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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
16/70

1-12 3人娘と図書館の魔女

よろしくお願いします

 その日はアランが魔導院に通い始めて、初めての休日であった。


 9時過ぎにはソフィアは友人達と、クリスとニコラもそれぞれ用事があるといって出かけていってしまった。


 ヴァンとリンは2人で魔導院へ、ディミトリは部屋から出てこない。アランは結局ここ数日間、同期で話したことのあるのはリンのみであり、友人を作ることなく休みを迎えてしまった。


 寮にこもるのも悪くはないと思いはしたのだが、魔導院では常にリンと、寮では常にソフィアといるために、初めて1人で出歩けるということに気づいた。


「ディミトリさん、僕も外出してきますね」


「行ってらっしゃい、気をつけてね」


 1人残るディミトリに声をかけ、部屋を出た。いつもの長い階段を下っていく。まだほんの数日しか経ってはいないのに、意外と慣れるものだとアランは感心していた。


「あ、アラン君だよね?1人なの珍しいね」


「ほんとだ、今日はリンさんもソフィアさんもいないね」


「どこ行くの?」


 玄関ホールには、まだ少し朝早いということもあり、まばらにしか学生がいなかったが、たまたまそこにアランの同期がいた。


「えっと、おはよう」


「おはよ!ねぇねぇ用事あったりする?」


「私達3人で魔導院のまだ見てないとこ見て回ろっかって話してたんだけど」


「今からアラン君も来ない?仲良くなろ?」


 アランは1人で出歩こうとして部屋から出たわけだったが、リン以外の友人も作らないとなと考え、誘われているなら行こうと判断した。


「じゃあ、予定もなかったし行こうかな。いいのかな?」


「よーし、じゃあレッツゴー!」


 魔導院までの道のりにて、名前は1度聞いていたが、この際だからと再び自己紹介が始まった。


 ティエリー・モロー、エラド家の収める領地にある老舗杖工房の一人娘。この年齢で既に店を継ぐことが決まっている程に、杖職人としては一流。魔導院へは顧客と結婚相手を求め入学してきた。


 エマ・エノーラ、同じくエラド家の領地から。実家は剣等の形をした補助具専門の鍛冶屋。5人姉妹の長女であり、ティエリーと同じく顧客と結婚相手を求め魔導院へ。


 イリナ・マリー。同じくエラド家の領地出身。家は代々続く商業組合の元締めを担当している。魔導院に来たのは2人が行くからである。唯一許嫁がいる。


「私達2人は結婚相手を見つけないといけないの。顧客とは別にね」


「優秀な魔術師は補助具なんて使わないから、ちょっと弱いくらいの子と仲良くしたいの。出来ればずっと」


 話を聞き続けるアランの顔は引きつっていた。イリナが思わずフォローを入れるほどには。


「アラン君は狙われないから大丈夫だよ。アンリ様つながりかな?フェル先生とも個人的に仲が良いみたいだし。口悪いけど、この子達、将来性なさそうな人にしか興味ないから」


 アランの顔は、魔導院に着く頃には、ほんの数分しか経っていないはずなのに疲れ切っていた。


 ティエリーとエマは話し始めると止まらない性格のようで、アランにずっと将来設計について語りかけていたからである。


 エマがアランを誘ったのは、仲良くなろうとしたのはほんとであるが、たまには自分以外に2人の被害者になってもらおうと考えたからであった。内心謝りながら、今度お詫びしなきゃと考えていた。


「図書館があるっていう方へ行こっか。なんか歴代の学生の論文とかあるみたいだし」


「うんうん。仕事に役立ちそうな本とかありそうだしね」


 そう言うと2人は仲良く手を繋いで歩き始めてしまった。


「ごめんなさいねアラン君。嫌だったら言ってね?」


「ちょっと疲れたけど、こうして同期と話すの楽しいから大丈夫だよ。行こっか」


 魔導院にある図書館は学生以外にも開放されていることと、その蔵書量もあり、広く作られている。目当ての本を探すのに半日かかることもあると言われているほどに。


 外から見ると綺麗な正方形をしており、3階建てとなっている。蔵書の保護を理由に窓を玄関以外に一切つけておらず、空気の循環と明かりは魔術に頼っている。


 火事に対しては、本1冊1冊に、メンテナンスの際に防護魔術をかけることで対応しているため、本は燃えない。


 持ち出しも禁止されており、図書館の真ん中吹き抜けに100人は座れる机が備わっている。本棚と本棚の間のスペースにも、立って読めるように本を置く机が置いてある。


「秘伝の書みたいなのあるのかな」


「うちとかにある一子相伝の書みたいなやつ絶対あるよね」


 ティエリーとエマの2人は図書館に着くとすぐにアランたちから離れ本を見に行ってしまった。


 エマは大きなため息をついてアランにごめんなさいと謝罪した。


「いつもこうなのよ。興味が湧いたら周りが見えなくなってね。私あの2人を叱って来るから、アラン君はどこかで待ってる?」


「いや、僕は大丈夫だから、2人についていてあげてよ。大変みたいだし、少なくとも友人にはなれたみたいだからね」


「誘っておいて本当にごめんなさい。また次はちゃんとみんなで何かしましょうね」


 エマが頭を下げ去って行ったのを見送った。


 アランはアランで、図書館に来たならと調べ物する気満々であった。自分の目のことを。


 これだけ本があるなら、いわゆる魔眼についての本もあるだろうと。


 図書館も魔導院の一部なため司書が常駐している。顔も名前も知らないがどこかにいるだろうと入口付近から探し始めた。


 上級生なのだろう。休みなので制服は来ていないが椅子が半分程度埋まる程度の人がいた。


 吹き抜けを見渡していると、机の端の方にカウンターらしき物とそこに人が座っているのを見つけた。本を読んでいるわけでなく、図書館を見渡しているように見えたので、やけに若く見えるが、担当の先生だろうと当たりをつけ、アランは話しかけに行った。


