1-5 自己紹介は簡潔に
よろしくお願いします
「ここが、皆さんが1年間を過ごす教室になります。
魔術の実践と近接格闘術の授業以外は、1年生は基本座学です。1年を通してこの教室で行います。備品等は破損させないようにしてください。
あと、規定の場所以外での人に害を与える魔術の使用は禁止です。校則にも載っていますので、今日中にでも、机の上に置いてある冊子をよく読んでおいてください」
式も終わり、サミーに連れられ教室にやってきたアラン達新入生は好きに席に座るように促された後、サミーからの魔導院での生活に関する説明を受けていた。
「両親や兄弟の誰かはここに通っていた、もしくは今通っているかと思いますのであまり私からうるさいことは言いません。
決まりを守ってくれればそれで構いませんので皆で充実した1年間を作りましょう。
ちなみにわかっていると思いますが、座学は全て、私、ラファエル・イザナが長女サミー・イザナが担当します、よろしくお願いします」
魔導院最初の1年は、魔術についての座学が主である。
各家で五大属性の適性や大まかな実力等は先に調べるのが暗黙の了解となってはいるが、魔導院入学前に必要以上に魔術を扱うのはあまり良しとはされていない。
魔術の危険な面をろくに知らずに使った場合、大きな事故に繋がる危険性があるためである。
たとえ入学したからと言って危険性が無くなったわけではないとして、1年を使って、危険性と起きる可能性のある事故、実際にあった事故、そしてそれぞれの対処法を頭に叩き込むのである。
その息抜きのために魔術の実践と近接格闘術の授業が存在している。
「さあ、それじゃあ自己紹介を始めましょう。名前と一言くらいでいいわ。そこの前の席から順番に後ろへ、んで前に戻ってきてを繰り返しね。順番が来たら壇上に上がること。さあ1番最初の子おいで」
皆基本的に幼学院にあたるところで一緒だったようで、自己紹介という名の身内での将来の夢発表会のようであった。
元々アランはルノーに、そうなるだろうと、つまらないノリが繰り広げられるだろうと聞いていたので真面目に聞いてはいなかった。最低限名前を覚えるだけでいいだろうと。
そして気づけば前の人の自己紹介が始まっていた。
「リン・エラド、です。私がま、魔術を使うときは、危ないので、あまり近づかないで、くれると、嬉しい、です」
背中を丸めてもなお床につきかけるような長い髪、そして目元も前髪で隠れている。第一印象は誰が見ても根暗な子と言われるであろう女の子。
アランは名前を聞いて、ルノーに聞いたことを思い出した。エラド家の娘が同期にいること、そして仲良くなるよう勧められたこと。
ルノー曰く、6賢人の身内が同期にいるのは幸運であり、仲良くなっても将来的には得しかないと。
リンは自己紹介を終えると視線を嫌うように席に戻ってきた。最後はアランの番である。
「私はリンちゃんがこんな小さい頃から知ってるからね。みんな大丈夫よ、リンちゃんは優しい子だから。さあ、最後よおいで」
「アラン・クルールです。シャルル卿に見出されてそのままお屋敷でお世話になっていました。恩返しができるように勉強を頑張りたいと思っています。よろしくお願いします」
「よーし、アラン君席に戻ってね。うん、みんな名前と顔は覚えたかな?今日はこのあと寮にみんなで行って解散になりますので、また同じ順番で並んでついてきてくださいね」
魔導院の寮は1人部屋から4人部屋まで備わっている、校舎とさほど大きさの変わらない建物である。
学生約200人が寝泊まりだけでなく趣味にも活用できる広い個室、各部屋に監督付きの広々としたトレーニングルームが多数。
そして個室にも風呂はあるが、全員が同時に入れる大浴場、同じく全員が座れる食堂等、その他、数多の目的にそった部屋が存在している。
魔導院では、最低でも4年生までは授業を受けなければ卒業を認められない。あとの2年は研究に費やす学生が大半であるが、稀にすぐにでも家を継ぐために4年で卒業していく者もいる。
