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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
8/70

幕間3-2 6賢人

よろしくお願いします

「おや、うちの娘とは並びが順番だったようですよ」


「6賢人の推薦枠なんざ、ここ最近は誰も使ってないからねえ。6賢人の身内と推薦枠の子供が前後になるのは決まりきったことさね」


「しかし我が娘よ、背中を丸めすぎでは無いか...もう少し自信を持ってくれると嬉しいのですが」


 バルコニー席は、正面ステージの両側に、ある程度の角度をつけて設けられている。


 片方は6賢人と聖皇専用スペース、もう片方はオーケストラのスペースとなっている。


 オーケストラと言っても居るのは指揮者1人だけで楽器はひとりでに音を奏でているのだが。


「ありゃあ、うちの坊やが声をかけてどうにかなるような子なのかい?親のあんたが自信つけさせてやんないと」


「魔術の基礎だけは私が教えたのですがね、かえって私との才能の差に傷付いてしまったようでして」


「まだこれから先長いだろうに。繊細な子だねえ」


「オッホン」


「あらま、お隣さんがお怒りみたいだねぇ。話は式が終わってからにしようかね」


 式は何事もなく進んでいく。学院長の話から来賓紹介、そして新任の教師、講師の自己紹介と。


 新入生が退場し、式が終わってしまえば在学生達は授業もないので寮に帰っていく。学生が立ち上がったあとのイスはひとりでに浮かび上がり、勝手に保管場所へと飛んでいっていた。


 バルコニー席のシャルル達6賢人は部屋の出口の脇に並び、今代の聖皇を見送っていた。


「挨拶が遅れてすまなかったね聖皇様。ちゃんと食べてるかい?疲れが顔に出てるよ」


「遅れたなんて、そんなことはないさ。それと、倒れない程度には食べれてるよ。象徴たる聖皇は私1人しかいないんだ、今はまだ倒れてなんていられないからね」


「そうかい、それなら頑張りな。あたしが死ぬ前に死ぬんじゃないよ」


「ははは、私は一生死ねないじゃないか」


「聖皇様、次の予定の時間が迫っています。シャルル卿、申し訳ありませんが、お話はそこまででお願い致します」


 聖皇とシャルルの間に割り込んできたのは、聖皇付きの秘書官だった。


 聖皇は基本中央庁から動くことは無い、なぜなら中央庁にいることがそもそも仕事であるからであり、各研究室の成果や中央庁職員からの報告等は全て聖皇の出席する場で行われるからである。


 こうして中央庁を離れるタイミングがあれば、中央庁に戻る前に外での用事をなるべく全て終わらせるために予定を組むのが秘書官の役目であった。


「そりゃすまなかったね。聖皇様、お話はまた今度しようさね。ほれ行きな行きな」


「すみませんシャルル卿。ではみなさんも、お元気で」


「このまま歩きですぐ学長と合流致します。その後転移で部屋に向かいますので」


 聖皇は秘書官に連れられ早足で去っていった。


 6賢人達はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、身内を連れてきていた者はその人だけをすぐに転移させ、シャルルの元に集まった。


 皆真剣な顔をして。


「学長は防音結界を張って協力してくれるそうだよ。あの秘書官に勘づかれずに済ませたいからね。それで、時間は少ししか稼げなかったけど、どれだけ見えたんだい、テレサ卿」


「ほんの少しだけですけれど、聖皇様に定期的に魔術がかけられている痕跡は確認致しましたわ」


 集まった皆の顔がさらに険しいものになった。


 約10年前から、聖皇の様子がおかしくなった。


 その年の年初めの合議に、聖皇は皆より遅れて現れた。


 それだけならそんなこともあるだろうで済んでいたのだが、時が経つにつれ、時折目が虚ろになったり、虚空を見つめていたりすることが多くなった。


 そこで当時の6賢人達は、先代テレサ卿を中心に真相を追い始めた。中央庁に何かが起きていると。


 そんな矢先だった。6賢人の身内達が次々に襲われ、酷い場合は殺されてしまう事件が起きたのは。


「それと、あの秘書官は精巧な人形ですわね。でも糸が1本しか見えませんの、しかも細い。それであれだけ自然に動かせるなんて、そんな術師、私は先代オリヴィエ卿しか知りませんわ」


 ミシェル・テレサ、現6賢人の1人であり、初代テレサ卿が作り出した、目に見えない魔力の流れを見ることができる固有魔術オリジナルを刻印に封じ、代々継承し続けている。父親であった先代は、刻印をミシェルに継承し、賢位グランデの位階を譲った次の日、隠居先で何者かに殺害されている。


