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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
32/70

1-26 邂逅

よろしくお願いします

 アランは、左目に走る激痛で目が覚めた。声も出せないままに椅子から転がり落ち、床を転がり回り、やっと痛みが落ち着いた頃には、自分のいる部屋の、壁や天井、床にまで、無数の黒い線が通っているのが見えた。


「ここは、司書室。僕は、パトリシアさんに眠らされて。それから、左目が」


 アランは顔の左側を手のひらで覆った。そうすると、見えていた黒い線が1つも見えなくなってしまった。アランはパトリシアの話を思い返した。


『回路を流れる魔力を見ることができる』


 パトリシアはよく、この部屋は安全だと言っていた。それはこの部屋だけ段違いの結界を張っているから。もしこの黒い線が魔力なのだとしたら、なんで封印が、しかも、左目だけ。


 もしかしたらパトリシアに何かがあったのか。アランはそう考えたのだが、ここにいなさいと言われている。そして、もしパトリシアに何かあったとしても、彼女を追い詰めることができる相手に自分は何ができるのだろうか。


 アランはイスに座り直し、部屋でじっとしておくことしか出来なかった。とりあえず左目は手で覆っておくことにした。


 外からは何の音も聞こえない。自分がこの事態の中心にいるはずなのに、何が起きているのかはよくわかっていない。今日以外にも、こういうことはあったはずなのに。


 その時だった。アランの耳に何かが砕ける音が聞こえたのは。部屋を見回しても何かが割れている様子はない。微かに扉の外から、何か音が聞こえてきている気もする。


「さっきまで、音なんて聞こえなかったのに」


 アランは左目を覆っていた手のひらを退けて部屋を見た。そこに見えたのは、黒い線がアランを中心に無くなっていく様子だった。そして黒い線が全て見えなくなった時、左目が、先程の痛みはなんだったのかという程に、激痛を発し始めた。




 アランを眠らせ部屋を出たパトリシアは、まず図書館の本を移動させることにした。司書室を出てすぐのカウンター下、そこにある陣に触れ魔力を流す。途端に図書館の本棚が動き始めた。


 この図書館、机やイスを除いて、全てが地下に収納できるようになっている。2階3階のものも全て。最終的に、少し分厚い壁に囲まれた長方形の空洞になった。すでに指輪は取ってあるため、天井の一部は無くなっている。イスや机は適当に壁際に吹き飛ばした。


「始まったと思ったらもう終わってるのね」


 パトリシアはそのまま司書室を出た所で待機していた。結界は全て割れ、外の4方向から魔力の流れを感じたのだが、既に何も感じれなくなっている。司書室のある方向はアンリが守っているはずなので安心している。


 その時、決して油断していた訳ではなかったのだが、正面の壁が砕け散り、破片がパトリシアへと襲いかかった。その破片と共に、ルノーを肩に担いだ、車椅子に乗っていないアンリが飛ばされてきた。


 パトリシアは咄嗟に破片を1つ1つその場に縫い止め、アンリが自分の元へ飛んで来るのを援護した。アンリはパトリシアの隣に着地し叫んだ。


「パトリシア!ルノーを治療してやっておくれ!」


 アンリは担いでいたルノーをパトリシアの前に下ろし再び飛ばされてきた方向へ突撃して行った。


「何が起きたのよ!なんであなたもそっちから吹き飛んで来るのよ!」


 とりあえずルノーの様子を見る。右腕は既に無い。右胸から右脇腹にかけて深い裂傷。ただ意識ははっきりとあるようで、自らの魔術で傷跡からの出血を抑えていた。


「ルノーと言ったわね。魔術の制御を譲りなさい。そのまま続けたら死ぬわよ」


「はぁ、はぁ...まだ...死ねんのだ...頼む」


 ルノーは、自分にかけていた魔術を解き、パトリシアに後を任せたその一瞬で意識を失ってしまった。パトリシアは終始落ち着いて、魔術で止血の処理を済ませ、最後にルノーに時間停滞の魔術をかけ、カウンター下に安置した。助けた命を死なせないように。


 昔取った杵柄。人体実験を繰り返したおかげか、人体の治療も、実験を繰り返すにつれて得意になっていた。


 処置を終え、カウンターから出たところにアンリがいた。処置をしている途中にも派手に魔術がぶつかり合う音は聞こえていたが、あのアンリがまだ決着をつけられてないことに違和感しか無かった。


