9
「メロディ様、ご自分の発言に責任が持てますか?」
「えっ?責任も何も私は本当のことしか言っていないけど」
本気で分からないという顔をしている。
「左様でございますか。さすがはメロディ様ですね。人の婚約者を欲しがるだけある。義弟を連れているだけというのにそのような発想ができるとは感心致します。私にはできない発想ですわ」
「ひどい」
どこが?
「私が元平民だからと馬鹿にしているんですね。どうしてそんな醜い心根なの」
「貴様」
「レオン、落ち着いて」
メロディは目に涙を浮かべながら言う。
「私は折角あなたとお友達になってあげようと思っていたのに」
何で上から目線なのよ。別に頼んでないけど。
「リスティル、メロディ様を貶すのは婚約者である俺が許さないぞ。彼女の出生をみんなの前で貶すなど最低な行為だ。お前と婚約を破棄して良かったと心から思うよ」
「ほぅ」
レオンから物凄い殺気が漂ってくる。
「ハロルド卿、義姉さんを呼び捨てにするのは止めて頂きたい。あなたと義姉さんは既に婚約関係ではありません。赤の他人です」
“赤の他人”という言葉をレオンは強調して更にハロルドに詰め寄る。
「す、すまない」
仮にも騎士が一般人に気圧されるとか情けないとは思わないよ。今のレオンは戦場帰りの騎士ですらも顔を引き攣らせてしまいそうなほど恐ろしい顔をしている。
「あなたと義姉さんの婚約が破棄されたことはヘザーズ公爵家にとって僥倖でした。俺の大切な義姉さんが不幸になる未来を回避できたのですから。その点においてはあなたをご所望くださったメロディ様とあっさりと義姉さんからメロディ様に乗り換えたあなたの英断には感謝します。それでは俺たちはこれで失礼します。行きましょう、義姉さん」
「え、ええ」
レオンは私の腰を抱き寄せ、ひょいっとメロディに背を向けさせた。
「ちょっと待ってよ。まだお茶会は始まってもいないのよ。なのに帰るなんて失礼じゃない」
メロディが一歩前に出てきて憤慨する。
さっき流した涙はどこにいった?
変わり身が早いわね。女優になれるんじゃないかしら。
「先に無礼を働いたのはそっちですよ。だいたいどういう神経しているんですか?陛下を引っ張り出して婚約者を奪っておいて友達になれると?あなたみたいな人が?義姉さんとあなたでは住む世界が違うんですよ」
「無礼なんて働いていないわ!それに今までは住む世界が違っていたかもしれないけどこれからは同じ世界に住むのよ」
メロディはレオンに対して勝ち誇ったような笑みを見せる。
「あなたも今のうちに態度を変えておいた方が良いわよ。私は陛下の娘なんだから」
メロディの言葉をレオンは鼻で笑った。
「あなたは自分の立場を学ばれた方がよろしいでしょう。それでは俺たちは失礼します。お茶会への招待も結構です」
「レオン、待てよ」
ハロルドがレオンの腕を掴んだけどレオンは振り払った。
「この件は公爵家から正式に抗議させていただきます」