「あの、」


「どんな本を探してますか?ご案内しますよ?」


「えっと、特殊な目に、ついてなんですけど」


 食い気味に案内を提案され面食らってしまったが、何とか伝えたいことを話した。


「特殊な目、ふむ、魔眼についてですか。理由などお伺いしても?」


「えっと、僕も持っているらしくて。でも今はまだ使うなって封印されてるらしくて、どんな種類があるのかだけでも知りたいなと」


「あーなるほど。うん、わかった。来るだろうって聞いてはいたからね」


 彼女は1人でなにかに納得していたと思ったら、急に声を潜めて話しかけてきた。


「シャルル卿のとこの坊やでしょ?ちょっとついてきてちょうだい」


 そういうと立ち上がり、カウンターの後ろにあった扉を開いて手招きし始めた。


 アランは誘われるがままに部屋へと入っていった。


「ここならそんなに外に声がもれないから話せるわ。先に自己紹介ね、私はパトリシア。パトリシア・バロワよ、よろしくね。見ての通り司書をしているわ」


「アラン・クルールです。よろしくお願いします」


「ええ、知っているわ。シャルル卿から直接聞いてますし、赤子のあなたを抱いたことだってあるから」


「え、」


「彼女に老いを止める魔術を教えたのも、なんならあなたの目を封印したのも私よ」


 アランは目を見開いて驚いた。目の前にいるのはどう見てもシャルルよりも、なんならサミーよりも若い女性である。10代と言っても通る程に。


「あなたの目のことは話しちゃいけないのよね。シャルル卿とそういう契約を結んでるのよ。たぶんあなたの目のことを知っている人はみんなそのはずよ。だけれどあなたが自分で真実に辿り着くのは自由よ」


「じゃあここに僕の目のことが分かる本があるんですね?」


 パトリシアは無言でにこりとするだけだった。


「魔眼についての本は全て禁書指定をされるの。研究するのも論文を作るのも自由だけれど、それらの閲覧は制限されるのよ。危険過ぎるから。でも」


 パトリシアは立ち上がると、部屋の奥にあった扉の方へ歩いていき、懐から鍵を取り出し扉を開けた。


「この奥が禁書庫になってるわ。あなたがこんなにも早くここに来るとは思わなかったけど、もし来たら許可は出してもいいと言われているわ。どうする?」


 アランはこの日、禁書庫に入るのをやめた。思っていた以上にはやく、知りたいことを知れそうにはなったが、口外できないように契約を結んでいるというパトリシアの発言を受け、真実を知るのには相応の覚悟がいるのではと思ったからである。


 アランは司書室を出たあと、本を読むこともせずに図書館を後にした。パトリシアはいつでもいるからおいでと言ってくれたので、次は自分が生まれた頃の話を聞けたら聞こうと考えながら、もう今日は寮で過ごそうと来た道を引き返して行った。






 その日、司書としての業務を全て終わらせ、閉館作業を始めたパトリシア。


 彼女はその全盛期、禁忌の魔女と呼ばれていた。


 多数の人間を誘拐し、実験材料にして魔術の研究を進め、いくつもの固有魔術オリジナルを作り上げた。それらは全て、生贄を必要とするものであった。


 行方不明者が増え始める前から中央庁は、パトリシアを首謀者と断定し調査を進めていたが、いよいよ手がつけられなくなってしまい、当時まだ賢位グランデを継いだばかりで手柄を欲していたアンリに白羽の矢が立った。


 アンリは、魔術師としての全盛期はまだ先であったが、位階を継いだばかりで1番血気盛んな時期であった。


 パトリシアとアンリは長い間、お互いの全てを尽くして騙し合い、殺し合った。


 最終的にパトリシアの魔術師としての才能は捨てがたいものだとアンリが独断で判断し、当時の魔導院の学長と中央庁に無理を通して、図書館にその存在を縛り付ける契約を結ぶ代わりに命を助けた。


 それからアンリとパトリシアは、魔術師として高め合う友人としてお互い教えを乞う関係となった。


 例えこの図書館から出られなくとも、魔術が使えなくなった訳では無いのだが、この生活をなんだかんだ気に入ってしまっていた。


 閉館作業が終わるころにはすっかり夜も深くなり、明かりを消せば自分の手も見ることができないほどの暗闇に包まれた。


 パトリシアはその中でも何かにぶつかることも無く司書室へと入っていき灯りをつけた。


 午前中アランが座っていたイスに見覚えのある女性が座っていた。


「アランと会ったんだって?あの子も大きくなっただろう」


「そうね。ああ、目の封印はいつでも解けるわよ?あの子も自分のことを知りたいお年頃よ」


「まだ少し待って欲しいくらいだね。やっと目処がつきそうなんだ」


 その言葉を聞きパトリシアの目付きが鋭いものに変わった。


「守りたい人がいるなら最後は私を頼りなさい。私がいる限りここは聖域よ」


「あんたの口からそんな言葉が聞ける時が来るとはねぇ、歳を取らないとはいえ老けたのかい」


「そうかもしれないわね。あなたが悲しむ姿を見たくはないのよ。盟友じゃない私達」

ありがとうございました

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