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幻想の箱庭  作者: 農園
プロローグ-■■■■■■-
13/70

1-9 魔術とは

よろしくお願いします

「魔術というのは、飼い慣らすものなんだ。中途半端な知識で使おうとすれば自分に返ってくる」


 フェルは指先に火を灯しながら話を続けていた。その顔つきは、アランも初めてあった時にしか見たことの無い、魔術師の顔をしていた。


「自分に返ってくるっていうのは、例えばこの火。今は制御下にあるから熱を感じない。言わば熱を飼い慣らしている状態だ」


 フェルは、動くなよと言いながら、床に座っている学生達にその火を近づけてきた


「ほら、君たちに近づけても熱くはないだろう?これはそういう風に指定しているからだ。ちなみにこの、温度の指定だのは基本2年生以降で習う内容だ。」


 フェルは再び元の位置に戻った


「話を戻そう。今この火が指先にあるのは、火がそこで燃えるように、指定しているからだ。

 魔術とは、各過程を確実にこなすことで自分の心象風景を現実に持ってくるもの。それが崩れると、魔術を構築している世界が崩れるのと同義だ。

 世界の壊れた魔術は崩壊し、必ず自分に返ってくる。魔術の規模しだいではその周りまでも巻き込む。何がどんな風に返ってくるかは使おうとしていた魔術次第だ」


 フェルは立ち上がり火を消すと、指に光を浮かべ始めた。


「この話の続きは座学で実例を学ぶはずだよ。

 次は魔術の行使までの過程の説明だ。まずは現象指定、次に対象指定、そして位置指定。

 この3つは基礎の基礎だからな。怠ると1番痛い目を見るぞ。わかりやすいようにこの光の軌道を見ておきなさい」


 フェルは右袖を捲りあげ、義手を露出させた。


 数人、引きつった表情になる学生もいた。あのフェル・デュランが右腕を義手に代えるほどの怪我をしていたことに。


 本人はそんな反応など無視していたが。


「同じように指先に火を灯す魔術を使う。まずは私の、指先を指定する」


 言葉と同時に光が指先へと動く


「次は杖があれば必要ない過程だが、見るだけ見ていなさい。私の場合は血管を伝うイメージ。これが回路接続。補助具無しでの魔術の行使には必要不可欠な技術だ」


 右腕に数本の光が線を作りながら、光が指先へと集まっていく。


「補助具はこの過程を無くすために作成されている。魔力を生み出している心臓から補助具に向けて勝手に回路を誘導してくれるんだ。

 ただあれは接続する速度がほぼ一定であるという欠点があるんだが、まあ1年生の基礎にはそれで十分だ」


 光で作った線の上を、今度は火が線になって通っていく。そして指先にそれがたどり着いた瞬間、そこに火が灯った。


「これが魔力供給。ここで属性適性が重要になってくる。私は火と天の適性がある訳だが、今回は火を灯す魔術だからこのまま現象指定していた火が、ほらすぐについた」


 そして火を消し、また初めからやり直し、回路接続までを可視化した状態に戻した。


「今度の現象指定は水の玉だ。さっきと同じ速さで魔力を流すから、よく見ておきなさい」


 火の線は先程と変わらない速さで光の線を進んで指先にたどり着いたが、なかなか水の玉はできない。

 10秒ほど待ってやっと水の玉が指先に現れた。


「これが属性適性によって生まれる差だ。持ってない属性が使えないわけじゃない。ただ、適性がなければ数倍の時間がかかるようになる。

 ただし、汎用魔術は仕組みから違うから適性は関係ないと覚えておいてくれ」


 話がひと段落したところでサミーが箱を抱えてやってきた。


「ちょうどいいタイミングだサミー先生。皆、サミー先生から杖を受け取りなさい。制服の内側に挿す場所があるので、着替えたら忘れずに挿すことと、授業の際は必ず持ち歩くように」


「1本1本箱に入っているので、渡されたらすぐに杖を出して、空き箱は私に渡してください。その列のまま順に受け取りに来てください」


 アランは初めて杖を持ったことに少しばかり感動を覚えた。自分が魔術師としての1歩を踏み出せた気がしたからである。


 ルノーに基礎は教わっているものの、魔術を使うのは初めての経験。この半年の間にたまった魔術への興味はこの学年の中でも一際強かった。


「少し、周りの人との間隔を大きく開けて、部屋は広いからな。それじゃあこれから言われた通りにすること。

 腕を前に伸ばして、そのまま杖の先を天井に向けるように持ちなさい。これから適性を調べる。何かあっても私が対処するので慌てず騒がないこと」


 そう言うと、フェルは何か魔術を使ったようで、アランから見ると少し姿がぶれて見えていたが、それはほんの少しだけで、すぐに見えなくなった。


「最初は火と水の適性だ。これから杖の先に火と水の玉を出す。それを見てイメージを固めなさい。大きさも私のものと同じ程度のものになるように。イメージが固まったら、まずは、火よ、と唱えるんだ」


