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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
4/70

幕間2 1度見たら忘れない

よろしくお願いします

「ルノー先生、読み終わりました」


 私の名前はルノー・ベルヴィス。


 ベルヴィス家の次男であり、偉大なる魔術師、6賢人の1人アンリ・シャルル卿の弟子である。位階を持っているおかげで中央庁に研究室も持っている。


 あんな常にフラフラしている弟子代表とは、国に対する貢献度が違うのだ。常にシャルル卿に仕事を斡旋してもらっているのは、信頼の証なのだろうが、私はやつが気に食わない。


 だが今はそれ以上に気に食わない人間がいる。私が覚えるように言いつけた事を、さも当然かのように短時間で覚えてしまう、このガキだ。


「次はこの教科書を最初から最後まで覚えなさい。君にはこういう教え方がいいみたいだからね」


「半年しかありませんからね、必死に頭に入れていかないと、この国のことを僕は何も知らないから」


 あのロジェのガキだと聞いて、最初は嘘だと思った。約10年行方不明になっていたんだ、そう簡単に見つかってたまるかと。部屋に入るまではそう思っていた。

 見れば見るほどそっくりだ。間違えようがない。外見はどこかアンナの面影もあるがあの男の幼い頃と同じ顔をしている。


 頭の中に関してもだ。あの男も文字は1度目を通すだけで記憶するような頭を持っていた。本を読み終えたというとこは覚えきったと同義なのだと、私の頭は理解を拒んでいるが、認めざるを得ないのだろう。


「本に目を通しながらでいい、私の質問に答えなさい。魔術師の6つの位階を下から順にと、授与される条件の代表的なものはなんだ」


「まずは師教メンターです。魔導院在学中もしくは卒業後に魔術に関しての論文を作成し、それが秘奥院に納められる資格のあるものだと認定された場合に授与されます」


「次は司教クルーク。論文が秘奥院に納められた場合に授与されます」


 読んでいる本から一切目を離さずに、淡々と話している姿はとても子供とは思えない雰囲気を出している


「3つ目は祭司プリースト。魔術の発動を杖等の補助無しで安定して行えることを前提とし、小規模なものであろうと固有魔術オリジナルを作成した者に授与されます」


「次の位階以降の授与条件の冒頭には全て、魔術の発動を一切の補助無く個人で行えるという文言が入るので省略しますね。」


「よかろう」


「4つ目は師司マスター。五大属性のうちいずれか1つ以上の属性の秘奥に至る、または固有魔術オリジナルを自らだけの物に昇華させた者に授与されます」


 本当にこのガキはなんなんだ、たった1回目を通しただけで全部覚えやがる。これも血筋というわけか。


「5つ目は刻司ブラント、魔術刻印を掘ることができる職人を国が保護するために贈られる名誉位階であり、職人が認めた弟子に代々引き継ぐことができる唯一の位階です」


「そして最後、6つ目は賢位グランデ。6賢人にのみ授与される位階であり世襲制です」


「教科書の丸暗記か、まあいいだろう。普通に生活していて出会う位階持ちはせいぜい祭司プリーストまでだ。それ以上となると魔導院を卒業してからでも滅多に会うことはないと思っておけ」


 一切本から顔をあげることなく、言い淀むことも無く答えきったことは素晴らしいことだ。


 それが当たり前かのような態度を取っていなければ私も褒めてやらんことも無かったのだが、このガキにとってはなんてことないのだろう。


 しかし、半年しかないと思っていたが、半年もあるに、考えを改めねばならんようだな。


 本来は皆魔導院に行ってから魔術を覚え始めるのだが、教えてはならんという決まりもない。


 ここはシャルル卿の私への評価を少しでもあげるために、本意ではないが、魔術の手ほどきもしましょうかね。


 あのロジェの子供に私が魔術を教える、やつがいたらなんと言いましたかね。多少顔を歪ませることくらいはできたでしょうか。





 シャルルの執務室、シャルルとフェルが向かい合ってお茶を飲んでいた。


「ルノーとアラン少年の父親の仲が悪かったのは面識がない私でも知っているのですが、ほんといい性格してますね、シャルル卿」


「ハッハッハ!あれはあたしの優しさだよ。ロジェとアンナが死んでからのルノーはあたしから見れば抜け殻みたいなもんだったよ。何せこんな小さい頃から競い合ってたんだ。そんな相手が急に死んで、真相も追えないってなると、なかなか辛いものがあるだろう?」


 シャルルは首に下げたロケットを取り出して懐かしそうに中の写真を見つめていた。


「しかもあの性格だ、いろいろ拗らせていそうだったじゃないかルノーは。そんなところに現れたのが行方が分からなかった一人息子だ。嫌いだなんだって言いながらしっかり面倒見てくれるはずだよ」


「そんな事情があったんですね。あなたにも優しさがあって安心しました」


「ほんとあんたは可愛げのない弟子だよ。まあだから遠慮なく仕事をふれるんだけどね」


 シャルルがロケットをしまいながら、机を指でトントンと叩くと、机の上にどこからともなく紙が現れた。


「ほら、今の仕事が終わったらまた次が待ってるよ。さっさと終わらせてきな」


「人使いが荒いばあさんだなほんとに。はぁ、ってこの指示書なんですか、アラン少年の卒業まで魔導院の講師になれって、6年も拘束されるじゃないか、しかも私あそこの教師陣から、授業態度死ぬほど不評だったの知ってるだろ!?」


 シャルルは、1番話すことの多いフェルでさえ、滅多に見ることができない険しい顔をして話始めた。


「少し、厄介なやつに勘付かれたかもしれなくてね、坊やがこの屋敷にいる間は、あたしがいるから手は出してこないだろうけどね。

 魔導院にいる時はどうしても警備に不安があるのさ。あのロジェとアンナに抵抗されながら殺せる力をもった魔術師だ。教司メンター程度の警備員じゃあ瞬殺だろうし、位階が高くても戦闘慣れしてる教員なんていないからね」


「結界内に屋敷を見張ってる挙動をしているやつがいるってことですか。しかも場所の特定は不可能と」


「さすがのあたしにも結界の境目付近まで詳細に見ることは無理だよ。だからあんたをあっちこっちに行かせてるんだ」


「私はエサというわけか」


「あんたの実力はよく知ってるから任せるんだよ。できれば釣り上げてそのままケリをつけて欲しいくらいさね」


「ケリをつければ魔導院は無しか?」


「そんな訳ないに決まってるだろう。相手が1人とは限らないし、もう魔導院の校長と話をつけてるんだ。講師役は決定してるよ」


 フェルはため息をつきながら立ち上がり、扉の前まで歩き、シャルルに向けて振り返った。


「そんなことだろうと思ってましたよ。まあ仕事はしっかりやらせてもらいます。ついでにエサの役目もはたして来ます。死んだら一生恨むからなババア」


 フェルは腹いせとばかりに扉を勢いよく開閉し立ち去っていった。シャルルはフェルが立ち去ったあともしばらく扉を見つめ続けていた。

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