「まだ終わってないの?そんなに手強いわけ?あなたが車椅子を降りるほどに」


「少しばかり、甘く見てたよ」


 アンリとしては油断はないつもりだった。ルノーの転移位置の上空へと転移すると同時に、ルノーの魔術を確認。その規模から本体と交戦したと判断し、車椅子だけ元の場所へ転移させ、自分はルノーの右横へと降り立った。


 その選択がルノーの命を繋いだ。着地したその瞬間、何かがルノーの魔術を突っ切って、そしてルノーに向けて黒い剣を振りかぶった。


 刃こぼれしたそれは、ルノーを上下に両断するかのような勢いで振られ、それに気付いたアンリがルノーを左側へと吹き飛ばした。右上半身を切られはしたが即死は免れることができた。


 アンリは斬りかかってきたそれに、ゼロ距離で風の塊と炎をぶつけ燃やしながら吹き飛ばし、距離を取った。あわよくば死んでいてくれと。そしてその隙にルノーの元へ転移、止血していたルノーを担いで安全な場所へ転移しようとした。


 確認のためにそれを吹き飛ばした方向を振り返ろうとしたその時、真横から体にとてつもない衝撃が。そして図書館の外壁を砕く程の勢いで吹き飛ばされてしまったのだった。


 ルノーをパトリシアに任せた後も、図書館の外でそれと交戦していた。魔術を撃ち合い、剣で切られては火をまとった拳で殴り返し、蹴り返し。


 アンリは殺しきれないそれに苛立ちを覚え、懇親の力を込めた風の魔術により切り刻もうとしたのだが、右手とそこに握られていた剣を残して吹き飛ばすことしか出来なかった。


 そして1度ルノーの様子を見に図書館内に戻ってきたところだった。


「今はどういう状況よ。図書館周りは?」


「奴を吹き飛ばしたのさ、遠くへね。周りはフェルとエドに任せてあるよ。2人で十分さね」


「そう。ならあれだけに集中すればいいのね。正体はわかったのかしら」


「会話もない。顔も見えない。判断できるものが1つもないね」


 図書館に空いた穴からそれは歩いてきた。羽織っていたローブは無くなり、腹の大きな縫合跡がさらに痛々しく目に焼き付く。体中傷だらけで血塗れのそれはパトリシアを見て叫んだ。


「貴様も!バロワだな!私の血が!そう言っている!なぜ!あの目を!継承者を!そこに!いるのに!ああああああああぁぁぁ!!!」


 それは血を吐きながら叫んでいた。ちぎれた右手のあった場所からは、血がとめどなく流れ落ちている。出血量で言えば死んでもおかしくない。


「狂ってるわよ?黒幕喋らせるとかは、もう無理ねあれ」


「さっきまでもずっと、殺す気で魔術を放ってるさね」


 パトリシアとアンリはそれぞれ何が起きても対応できるように身構えていた。


 死なないのは魔術的な何かだろうが、それなら死ぬまで殺し続ければいい。2人の考えはそれだった。



 そして、終わりは唐突にやってきた。



 司書室の扉が開いた。2人はその音に振り返り、扉の隙間からアランの顔に白い左目を見た。


 その瞬間、パトリシアとアンリは自分達の時が動き出したのを悟った。そしてそれと同時に、狂っていたそれは、その場に倒れ動かなくなった。


「アラン!その目を閉じて!塞ぎなさい!」


 パトリシアはアランの元へ、アンリはそれの元へそれぞれ駆け出すも、魔術が何も使えない。回路を作る傍からその回路を消されていく感覚。


 その感覚は、アランがすぐに扉のこちら側に倒れ込んだため、すぐに消え去ったが、2人はアランの目の力に恐怖を覚えた。老いを止めているが故に、その影響が大きすぎるため。


 パトリシアは急いで倒れたアランの元へたどり着き、何の異常も見られないことに安堵したのもつかの間、ルノーを見るとかけた魔術が解けている。パトリシアは急いで魔術をかけ直し、かつ自分にも魔術をかけた。


 アンリはそれの死亡を確認し、とりあえずパトリシアの近くへと転移させた。自分は歩きながら、再び老いを止める魔術を使い始めた。時間はかかるが、なるべく早いうちにと。あっけない最期ではあったが本体は死んだ。外の人形も術者が死んだことでもう動かないだろう、と。


「封印は、解けてないわ。まだ残っているもの」


「じゃあこの左目はなんだったんだい。あたしらの魔術が解けていったんだよ?」


「発動した魔術は、消せないって書いてあったはずなのに...」


「はぁ、まあいい。とにかく、あとの2人を呼んでくるさね」


「ええ、私は部屋に2人と、これを運んでおくわ」


 長い夜は、まだ終わらない。

ありがとうございました

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