「確かにあれが本当に人形なんだとしたら、うちの先代にしかできねえだろうな。何せ刻印は継承できずに失われちまってるし、うちの家系以上の人形師なんざいねえはずだからな」


 ガロン・オリヴィエ、同じく現6賢人。代々続く人形師、魔力で編んだ糸を用いて生きている人間すらも操れる術師の家系、であったが、先代が刻印を継承する前に不慮の死を迎えたため刻印を消失。


 今代では、魔術の秘奥を再び取り戻すため、過去の資料の全てを一族総出で洗い出している。


「だが知っての通りうちの先代は亡くなってる。もし黒幕が、殺した人間の刻印を無理矢理奪えるとかいうやつなら話は別だけどな」


「魔術刻印の継承はお互いの同意と職人が必要なはずだろう?まだ恐ろしく腕のいい天才人形師が現れたって方が現実的じゃあないかな。先代達が殺された場所はみんな室内だったわけで。その天才人形師なら、使用人とか、屋敷内の人を操れるんじゃないかな」


 ジョーダン・エラド、6賢人の中で最も若い。代々エラド家の血をひくものは、初代が自らの血にかけた呪いにより、五大属性の全てに適性を持って生まれる。


 その強すぎる力を御するために幼少期から魔術の英才教育を施し、6賢人最強の名を常に守り続けている。しかしその力は呪いゆえ、徐々に血は薄まっているといえども、魔術を使う毎に緩やかに死期が早まっていく。


 事件の中で唯一、先代が他殺ではなく寿命による死を迎えている。


「ガルシア卿、何か私に言いたげだね」


「......エラド卿の力で、同じことはできませんの?」


「できない。断言しよう。私に流れている血はあくまで五大属性全てに適性を与える呪いに過ぎない。ガルシア卿、あなたのように、1つの属性をひたすらに極めた者に対して、私はその属性では勝てない、それこそ父のように、命を削って秘奥を求めでもしないと、ね」


「余計なことを言ったわ、謝罪するわエラド卿。......それと、申し訳ないけれど私はこの事件の調査から抜けるわ。それを言うために残っていたの」


 クロエ・ガルシア。賢位グランデを継ぐ前に、師司マスターの位階を与えられていた。


 家系は魔術師としてはいたって平凡であり、先代までは6賢人の中で最も弱いとさえ言われていたが、クロエが溢れんばかりの才能を持って生まれたがために、一族総出でクロエの成長をサポート。


 魔導院在学中に師司マスターになったガルシア家の至宝である。


「ガルシア家が先代を除いて、親戚含め誰も殺されてないのは、皆、魔術師としては普通だからよ。でも私の子供と夫は違うみたいなの。確定ではないけれど、見られてる気がするの。私は1人で夫とあの子を守らなきゃいけないのよ」


 クロエはそう言うと誰の返事も待たずに転移していった。文句を言う者は誰もいなかった。


「仕方がないね。あの子は1人で守らなきゃいけないものが多すぎる」


「6賢人として血を絶やすことはしてはならんからな。賢明な判断だろう」


 そう言うのは6賢人最後の1人、ラファエル・イザナ。イザナ家は転移等の汎用魔術、属性外の魔術の研究を主にしている家系である。


 今は魔眼を人工的に作りだす研究を数十年続け、成果を出しつつある。先代は他の先代達と同様変死している。私室の床に磔にされて


「我々にとっての敵が中央庁に、しかも聖皇の傍にいることがわかっただけでも進歩だろう。まあ、先代達もここまでは突き止めていたのかもしれないがね。これ以上ここに留まっているのも危ういだろう」


「そうさね。ガルシア卿には言いそびれたけど、あたしがあんたらをなるべく守ってやるからね。今度は来るのが分かってるんだ。あたしの手の届く範囲で誰も死なせやしないよ、アンリ・シャルルの名においてね」


 6賢人という存在ができて約600年、その歴史の中でも飛び抜けた魔術の才能を持って生まれたのが現シャルル家当主、アンリ・シャルルである。


 誰もが認める最強の魔術師。魔導院卒業と同時に賢位グランデを継ぎ、それから100年間、位階を親族に譲ることなく現役の魔術師として頂点に立ち続けている。


「イザナ卿の言う通り、もう潮時だろうね。テレサ卿、危ない橋を渡らせてすまなかったね」


「いえ、私にとっても先代の仇かもしれませんので」


「さあ、解散だ。勘づかれてるかもしれないからね、慎重に行動するんだよ。あたしを葬式に出席させるんじゃないよ」


 皆がそれぞれの思いを胸に秘めたまま、それぞれの屋敷へと転移していった。

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