4年通うことで実家に戻り研究などを続けることもできるのだが、ほぼ全ての学生が寮の方が快適であるといい離れることは無い。卒業してからもどうにか居座ろうとする学生が毎年いるらしい。
「ではここで解散となります。また明日の朝9時に教室で会いましょう。寮の部屋に教科書等届いていると思いますが、明日も何も必要ありません。
それではあとは寮監の言うことと、先輩たちの言うことをしっかり聞いて行動してください。では私はこれで」
寮の玄関ホールには多くの学生が集まっていた。玄関正面にある食堂の扉上には、入学おめでとうの垂れ幕がかけてある。歓迎パーティでもやるようだ。
「まずは、20人の新たな仲間を歓迎します。私は寮監を務めています、リュック・オナーです。
寮での決まり事は恐らく先輩たちが教えてくれると思いますが、そこにも書いて飾ってあるので見ておいてください。
それでは鍵を渡しますので名前を呼んだら取りに来て、まずはそのまま部屋に向かいなさい。
転移陣前ににいる学生が案内してくれますので。部屋が上にあるものから呼びますよ、アラン・クルール、リン・エラド、来なさい」
アランは、部屋がソフィア達3人と同じであることは聞いていた。リンと同じタイミングで名前を呼ばれるとは思っていなかったが。
「お前達2人は共に最上階だ、さあこれを持って、行きなさい」
少し周りの学生たちがざわついた。最上階は基本6賢人の親族のみが案内される部屋なのである。推薦枠の学生も最上階に案内されるのだが、滅多に使われることがないために、知らない学生の方が多かった。
アランに渡された鍵と呼ばれたそれはバッヂ状のものだった。握りしめたまま何となくリンと並んで転移陣の元に行くと、そこには満面の笑みをうかべたソフィアが待っていた。
「さあ行きましょうかアラン・クルール君、リン・エラドさん。それはバッヂになってるので制服の襟に止めておいてください。魔法陣に入って階数を唱えればすぐに着きますので。19階と唱えてくださいね」
先に行っていますと言って消えていったソフィアの後を追うように2人も転移していった。目を開くとそこにはソフィアやクリス、ニコラを含め5人の学生が大部屋の両開きの扉を開いて待っていた。
「やあ、待っていたよ2人とも。僕はディミトリ・オリヴィエ、5年生だ。今日からよろしくね。まあ僕は調べ物で忙しいからほとんど部屋からは出ないんだけどね」
「同じく5年生、ヴァン・テレサだ。ディーと同じで部屋からはほとんど出ないが何かあれば声をかけてくれ。応えよう。まあ、ソフィア嬢の方が聞きやすいだろうが」
「私達3人は面識がありますから省きますわね。さあリンちゃんおいで。ニコラ、一緒に部屋を案内するわよ。クリスはアラン君を案内してあげなさい」
大きな扉をくぐると円形の広い共有スペースがあり、そこから各個室に行けるようになっている。
7人はそれぞれ男女に別れて振り分けられた個室に向かった。
「ここが僕とアランの部屋だよ。ベットは余ってるから好きなとこを使ったらいいよ!」
「俺もディーも、たまに気分転換がてら男の雑談をしに来るからな、そんときゃよろしくな」
「はい!よろしくお願いします」
先に送った荷物はベットの上に丁寧に置かれていた。他に立派な机とイス、ベットは全4つ、簡易キッチン、シャワールームまで備え付けられている部屋だった。
「それじゃあ歓迎会もある事だし荷物の確認をしたらすぐに食堂に行こうか」
「普段よりも豪華なものが食い放題飲み放題だぜ」
「ディー先輩、主役はアランたち新入生ですからね?」
友人達と泊まりこみで生活するなど初体験のアランは、これからの生活を思い浮かべ、幸せそうに笑っていた。
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