 アランの杖の先には唱えてすぐに火が灯った。初めての魔術の行使である。感動はとてつもないものだった。誰が見ても分かるくらい表情に出るほどに。


 その隣に立っていたリンは、自分に全ての適性があるのがわかっていること、そして自分が魔術を使えば必ず周りに被害を出してしまうことを思い、杖を持ったまま固まっていた。


 ただ、フェルがアランを心配し視線を向けていたため、魔術の行使をしていないリンはすぐにフェルの目に写ってしまった。


 いつの間に移動したのだろうか、アランがその火を自慢しようと隣のリンを見たとき、そこにはさっきまで少し離れて前にいたフェルが、リンの背中側から腕に手を添えていた。


「エラド卿から事情は聞いている。大丈夫だ、君は最高の魔術師になれる素質がある」


「っ!」


「君は優しいから、周りの誰かを傷つけかねないものをイメージできないのだろう。だから周りにばかり被害がいくのだ」


「え、あ」


「少し先の指導をしよう。君にはエラド家の育成方針が合わないようだからね」


 フェルは振り返り、サミーを探して指示を出した。


「サミー先生、次は水の玉を出して上げてください。それが終わったら次はつむじ風を」


「分かりました。リンちゃんはお任せします」


「ついでに隣のアランも借りていきます。必要なので」


 そう言うとフェルはアランとリンの肩を持ち部屋の端の方に移動していった。


「さて、改めてだ。リンちゃんは久しぶりだね。アランも火の適性おめでとう。そのままそこで水の玉を出してみなさい」


「はい!...水よ」


 なかなか水の玉はできない。少し沈黙が流れやっと水の玉が出来上がった。


 アランは少し不満だったが、また顔に出ていたのだろう、フェルはアランを見て笑っていた。


「適性が1つだけっていう人が1番多いんだ。何もそんな悲しむことじゃないよ」


「あ、いえ、顔に出てましたか」


「次は風だ。小さいつむじ風を起こすから2人とも見ててくれ」


 3人の少し前の床に風の渦が現れた。


「これを杖の先に出すようにイメージするんだ。ほら風よって」


「風よ!」


 風は水の玉の時と同じように時間がかかってから杖の先に出てきた。


「なるほどね。向こうでも同じ話をしているはずなんだが、あとの2つの属性、天と地は、実はもう適性が出ているんだ」


「え、どうやって分かるんですか」


「もう一度火を出してみて」


 アランは言われた通りに、火よと唱え杖の先に火の玉を出した。


「もうスムーズに出せるんだね。いいことだ。この火の玉、火っていうのは熱いものだからもちろんこの玉も熱いはずだよね?」


「はい。少しだけ熱を感じますし」


「ここで天の属性適性がある人は、火が次第に色を変えていくんだ。温度が上がっていくからね。次に地に適性があると時間経過で火は小さくなっていく」


 アランが灯した火の玉は色が変わっていく様子も、小さくなる様子もなかったが、そのままの色で少しばかり大きくなっている気がした。


「どうも天と地、両方持っているみたいだね。素晴らしいことだアラン」


「あ、そういうことなんですね。よかったぁ」


「次はリンちゃんの番だよ」


 リンは、逃げられないようにフェルにずっと肩を抱かれ固まっていた。


「リンちゃんは、地属性を重点的に学ぶべきだと私は思っている。人を傷つける行為を好まない人は私もたくさん見てきた。その人達は技師になる者ばかりだ」


 フェルはリンの頭を優しく撫でながら話しかけた。


「でもリンちゃんは6賢人の、しかもエラド家に一人っ子として生まれてしまったからには、いずれ現実に向き合わなければいけない時がくる。

 ただ今はまだ学生だからね、覚悟なんて決めなくていいんだ。これから教える魔術は、みんなを傷つけないための、守る魔術だ。それならできるね?」


「.........やってみる」


「よし、じゃあアラン、少し離れたところに立ってくれるか?」


「はい!」


 フェルはアランを結界で覆い、そのまわりに少し離して火でできた剣を複数浮かべた。


 アランは自分の周りで起きた現象に少しばかり焦りはしたが、結界があるので大丈夫だろうと、リンの心配ばかりしていた。


「今からアランに向けてあの剣を放つ。あの結界に当たるとアランに当たったのだと思いなさい。家で各属性の使い分けの説明は受けてるね?」


「うん」


「地属性の魔力をアランを中心に展開しなさい。結界をイメージして」


 その言葉がその日のアランの最後の記憶だった。

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