幕間 性悪ババアと苦労人
よろしくお願いします
「フェル、前から行っていたことだが今日がその日だよ。あちら側にアラン・クルールを迎えに行ってもらう。拒否権はない。代理人はあんたにしてるからね」
「よりによって今日かよ...」
性格の悪いくそババア兼師匠に呼び出され、無駄に広い屋敷の廊下を歩き、部屋に入った瞬間にかけられた第一声がそれだった。
顔の前で書類をヒラヒラふりながら、他人の不幸を喜んでいるかのような笑みを向けてくる人間が、この世界の頂点に立つ6賢人の1人だと、誰が思うのか。
100歳は既に超えているはずなのに見た目は自分の歳とそう変わらない。たとえ魔術師だろうがそんなことができるのはこのババアともう1人くらいだろう。
「これが契約書、それと門の鍵往復分さね。門の魔力供給に関してはあたしがやるから、あんたは鍵をさして回すだけでいいよ。さあ、今すぐ行ってもらうからね、あたしにつかまりな」
「はぁ...」
瞬きをしてしまえば、目の前には門があった。
ただの寂れたドアが壁に立てかけてあるだけに見えるが、魔力を込めたまま鍵を差し込むことであちら側へと繋がる。原理は一切証明できていない遺物である。
「ほら、封印の指輪だよ、さっさとはめて門を通りな。こっちに帰ってくれば砕けるようになってるよ」
いつもこうだ、他人の事情なんて関係ない。それでも仕事に影響が出ない範囲でしか振り回してこないからタチが悪い。
「お別れなりがあるだろうからね、契約内容を話してから1時間は猶予をあげな。それくらいならあたしも門の前から動かなくても問題ない」
「片道切符の誘拐なんですから、少し時間がかかるかもしれませんね」
平和に過ごしてきた子供対して、育ててきたのは本当の両親では無いこと、魔術の存在、こちら側あちら側のこと、私なら1時間で納得などできるものか。
なるべく話をしてやろう、納得してついてきてもらいたいものだからな。
「ああそれとダリル夫妻にも、しっかり、伝言を頼むよ」
「あなたの口調のままではしませんがね。私の口はあんな汚い言葉を使うためにあるのでは無いのですよ」
大口開けて笑っているシャルル卿を尻目に、門に鍵を差し込み回した。
次第に向こう側の風景がはっきりとしてくる。あのババア、門をリビングに繋ぎやがったな、ダリル夫妻が目の前にいるじゃないか
「帰りは玄関に門を繋いでおくさね、頼んだよフェル」
私はため息をつきながら、門をくぐることにした。次の仕事も控えているのだ。なるべく速やかに終わらせて準備をしなくては。
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