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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
6/70

幕間3-1 フェルの受難

よろしくお願いします

「あたし達は先に学長に挨拶に行かないとだね」


「半年前から聞いていても、全く気が乗らないんですが。今の学長って、当時選択してた授業を担当してた教師のはずなんですよねぇ」


「それはあんたの自業自得ってやつさね、なんならあんたのことを覚えてる教師の方が多いんじゃないのかい?」


「それは、嫌だなあ。教師の名簿なんざ見るのも嫌で、誰がいるかとか何も分からないんですよね」


 初代6賢人の石像が置いてあるホールから伸びている廊下を歩けば、すぐそこに学長室がある。


 扉横の壁には在室中と書いた板がぶら下げてある。シャルルはその扉をノックも無しに手をかざすだけで開いた。


「邪魔するよ、エドゥアール。あたしだ」


「せめてノックくらいはしてくれないか、6賢人ともあろうお方が、下に示しがつかんだろう」


「大丈夫さね、反面教師にする弟子しかいないよ」


 部屋にいたのは多少厳つい雰囲気の眼鏡をかけ、男性にしては長い銀色の髪を、いわゆるオールバックにしている男だった。


 男は扉の正面の机で書類に印を押していたが、扉の前に来ていたのに気づいていたのだろう、驚く素振りも見せていなかった。


「シャルル卿とは中央庁で定期的に会ってるし、挨拶はさっきので十分だね」


「そうさね。あたしはこいつが逃げないように付き添ってるだけだからね」


 エドゥアールと呼ばれた男の目がフェルの方を向いた。ニコぉと音が出そうなねっとりとした笑顔で。


「やあ久しぶりだね、顔を合わせるのは卒業して以来じゃないかい?天才魔術師、フェル・デュラン君?」


「...お元気そうですね、エド先生」


「君を講師として迎え入れることに反対する教師達を抑えるために、元気にならざるを得なかっただけだよ。たとえ、シャルル卿の推薦であろうが、君の在学中の成績だけは良かろうが、ね」


「う...」


 フェルは胃がキリキリと痛み始めた。何せ反対する教師達の顔ははっきり思い浮かぶのだ、彼らを嫌々説得するエドゥアールの姿も。


「まあこんな話をしているほど暇ではないんでね、じきに式が始まる。各教師からのお小言はまた明日以降にしようか。シャルル卿、私も一緒に転移させてもらってもいいかな?」


「もちろんだよ。車椅子に捕まりな。いつもと同じ場所でいいんだね?」


「ああ。転移先は変わらんよ」


 一瞬で風景が切り替わる。そこは教師達の控え室、すなわちフェルが最も会いたくない人達の控え室となっている訳で。


 式も始まるまでもう少しということは皆集まりきっているということで。


「フェル・デュラン、たとえシャルル卿が貴様を認めても、私は貴様を認めはせんぞ。魔術の知識と腕前だけは褒めてやるがな」


「魔術の腕前だけ残して人間性の部分は削ぎ落としたいものですね。そしたら魔術戦の講師として認められないこともないでしょうに」


「卒業してから人間性は成長しましたか?あなたほどの生徒はあなたの卒業以来現れていませんからね」


 それはもうめちゃくちゃに言われているフェルを見てシャルルは声を上げて笑っていた。フェルは静かに頭を下げた。


「その節は、どうも、お騒がせしました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 控え室に異様な静寂が訪れた。


「あのフェル・デュランが頭を下げたぞ!?どういうことだ!」


「当時に謝罪を覚えていればこんなに好き勝手言われることもなかったのですよ?」


「立派に成長したのですね!先生は嬉しいです!」


 この歳になって謝罪をするだけで褒められるとは、当時の自分を殴りつけたくなるフェルであった。


「それじゃあねフェル、あたしは6賢人の席に行ってくるからあとはエドゥアールの指示に従うんだよ。エドゥアール、フェルを頼むさね。こき使ってやんな」


「ああ任せたまえ」




 シャルルが転移してきたのは式の会場のバルコニー席だ。


 そこは6賢人と国の象徴たる聖皇、そしてその連れ2人までの総勢21名のみが入ることを許されている場所である。


 魔導院の入学式は国としても一大行事であり、6賢人が全員揃う数少ないものの1つになっている。聖皇は国の象徴のため国を上げた行事には必ず出席している。


 シャルルが6賢人として公の場に出てくることは実は稀である。


 他の6賢人の家系はすでに2代は代替わりしている。うち1家は3世代差がついているのだ。


 自分がいることで若い世代にあまり気を使わせたくない、シャルルなりの気遣いである。


 席順も、聖皇を中心にする以外、特に決まってはないのだが、横並びの席の時は端に座るようにしている。


 もう既に端以外の席は埋まっていた。皆への挨拶は式の後でいいだろうと、シャルルは端の席へ自分だけを転移させた。


「お久しぶりですシャルル卿。年初めの合議以来でしょうか。お体の具合はいかがでしょうか」


「大丈夫さ、心配は無用だよエラド卿。あんたの孫の代まで面倒見てあげるよ」


 話かけてきたのは隣に座っていた6賢人の1人、ジョーダン・エラドである。20代で賢位グランデを継いだエラド家の当主であり、6賢人の中でも一際才能をもった魔術師である。


「シャルル卿は確か領民を迎え入れられたそうで、今年の入学でしたかな?」


「そうさね、確かあんたのとこの娘も今年だったか」


「そうなのですよ、私の才能と比べられることを恐れて、多少、引っ込み思案な娘なのですが、ね。できれば仲良くしてもらいたいのですが」


「あたしゃもう今日以降しばらくアランに会う機会はないだろうからねぇ、フェルに、アランに伝えるよう言っとくよ」


「ありがとうございます。私からも娘に伝えておきます」


 会場にアナウンスが流れた。


「只今より、第587期生、入学式を行います。新入生が入場します、拍手でお迎えください」

ありがとうございました

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