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幻想の箱庭  作者: 農園
エピローグ-■■■■-
38/70

2-4 魔女と研究

よろしくお願いします

 図書館司書室、そこは以前の姿をしていない。ゆっくりお茶を飲むスペースなどある訳もなく、部屋の真ん中には正方形のもう1つの部屋、これが司書室の大半を占めている、そしてその周りに机と椅子が散乱している。


 机の上は書類で埋もれ、司書室の安息の地は仕切りの反対、キッチン周りのみとなっていた。そんな中パトリシアは、ひたすらに資料を読み漁っていた。全て魔眼についてのものである。1度全て読んではいるが、隅から隅まで再び読み返している。アランが全て禁書庫から運び出してくれたのだった。


 司書室の扉が開き、アランが顔を覗かせた。


「パトリシアさん、アランです。」


「いらっしゃい。部屋に入っててちょうだい」


 机の上の書類から目を話すことなくパトリシアは応えた。アランは中央のもう1つの部屋に入っていった。そこは椅子が置いてあるだけの何も無い部屋であった。元の司書室が完全に見えないようにするためだけに作られた部屋であり、ここで目の検証等を行っている。


 アランはそこで椅子に座り、眼帯を外した。実は自分の目を見たことは無い。見ればきっと封印が解けてしまうからと、パトリシアが止めていた。


 この目になってから2ヶ月、毎週末にここで検証を重ねている。主に魔術の破壊の仕方、優先度、そしてそれをコントロールできるかどうか。これを1番に理解しなければいつまでも眼帯を外すことができない。


 封印が解けていないのに開眼した原因の究明は後回しにしている。パトリシアでさえ、分からないとの結論しか出せなかったからである。


「今日も同じことの繰り返しよ。アラン、よろしくね」


「はい」


 パトリシアがアランの後ろに立ち、アランの前にいくつもの陣を書いた紙を並べていく。その魔術を起動し、アランに目を開けるように促す。


 1つ1つ込めている魔力が違うのであるが、どれが多いだとかはアランは分からない。そこも含めて目がどんな反応をするかを見ている。


 ただ最近はどの魔術も破壊されることが無いことも多い。そういう時は、アランに陣の線を消すイメージを作ってもらうと、ある程度は選んで破壊できるようだった。


 それをひたすらに繰り返すこと数時間、アランにも疲れが見え始めた段階で1度休憩となった。部屋から出てキッチン前の狭いスペースに置いたイスに座る。


「前にアランが言っていた、お腹が一杯って表現がピッタリかもしれないわね。目に見えて回路を破壊する速さも遅くなってる」


「もう勝手に破壊することもないですしね」


「ただ、まだ鏡を見るのはやめておきなさい。それがその目にいる何かの狙いかもしれないわ」


「あの、たぶんなんですけど、本当に何かいるかもしれません」


「どういうこと?何か変化があったの?」


「えっと、本当はもう2ヶ月前からなんですけど、目が鼓動している感じがするんです」


 パトリシアの顔付きが変わった。アランの見たこともないようなものになっている。


 パトリシアからすれば、自分の父親が残した言葉に近づける、何かの存在を知ることができるかもしれない。いくつもの考えが頭をよぎる。だが理性でそれを抑えつけた。過去の繰り返しはしないことがアンリとの約束だから。


「アラン、それは他に誰が知ってる?私だけ?」


「そう、ですね。誰にも言ってこなかったので」


「そう、2ヶ月も。他に何か違和感は感じなかった?」


「えっと、違和感」


「例えば、変な夢を見るだとか、そんな些細なことでもいいわ」


 アランの頭に1番に思い浮かんだのは、雨の度に夢で何かを見た気がすること。あくまで夢すらも見た気がする程度ではあるのだが。ここ最近は雨が降ってないため確認のしようもないのだが。


「雨が降ると、何か夢を見てる気がします。気のせいかもしれないですけど」


「雨の日に夢、ねえ。んー、1度あの中で封印解いてみましょうか」


「え?」


「夢なんてはっきりしないじゃない?今の段階でできることはやり尽くした感じはするのよね。だから、1度封印解いたらどうなるかなって思ったわけ」


 パトリシアはこれ以上ないくらいの微笑みをアランに向けた。


「別に無理強いはしないわ。1番危険なのは自分自身だもの。どうする?今すぐじゃなくてもいいわよ」


「それで、この目のことが分かるなら、やります」


「あら。決断早いわね。ほんとに、大丈夫?」


「いつかはそうしないとなと、思ってたので。それが今日きただけですから」


「そう、アランは強いのね。いいわ。1時間後に始めましょ。私も準備があるから」




 ピッタリ1時間が経つ頃、再び2人はあの部屋の中に、同じような状態でいた。パトリシアはアランの頭に手を当てている。


「さあ、いくわよアラン。これから封印を解くわ。私を、信じて」


 この魔眼の封印、普通の、一般的な魔眼と言われる部類のものであれば、既に完成されている魔眼封じという魔術を施すだけで済むのだが、この目は違った。


 パトリシアの調べたバロワ一族の研究書類によれば、魔眼とは仕組みから全くの別物なのである。


 6賢人であるイザナ家が、人工的な魔眼を作ろうとしているのは、魔眼というものが、目に魔術陣が刻まれているものだからである。それも母親のお腹の中にいる時から。


 しかしこの目は元の持ち主が死ねば、生まれ落ちた瞬間の赤子に継承されるのである。そこからバロワ一族は、これは魔眼では無いと結論づけた。そして実験の最中に、封印もその解除も特別な術式を作ることで可能にした。


 パトリシアがアランにかけた封印は、バロワ一族が作り上げ実際に使ったものよりも、さらに強く封印できるようにと、込めた魔力が段違いなのである。


 バロワ一族が作り上げた封印は、『目』という概念を、何か物を『見る』という概念だけを残して封印するという、特異過ぎるものであった。一般的な目としての機能だけを残そうという考えの元、実験を重ね作られたものである。


 パトリシアは覚悟を決めた。まさかアランから了承を得られるとは思ってもなかったので、自分の覚悟を決める時間が必要だった。


 この封印を解除するということは、今も封印が続いているはずなのに開眼した左目による、無差別の魔術破壊を実行した何かが出てくるかもしれないということである。また、アランという人格が乗っ取られはしないかという不安もあった。


 お腹いっぱいになったという表現、その通りであれば、何かが出てきても、すぐには何も起こらないはずだとパトリシアは自分に言い聞かせ、そして両目の封印を解いた。




 その瞬間、アランとパトリシアのいた場所が、牢屋のように石に囲まれた場所になり、目の前には鉄格子、その奥には果てしない暗闇が続いていた。

ありがとうございました

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