば何も問題ないのではないか?」
事実だけど人に言われるとムカつく。
「陛下、発言をよろしいですか?」
「もちろん、構わんよ。リスティル嬢。何か反論でもあるのか?」
構わないと言いながら圧力はかけてくるのね。しかも、反論など許さないとその目が語っている。
人の婚約に口を出しておいて勝手な人だ。