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「初めまして、メロディ様。私は‥…」
「美しい髪色ですわね、メロディ様」
王の挨拶が終わり、メロディに「楽しんで来い」とでも言ったのかメロディは席を離れ、会場へ降りて来た。
すると先ほどまでメロディのことを悪し様に言ってきた貴族たちが友好的な笑みを浮かべて近づいて行く。
しかし友好的なのは表情だけ。
「美しいドレスですね。どこで仕立てのですか?」
「お父様が用意してくれたので、どこのかは」
「あら、そうなんですのね。生地の種類や仕立て方で贈られた物でもどこで仕立てのかは分かりますのに」
「無名の仕立屋ではない限りね」
「‥‥‥」
メロディは困ったように微笑む。貴族女性によるマウントだ。
貴族の令嬢ならその質問に答えられるのは当然だ。だが先日まで平民として暮らしてきたメロディにそんな知識はない。分かっていて彼女たちはその質問をしているのだ。
「メロディ様のドレスはポールが仕立てたドレスですわね」
悪役令嬢としてはあまりヒロインと関わり合いになりたくないけど、こういう光景は見ていて不快だ。
それに助ける分には問題ないだろう。
「えっと」
戸惑ったように私を見るメロディの姿は庇護欲をそそるような可愛らしさがある。さすがはヒロインね。
「初めまして、メロディ様。私はリスティル・ヘザーズと言います。本日、メロディ様の護衛を任されているハロルドの婚約者ですわ」
「まぁ、ハロルド様の。ハロルド様はとても素敵な方で、彼のような方に守られていると思うと胸がときめいてしまいます」
ん?
「それはようございました」
「会場に入る際もエスコートしていただいたの。その姿が格好良くて思わずときめいてしまいました」
「‥‥‥」
メロディはハロルド狙いなのかな?
別に構わないけどレオンは良いのかな?一応、私の義弟も攻略対象者なんだけど。まぁ、レオンは女嫌いで攻略するのが一番難しいけど。私も何度失敗したことか。それにレオンは最初メロディに興味なかったもんね。ゲームの中のレオンは、だけど。
現実のレオンはどうなんだろうか?
ちらりと見ると「何?」と普段通りの様子で聞き返されたので「何でもない」と答えた。
「こういった場は数をこなせば次第になれます。それにハロルドのエスコートで多少なりとも緊張が和らいだのなら良かったですわ」
「はい。私もハロルド様のような素敵な方と婚約したいです。リスティル様が羨ましいです」
メロディ、さすがに口を閉ざした方が良いんじゃないか。
周囲を見渡すと貴族のとりわけ令嬢たちから嫌悪と苛立ちの感情が向けられていた。だって今の発言は私からハロルドをとりますよとマウントを取りに来ていると思われてもおかしくはない。
彼女は教養がないから遠回しの言い方などできない。だから彼女から発せられる言葉はストレートに受け止めていいと思う。
けれど遠回しの言い合いになれている貴族たちはメロディの言葉を深読みするだろう。
先ほどからの界隈を深読みすると『あなたの婚約者がとても気に入ったの。私、元平民だけど王の娘なの。だからあなたの婚約者を私に譲って』と読めてしまうのだ。
貴族言葉って恐ろしい。
取り敢えずこれ以上、彼女が失言をしてしまわないように話題を変えよう。
「メロディ様にもきっと素敵な方が現れますよ。暫くは慣れない生活で大変でしょうけど頑張ってくださいね」
「はい。お父様が高名な先生を私の為に雇ってくださったのです。明日から王女としての教育を受けることになっています。今までお勉強というのをしたことがなかったので楽しみです」
「‥‥‥」
王女としての教育ねぇ。
まぁ、そこら辺も学んでいくだろう。ただ陛下はどう考えているのだろう。
ゲームは所詮ゲーム。こういう複雑な背景はゲームには反映されていなかった。だから実際はどうなるか分からない。