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貴族は十五歳~十八歳まで学校に通う決まりになっている。
メロディは陛下の妾子だけど厳密に言えば王家の人間でも貴族の人間でもない。けれどお茶会の翌日、メロディは学校に入学してきた。
だけど私には関係ない。
あのお茶会ではゲームとは違うけど私とメロディは対立した。彼女と仲良くするのはバッドエンド回避への近道かもしれない。
けれどあそこまでされて仲良くなんて無理。それはヘザーズ公爵家の顔に泥を塗る行為だ。それはヘザーズ公爵家の人間として許されない。
それにメロディと仲良くしてもデメリットしかない。
「リスティル」
学年が違う。それにお茶会のことは正式に抗議した。だからメロディが自分から近づくことはないと思っていた。
なのに学校の廊下でメロディが声をかけてきた。しかもなぜか怒っている。
怒りたいのは私の方だ。何度呼び捨てにするなと言えば覚えるのだろうか。
「あなたは随分と記憶力が乏しいのですね。それとも学習能力がないのかしら?何度呼び捨てにするなと言えば分かるのかしら?」
「どうしてそんなに性格が悪いの?」
「どういう意味かしら?」
親しくない者に呼び捨てにされたくはない。それは至極当たり前のことでただそれだけで性格が悪いと言われる謂れはない。
「ハロルドに聞いたの。レオンは元々子爵家の出身だそうね」
「それが?」
「幼い頃に親元から引き取らせて、レオンが可哀そうだわ。幾らレオンの見目が良くたって、お金で人を買うなど最低な行為よ」
正義の味方気どりで私を糾弾しているつもりなんだろうけど的外れもいいところだ。
「何をどう聞いたか知りませんけど、子爵家が抱えていた借金をヘザーズ公爵家が代わりに返しただけ。確かにレオンはその代わりとして我が家に養子となりましたが強要はしていないわ」
寧ろ、向こうの親は嬉々としてレオンを差し出した。
所詮、子供などただの金づるだと思っていたのだろう。レオンには親から引き離した後借金とは別にして父が意志を確認した。
レオン本人は家に執着もなくヘザーズ公爵家の養子になることを承諾した。
「レオンは子爵家なのよ。公爵家に逆らえるわけないじゃない」
「成程。あなたは余ほどヘザーズ公爵家を侮辱したいらしい」
「そういうわけじゃ」
「ところで先ほど『子爵家は公爵家に逆らえない』と仰っていましたね。貴族の身分制度についてはお勉強されたようですわね。感心致しました。しかし、知識として身についていても使えなければ意味がない。先ほどから誰に向かって意見しているのかお分かりですか?」
「リスティルだけど」
「何言っているの、この人。ちょっと分かんないんだけど」みたいな顔は止めたら。馬鹿丸出しだから。
「リスティル・ヘザーズです。ヘザーズ公爵の息女になりますの」
「だから何よ、私は」
「あなたは王の妾子であって、王族ではありません」
「えっ」
初めて知ったみたいな顔をしているけど誰も教えなかったの?
いいえ、そんはずないわ。王は兎も角王妃がそこをしっかりと教え込むはずだもの。ということは聞き流した?
「まだまだお勉強が足りないようですわね。それと、跡継ぎがいない場合に分家から養子を貰うことはよくありますの。あなたの物言いが事実ならヘザーズ公爵家ではなく同じく養子を貰っている全ての貴族が対象となりますわね。まぁ、大変」
私は口に手を当ててわざと大袈裟に驚く。
「そうなると多くの貴族が人身売買をしているということになりますわね。だってあなたは先ほど養子をもらうことを『お金で人を買うなど最低な行為よ』と言っていましたもの。それってつまりは人身売買のことよね」
反論余地を与えずに畳みかける。
「名誉棄損、侮辱罪で多くの貴族から抗議あるいは訴えが来るかもしれませんね。こんな人の往来がある場所で堂々と宣わったのだから。因みに公爵家からは再度、抗議をさせていただきます」
にっこりと笑って私はその場を去った。




